医療ルネサンス
新型コロナと持病<1>生活習慣 変える機会に
横浜市の会社員男性(62)は毎年、秋から春にかけて月1、2回、北アルプスなどに登山に出かける。
「朝露でぬれた草木が朝日に照らされて黄金色に光る景色は、秋でないと見られない。冬山は、雪で白い景色が広がり、神々しい」
テントを持って尾根を縦走し、景色を独り占めにする。時には通る道が増水して川になっていたり、猛吹雪で前に進めなくなったりすることもあるが、「現地で一緒になった人と助け合って登るのも魅力」と男性。冬には山の斜面などでスノーボードも楽しむ。
男性は8年ほど前から糖尿病を患う。登山などで体を動かしていることもあり、過去1~2か月の血糖状態を示すヘモグロビンA1c(HbA1c)は、昨年春ごろは7%未満だった。
だが、今年1月は7%、国内で新型コロナウイルスの感染者が増え始めた3月は7・3%に上がった。「年が明けてから山に行けず、運動不足になっていたかもしれません」と振り返る。
近くの松澤内科・糖尿病クリニック(横浜市)に行くと、院長でかかりつけ医の松澤陽子さんに「運動をしましょう」と促された。休日に長めに散歩をするなど、意識的に体を動かすようにした。
コロナ禍でも出社を求められたが、自宅で食事を取る機会が増えた。料理が得意で、アクアパッツァや温野菜、ローストビーフなどを家族にふるまった。「外での飲み会がなくなり、食事は健康的に。家族でゆっくり食事を楽しむこともできました」。5月のHbA1cは6・8%。昨年の同時期と同じ数値に戻った。
松澤さんによると、新型ウイルスの流行で自宅で過ごす時間が長くなり、食事や酒の量が増えたり、買い置きしたインスタント食品に手が伸びてしまったりした患者が目立つという。
一方、外食の機会が減り、自宅で早い時間に夕食を食べるようになるなど、生活スタイルに良い変化がみられた人もいた。松澤さんは「寝る前に食べると血糖値が下がりにくく、体重増加にもつながります。自粛生活をマイナスととらえず、生活習慣を変える良い機会と考えてほしい」と話す。
感染を恐れてクリニックを受診せず、治療を中断してしまった患者もいた。松澤さんは「定期的に受診をし、不安なことがあれば、一人で悩まず、かかりつけ医に相談してほしい」と呼びかける。
生活習慣病などの持病がある人が新型ウイルスに感染すると、重症化しやすいといわれる。感染拡大の「第2波」に備え、どのように生活していけばよいのかを考える。
(このシリーズは全4回)