2020年9月19日土曜日

 

新党「立憲民主党」の結党大会でポーズを取る枝野幸男代表(中央)=9月15日撮影 Photo:JIJI© ダイヤモンド・オンライン 提供 新党「立憲民主党」の結党大会でポーズを取る枝野幸男代表(中央)=9月15日撮影 Photo:JIJI

立憲民主党と国民民主党などが合流した野党勢力が代表選を実施した。代表として枝野幸男衆院議員を選出、党名は立憲民主党に決まった。世間から見れば、まったく新鮮味がなく、期待も注目度も極めて低い状況だが、特筆すべき点がある。それはかつて「消費増税・緊縮勢力」と考えられてきた立憲民主党が、合流新党結成と代表選を境に、少なくとも減税勢力へと転換を始めたということである。(室伏政策研究室代表、政策コンサルタント 室伏謙一)

期待も注目もされない野党新党は

「帰ってきた民主党」か?

 立憲民主党、国民民主党の両党を解党し、その多くに無所属議員を加えた野党新党、党名は立憲民主党、代表は枝野幸男衆院議員ということで治まったが、「帰ってきた民主党」と揶揄(やゆ)されたり、期待もしないし、そもそも注目もしないといった見解が多かった。

 実際、安倍首相の辞任表明に続く自民党総裁選挙という実質的に次の総理を選ぶ選挙に否が応でも注目が集まり、野党新党の結成やその代表選、新たな党名決定は影に隠れてしまっていたので、関心が低くなったのは仕方がないのかもしれない。


 しかし、野党の活動への関心がもともと低かったことに原因があるのだとすれば、そもそもその責任の一旦は野党側にあると言っていいだろう。こちらも実際、このところの野党の支持率は一桁台で推移してきており、とても野党の活動に関心が集まっていたとは言い難い。

 その野党、起死回生とばかりに野党第一党の立憲民主党と第二党の国民民主党の合併話が進められてきたが、その道のりは平坦なものではなかったようだ。

 なんと言っても、立憲民主も国民民主ももともとは同じ民主党ではあるものの、例の前原誠司代表(当時)による民進党の事実上の解党と希望の党への「抱きつき心中」、そして小池百合子希望の党代表(当時)による「排除」の結果として、対立まではしなかったものの、別々の存在として生まれた政党である。

 立憲民主党は枝野代表および福山幹事長を中心に新たに結成された政党である。一方、国民民主党は、衆院選での希望の党の惨敗、代表の玉木雄一郎衆院議員への交代、そしてかろうじて参院に残っていた民進党との合流により誕生しているが、民進党は民主党の存続政党であり、国民民主党も民進党へ吸収される形で誕生しているので、同じく民主党の存続政党である。

 つまり新党と、看板を架け替えて残ってきた政党の合併ということであり、そうした点でも両党関係はさまざまな課題を抱えてきたわけであるが、本稿ではその点には立ち入らない。

 それよりもここで指摘しておくべきは、両党はそもそも一枚岩にはなりえない存在であり関係であるということであろう。それが如実に現れたのが今回の新党結成・合流劇であると言えよう。

特筆すべきは

経済政策をめぐる対立

 さて、その新党結成・合流劇の中で繰り広げられた対立劇の中で、特筆すべきは経済政策をめぐる対立である。その具体的内容とは、消費税減税をめぐるものであり、「緊縮」と「反緊縮」の対立と言っていいものである。

「消費税の減税」を主張する勢力は国民民主党であり、反緊縮についてもまた然りであるが、実は緊縮と増税賛成派の塊のように思われることの多い立憲民主党も実は一枚岩ではない。

 緊縮と増税賛成の主流派に対して、(1)一握りの幹部が差配する運営のあり方を批判し世代交代を望むグループ、(2)消費税減税を主張するグループ、の2つの非主流派がある。

(1)は必ずしも減税や反緊縮を主張するものではないようであるが、(2)については、これまでも党執行部に対して消費税減税を党の政策として採用し、政府に対して主張するよう求める動きをしてきた。

 具体的には、両党を中心とした野党統一会派の有志による勉強会「日本の未来を立て直す公平な税制を考える会」が、賛同者54人を得て、昨年12月9日に消費税減税を(ただしこの時点では税率は示さず)を含む「日本の未来を立て直す公平な税制をつくる提言書」を取りまとめ、統一会派を構成する各党・会派代表に対して提出している。

 さらに、本年3月19日には同会が、今度は賛同者72人を得て、消費税の5%への引き下げと法人税および所得税への超過累進税率の導入を柱とする提言『「経済対策」に消費税の5%減税を!』を取りまとめ、同じく各党・会派代表に提出している。

 この提言について、国民民主の玉木代表は自ら受け取ったのに対して、事務所には同会関係議員が持ち込んだが、立憲民主の枝野代表は受け取らなかったようである。しかも、統一会派で72人も署名して提言しているというのに、幹部は一応の理解は示したものの、対外的発信は行われず事実上無視した形になった。

 減税・反緊縮の主張について、やる気がある核になる人材は、若手では10人程度、ベテラン議員で5~10人程度いるようであるが、減税や反緊縮について理解はしていてもちゃんと議論ができる人材は限られるようであり、先の減税提言への署名はハードルが高かったようである。しかし、本年の提言については72人の署名を集めている。今回の新党参加者の数で考えれば半数近くである。

 それだけ「減税・反緊縮を主張すべし」とする勢力は大きいということであるが、ここで大きな問題がある。この勢力を取りまとめ、引っ張っていく、いわゆる「まとめ役」がいないことである。

 同会の代表は、一応は福田昭夫議員であるが、その役割は後見役程度であるようで、リーダーシップを発揮するまではしていないようだ。加えて、単に取りまとめ、引っ張っていくだけではなく、対外的な論戦において緊縮・増税側からの反論に的確に切り返すことができる人材であることは必須である。

 そこで、そうした人材として、特に減税・反緊縮勢力の特に若手から期待が集まったのが玉木代表であったようで、立憲の反緊縮派から手が上がらなければ、玉木議員を減税・反緊縮の筆頭として合流後の新党の代表として担ごうという動きもあったようである。

 玉木議員は、5%への減税は定額給付金10万円をもう1回配るのと同じと説明するなど、減税の効果や意味を的確に理解している。さすが元大蔵官僚である。

 しかし、ご承知のとおり玉木議員は合流新党に加わらず、「新」国民民主党を結党という決断をしてしまった。玉木議員に合流新党に参加して存在感を示してほしかった合流新党の減税・反緊縮勢力は相当落胆したようだ。

 もっとも、玉木議員は党内を動かす「政局」を作るのが苦手のようであり、玉木議員を今後減税・反緊縮勢力の頭に持ってくるためには、「役者」集めが必要ということで、そうした点も含めた同勢力の動きは着々と進められているようだ。

少なくとも

減税勢力へと転換を始めた!?

 そうした中で行われた合流新党代表選、最終的には泉、枝野両議員とも消費税減税を訴え、微妙な表現の差こそあれ、また「時限的なものである」との条件付きではあるが、税率ゼロを言及するにまでに至った。

 それまで消費税減税に否定的であった枝野議員としては大転換である。

 しかも、枝野議員、当然のことながら代表に選出されてからも減税を否定せず、選挙の争点化は否定したものの、与党側に働きかけていくとしたようだ。

 つまり、これまで増税・緊縮勢力と考えられてきた立憲民主党が、合流新党結成と代表選を境に、少なくとも減税勢力へと転換を始めたということであり、これは本来注目されるべきことである。

 むろん、旧民主党当時幹部であった議員を中心に根強い増税・緊縮勢力は健在であるので、まだまだ予断は許さないだろう。

 しかし、最近の選挙で当選した当選期数の若い議員達には減税・反緊縮を主張する議員も多く、減税を提言した会に参加し、提言に署名した議員の多くもそうした議員たちである。

 こうした議員達が党内の減税・反緊縮勢力として存在感を党内外に示していくことができれば、そして、彼らが与党内の減税・反緊縮勢力と上手に連携していくことができれば、時限的ではあるかもしれないが、少なくとも減税に向けた動きは本格化、加速化していくことになるのではないか。

 新内閣の顔ぶれや政策もそうであるが、野党の減税・反緊縮に向けた動きにも要注目である。

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