過去最強クラスと予想された台風10号に備え、九州では一時、約20万人が避難所に身を寄せた。新型コロナウイルス対策で定員を減らした避難所で満員となるケースが相次ぎ、避難先を変更したり、定員を超えて受け入れたりする事態も起きた。台風シーズンが本格化する中、対策が急がれる。(長崎支局 中尾健、鹿児島支局 鶴田明子)
コロナ対策 定員を減…自治体
異例の態勢
「自宅にいたら、けがをしていたかもしれない。避難所を利用して良かった」。長崎県・五島列島の福江島で暮らす女性(71)は、暴風で剥落した自宅の外壁を見て、自身が無事だったことに安堵した。
台風10号が5000人以上の死者・行方不明者を出した伊勢湾台風(1959年)に匹敵するとの予測を報道で知り、初めて避難所に身を寄せた。自宅のことは心配だったが、「周りに知り合いがいて安心できた」と振り返る。
気象庁は台風10号が発生した翌日の9月2日から連日、複数回の記者発表を行うなど異例の態勢で避難を呼びかけ、「経験したことがない暴風」「想定を超える現象が起こる」などと強調した。合同で記者会見した国土交通省も六つの河川を挙げ、氾濫する可能性があるとした。
自治体の反応も早く、鹿児島県の離島からなる十島村では4日、高齢者らをヘリコプターで鹿児島市へ送る島外避難を開始。離島以外でも避難所を開設する動きが広がった。
自治体は台風接近とともに避難指示や勧告を早い時期から出し、読売新聞の取材では、7日午前9時時点で、指示・勧告対象は九州全7県で約773万人にのぼり、約19万5000人が避難所へ移った。各地のホテルも満室となり、親族宅などに避難した人も相当数にのぼるとみられる。
昨年の20倍
国は4月以降、新型コロナ対策で「3密」を避ければ収容人数が大幅に減るため、避難所の増設やホテル、旅館の活用などを自治体に求めている。
福岡県久留米市は今回、収容人数を減らすなどした分、避難所数を50から63か所に増やし、検温などを担当する職員も2倍以上にした。避難所には6日以降、昨年9月の台風17号の20倍近くにあたる約5000人が訪れ、1か所を増設したり、近隣の避難所に誘導したりしたが、14か所が満員になった。市民からの問い合わせも急増したという。
住民の受け入れに課題も残った。
鹿児島県奄美市では5日、75か所のうち9か所が満員となった。定員を従来の半数にした施設では、70人になった時点で受け入れを断り、職員が近くの空いている避難所を紹介。鹿児島では姶良市や日置市でも一部の避難所で満員寸前となり、近くの避難所を案内するなどした。
最大約5000人が避難した鹿児島市では、13か所が定員を超えて受け入れた。強風の中での移動は危険と判断したという。鹿児島県の塩田康一知事は7日、「避難者の見込みと開設の状況などにミスマッチがあった可能性があり、今後(対応を)検討していきたい」と述べた。
「不足公表を」
各自治体は新型コロナと災害の複合災害を防ごうと、避難計画の見直しなどを進めている。しかし、避難所に適した場所や宿泊施設が少ないケースもあり、模索が続いている。
静岡大学の牛山素行教授(災害情報学)は「コロナが収束しない中、今回の避難者数や避難所の混雑具合を把握し、検証することは重要だ。自治体には、避難所の不足があれば率直に公表する意識も必要ではないか。住民は親族宅など避難先の多様な選択肢を考えておくことも大切だ」とする。
コンテナや立体駐車場 活用案
コロナ禍での避難対策として、仮設避難所や避難所の隔離部屋に、コンテナ型ホテルを活用しようという自治体が相次いでいる。
昨秋の台風19号で約730世帯の浸水被害があった栃木県足利市は、「3密」になりやすい避難所で集団感染を防ぐ手立てとして、コンテナ型ホテルを運営する「デベロップ」(千葉県市川市)と、災害時の利用について協定を締結した。市では、コンテナを避難所や医療拠点に設置し、体調不良者の隔離部屋などとして活用する。
1棟のコンテナには、約13平方メートルの1部屋(定員2人)に、ベッドやユニットバス、トイレなどがある。被災地への迅速な移動も可能だ。同社によると、同様の協定を全国の22自治体と結んでおり、さらに20自治体ほどと締結に向け協議しているという。
一方、車での避難用に車中泊ができる一時滞在場所の確保に努める自治体も。
昨年10月の台風19号で浸水被害を受けた埼玉県東松山市は、商業施設の立体駐車場や高台にある動物園の駐車場を、車中泊が可能な避難場所として使用できる取り組みを始めている。市危機管理課は「これまではエコノミークラス症候群などの関係で車での避難は推奨していなかったが、対応を変更した」としている。
5年前の関東・東北豪雨で、最大1300人以上が避難所で過ごした栃木県小山市は、複数の事業者と交渉し、計1000台以上の駐車スペースを確保した。(宇都宮支局 井上暢)