2020年11月11日水曜日

 


11月11日 よみうり寸評

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 山本周五郎の短編に、こんな台詞せりふが出てくる。〈もし秋だったらどんなに悲しかったでしょう。……木や草が枯れて、夜なかに寒い風の音などが聞えたら〉(「落ち梅記」)◆青々と色づいていた草木から、その色が消えてゆく。晩秋の光景に悲しみや寂しさが増すことはあっても、元気づけられるという話はあまり聞かない◆数少ない例だろう。〈秋に木の葉の落ちる時、その落ちたあとにすぐ春の用意がいとなまれ…〉と高村光太郎は随筆につづった。よく知られる英詩の一節「冬来たりなば春遠からじ」よりさらに早く、秋の落葉に春の萌芽ほうががあるのだと気づかされる◆これも春の兆しと受け止められよう。新型コロナのワクチンを開発中の米大手製薬会社が、臨床試験参加者の9割超で効果が確認されたと発表した。ただし安全性などで不明な点も多く、日本で接種が始まる時期は見通せない◆実用化を待ちつつ、来たる冬をしっかり耐え抜く。その覚悟を当面は固めるしかないのだろう。思えば冬を経ずに来る春はない。


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11月10日 編集手帳

 米国の大統領選をめぐる混迷はなお続く。トランプ大統領は敗北宣言をせず、2日続けてゴルフコースに出たらしい◆その映像と前後して、米国で新型ウイルスの1日の感染者数が12万人あまりと、過去最多を更新したというニュースをテレビで見た。しばらくの間、二つの外電を関連づけて考えることができなかった。トランプさんだからと、すっかり慣れてしまったからにちがいない◆少々反省しながら辞書を引いてみた。【慣れる】たびたび同じ経験をすることで、何も違和感を覚えなくなること――国民の健康危機が急拡大するなか、違和感なく受け止めてはいけないゴルフの景色だろう◆勝利宣言をしたバイデン氏は、政権移行準備に取りかかったという。もちろん大統領選で声高に叫んだコロナ対策を中心に据えている。とはいえ順調に進んでも、就任は来年1月20日まで待たねばならない。それまでは保健当局や自治体が踏ん張るのだろうが、ニューヨークなどを脅かした医療崩壊寸前の混乱が繰り返されない保証はない◆日々12万人にのぼる感染者数も慣れを排して思えば、とてつもなく怖く感じる。

 

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