2020年7月7日火曜日

136万人に避難指示…熊本で49人死亡・福岡でも死者1人

みなと小学校に取り残されて一夜を明かし、自衛隊員にボートで救出された児童ら(7日午前8時23分、福岡県大牟田市で)=浦上太介撮影
みなと小学校に取り残されて一夜を明かし、自衛隊員にボートで救出された児童ら(7日午前8時23分、福岡県大牟田市で)=浦上太介撮影
 梅雨前線が停滞した影響で九州北部は7日午前、非常に激しい雨が降り続いた。河川の氾濫などが起き、読売新聞のまとめでは、同日正午現在、福岡や長崎、熊本など5県で計約136万人に避難指示が出された。福岡県では死者1人が確認されたほか、4日の豪雨では熊本県では49人の死亡が確認されている。熊本、鹿児島両県によると計12人が行方不明になっており、捜索活動が続いている。
 九州北部の雨について、気象庁は6日午後4時30分、福岡、佐賀、長崎の3県に「大雨特別警報」を発表。7日午前11時40分に3県とも「警報」に切り替えたが、同庁は「土砂災害や河川の氾濫の発生に油断することなく、市町村が発令する避難勧告などに従って身の安全を確保してほしい」と呼びかけている。雨は8日にかけて降り続く見通し。
筑後川近くで冠水した道路(7日午前10時15分、大分県日田市で)
筑後川近くで冠水した道路(7日午前10時15分、大分県日田市で)
 7日正午までの1時間の最大雨量は、熊本県南小国町で82ミリ、大分県日田市で80・5ミリ、佐賀県嬉野市で55・5ミリ、福岡県大牟田市で51ミリを観測した。
 読売新聞のまとめでは7日正午現在、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分県で約136万人に避難指示が出された。福岡県では約4000人が避難所に身を寄せている。
 福岡県は7日、大雨で浸水した同県大牟田市の住宅で田中春子さん(87)の死亡が確認されたと発表した。
 国土交通省は7日午前8時35分、筑後川上中流部で氾濫が発生したと発表。大分県日田市で周辺の住宅が浸水するなどの被害が出ているという。同県警日田署によると、午前7時48分頃、日田市天瀬町で「70歳代の女性が川に流された」と知人男性から署に通報があった。女性は玖珠川に流されたとみられ、署が捜索を続けている。
 筑後川は、福岡県久留米市、うきは市、朝倉市、大刀洗町でも氾濫して浸水する恐れがあるという。
 同省は7日午前、大分県と熊本県にまたがる下筌しもうけダムの水位が上がったとして、筑後川水系の津江川に緊急放流をした。下流には別のダムがあり、直ちに氾濫の危険性はないという。
 一方、熊本県山鹿やまが市消防本部によると、7日午前6時45分頃、同市小原で通行人から「車が浸水し、車内に取り残されている人がいる」と119番があった。車内にいた男女2人の死亡が確認され、県警が豪雨との関連を調べている。
 交通機関の乱れも続いた。JR九州は、九州新幹線の熊本―鹿児島中央駅間で終日運転を見合わせ、九州自動車道や長崎道、大分道など高速道も、一部区間で通行止めとなっている。


朝乃山
© デイリースポーツ 朝乃山  「大相撲7月場所」(19日初日、両国国技館)
 新大関朝乃山(26)=高砂=が7日、七夕の願いとして「優勝」、「コロナに負けない」と語った。7月場所へ向け、稽古も本格化させ、若い衆相手に相撲も13番取って、調整した。
 稽古後、電話での代表取材に応じ、「(初日まで)2週間は大事。6月の稽古よりも一段階、気合が入る。夏場所が中止になったけどいつもと同じ気持ち」と、力を込めた。
 新型コロナウイルスの影響で出稽古が禁止。部屋の幕下力士と番数を重ねることで、自身の調整に加え、若い衆の力も引き出す。「幕下のホープが何人かいるので、関取に上げるのも自分の役目。そういうふうに稽古をしていく」と、責任感をあふれさせた。
 新大関の化粧まわしは新たに2本。東京の個人後援会から贈られたのは白地に「昇り龍」が描かれた。「すごくいいデザイン。7月場所にできあがったので着ける」と話した。
 前日、リモート会見でも話したが、大関の実感は複雑。「きのうの記者会見でも、関取と言われてきたのが、今は大関と言われるのでそういうところで実感する」。一方で「やっぱりこの状況なので外にも出られないし、まだないですね」と、話した。
 それでも、月給が大幅アップしていたのは、びっくり。「やったーという感じ。子供みたいな反応でしたね」と笑わせた。
 大幅昇給で自身への“ご褒美”として「ヨギボー」を購入した。中にビーズが入ったソファーで最高のリラックス。ダブルでお値段は3万円。「人を駄目にするソファーですね。人を駄目にするクッションですね。買ったときは布団にダイビングするんじゃなくてヨギボーにダイビングしてました。このヨギボーはいろんなタイプあるが、子どもたちには大人気ですね。家にあったら。買っている家があれば犬もヨギボーにたぶん座っていると思います」と、自室ではもう手放せない相棒だ。

7月7日 よみうり寸評 



 〈測り難きは天の心〉と、幸田露伴が書いている。小説『五重塔』の終盤、塔の落成式を控えた夜に大嵐が襲う名高い場面である◆〈人の心の平和を奪へ平和を奪へ〉という〈天魔〉の叫びとともに〈夜叉やしゃ〉が暴れ出す。土石を飛ばし、橋を揺るがし、軒の瓦を踏み砕き、二階をじ取り…暴風雨で町が壊れていく描写がすさまじい◆これも夜叉の類いの所業だろう。記録的と言うべき九州の大雨がなおやまない。積乱雲が連なる線状降水帯が猛威をふるう暴れ梅雨である◆熊本県の被災地が痛ましい。豪雨禍の犠牲者が時を追って増えていく。孤立している集落もあるが、捜索、救助活動を度々雨が阻む。避難所に逃れた人にもコロナ禍の不安が待っていよう。浸水被害が広がる九州北部も含め、住民の身の安全を祈るばかりである◆居座る前線は依然、活発らしい。列島はあすにかけて大雨がつづく恐れがあるという。最大限の警戒をと書きつつ、つい思う。なぜこうもむごい仕打ちを繰り返すのか…天の無慈悲が恨めしい。
増水した筑後川のライブカメラ映像=7日午前、大分県日田市(国土交通省九州地方整備局提供)© 時事通信 提供 増水した筑後川のライブカメラ映像=7日午前、大分県日田市(国土交通省九州地方整備局提供)  九州北部では梅雨前線の影響で7日午前も猛烈な雨が降った。気象庁は福岡、佐賀、長崎各県の一部に出されていた大雨特別警報を警報に切り替えたが、この雨の影響で河川の氾濫や土砂崩れなどが各地で発生し、福岡県と熊本県北部で計3人が死亡、大分県で1人が行方不明となっている。熊本県南部で4日朝にかけて発生した被害と合わせ、九州地方の豪雨による死者は計52人となった。
大雨の被害でがれきが残る球磨村=7日午前、熊本県© 時事通信 提供 大雨の被害でがれきが残る球磨村=7日午前、熊本県  福岡県大牟田市樋口町では6日夜、浸水した住宅で女性(87)が心肺停止状態で見つかり、死亡が確認された。現場近くには諏訪川が流れており、周辺が広範囲に浸水している。
 同市上屋敷町では小学校と公民館に開設された避難所2カ所が、周辺道路の冠水により孤立。県は避難者救助のため自衛隊に災害派遣を要請した。同市では消防などに、浸水した民家から救助を求める通報が相次いだ。
 熊本県北部の山鹿市では、水没した車の中から80代の男女2人が意識不明の状態で見つかり、死亡が確認された。
 大分県日田市天瀬町では、浸水した民家で70代女性が流され、行方が分からなくなった。市内では筑後川が氾濫し、現場近くの住宅地で約30人が孤立。山間部では土砂崩れが発生した。
 熊本県南部の被災地も、前日に引き続き雨に見舞われた。気象庁は6日夜、熊本県のほぼ全域に大雨警報と土砂災害警戒情報を出し、7日夕方まで土砂災害などに警戒を呼び掛けた。
 7日未明には、被災者の生存率が大きく低下するとされる発生後72時間を経過。同県南部ではこれまでに死者49人、心肺停止2人が確認され、11人が行方不明となっており、二次災害を警戒しながら懸命の捜索が続けられた。
 道路の寸断や通信障害のため、被害の全容は依然判明していない。特に球磨川が流れる山間部にある球磨村は、川の氾濫や土砂崩れにより村全域の78地区1432世帯が孤立状態となっており、自衛隊や警察などが通行確保に向け作業を行っている。 
工場の倉庫が焼け警察官ら4人の遺体が見つかった火災を受け、記者会見するレックの担当者=7日午前、静岡県庁© KYODONEWS 
 工場の倉庫が焼け警察官ら4人の遺体が見つかった火災を受け、記者会見するレックの担当者=7日午前、静岡県庁  静岡県吉田町の「レック静岡第二工場」の倉庫が焼け、警察官ら4人の遺体が見つかった火災を受け、家庭用品メーカー「レック」(東京都)は7日、静岡県庁で記者会見した。出火当時、工場で保管していた製品の原料は危険物に該当せず、出火の原因とは想定できないと説明した。
 同社によると、火災が発生した5日午前2時すぎに工場1階部分から爆発音がして、大量の煙が発生したという。
 工場では家庭用洗剤や重曹の袋詰めなどをしており、倉庫で原料や商品を保管していた。休日は作業員は出勤しないことが多いが、4日は午後5時ごろまで作業が行われていた。



新型コロナ、東京都内で新たに106人の感染確認=報道© 
 東京都内で新たに106人の感染確認=報道 [東京 7日 ロイター] - フジテレビなど国内メディアは7日、東京都内で新たに106人が新型コロナウイルスに感染していることが確認されたと伝えた。100人以上は6日連続。
フジによると、20代の感染者は53人という。


韓国でコロナ重症患者に両肺の移植手術、快方に向かう© Reuters/HANDOUT 韓国でコロナ重症患者に両肺の移植手術、快方に向かう [安養(韓国) 7日 ロイター] - 韓国で新型コロナウイルスに感染した50歳の重症患者に112日間、生命維持装置の体外式膜型人工肺(ECMO)が使用され、その後に両肺の移植手術が実施された。患者は快方に向かっている。病院側が発表した。
新型コロナ患者へのECMO使用期間としては世界最長で、新型コロナ発生以降の肺移植手術は世界で9件目だという。
患者は2月下旬に入院。ECMOは患者から取り出した血液を酸素化し、体内に戻す仕組み。
翰林大学校聖心病院の医師によると、抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」や抗エイズウイルス薬「カレトラ」、ステロイド剤での治療を試みたが、患者の肺繊維症の悪化は食い止められなかったという。
このため、残された選択肢は肺移植にほぼ限定された。
手術の執刀医は、ECMOの治療を受けている患者に対する肺移植手術の成功率は50%だったと明らかにした。
同院によると、新型コロナ発生以降、肺移植手術は中国で6件、米国とオーストラリアで各1件、行われている。

口閉ざすエビ売りの女性 武漢で最初の一人を探した

有料会員記事 新型コロナウイルス
武漢=平井良和、宮嶋加菜子
2020年7月1日 5時00分




【動画】昨年末の中国・武漢。当時誰も知らなかったウイルスはどう広がっていったのか。世界的な感染爆発を防ぐことはできなかったのか。パンデミックの序章を振り返る。


[PR]

 人類が半年前に知ったばかりのウイルスは、世界の1千万人以上に感染し、50万人を超える犠牲者を出している。災禍はどう始まり、どう広がっていったのか。連載「コロナの時代」の新たなシリーズは「パンデミックの序章」。感染の拡大が始まった中国・武漢を歩き、謎のウイルスの存在を捉えるまでの道筋や、ヒトヒト感染の認定に二の足を踏んだ中国の初期対応を検証する。
拡大する写真・図版コロナの時代 パンデミックの序章㊤/デザイン・加藤啓太郎

年末のかきいれ時、喧騒の中の「異変」

湖北省武漢市の都市封鎖が解け、間もなく3カ月になる。魏、呉、蜀の三国時代をはじめ中国史の舞台となってきた長江中流域の1千万都市は、ようやく活気を取り戻そうとしている。
 中心部の大通りにも絶え間なく車が行き交うが、漢口駅近くの道の両側には約200メートルに及ぶ青いバリケードが残る。隙間からのぞく看板はほこりまみれで、その下に「魚」や「蟹(かに)」といった字が読み取れる。
拡大する写真・図版看板から「華南海鮮卸売市場」の文字は消され、バリケードによる封鎖が続いている=2020年6月6日、中国・武漢市、平井良和撮影
半年前に閉鎖されるまで、ここに華南海鮮卸売市場があった。5万平方メートルの敷地に魚介、干物、食肉などを売る店が千軒以上ひしめく巨大市場だった。世界をのみこんだ新型コロナウイルスの最初の集団感染は、ここで発生した。
 昨年12月31日、市当局は初めて「原因不明の肺炎患者が27人いる」と発表。その多くが市場の関係者だとした。リストを入手したという中国メディアは、一番早い発症は50代女性の12月11日だったと伝えていた。
 新型ウイルスはどこから来たのか。最初の感染者だったかもしれないその女性を探した。
「最初の感染者」を探して、記者は現場を訪ね歩きました。取材を進めると、どのように感染が広がっていったのか、少しずつわかってきました。
市場周辺の住民から市場で働い… 8日、武漢大学人民病院の呼吸内科副主任、余昌平(53)は、別々の地域に暮らす患者から共通の症状が出ていることに気づいた。
 余は朝日新聞の取材に、「医師ならば誰もがヒトからヒトへの感染を疑う状況だった。私も心の中でそう思った」と証言する。

職場異なる男女がパーティー、8人感染…京都市「クラスター発生」

 京都市は4日、20~30歳代の男女9人が新型コロナウイルスに感染したと発表した。うち8人が同じパーティーの参加者らで、市はクラスター(感染集団)が発生したとして注意を呼びかけた。他の1人は感染経路不明。京都府内の感染者数は計400人となった。
 市によると、パーティーは6月27日に市内の飲食店で開催され、14人が参加。4日は市内の20歳代男女6人と、2次会に使ったバーの20~30歳代の男性従業員2人の感染が確認された。
 参加者の感染は2日に陽性が確認された20歳代女性ら計10人となり、うち1人は東京都在住。14人は職場が異なる知人だという

第33期竜王戦]挑戦権かけ実力者激突 



 将棋の第33期竜王戦は予選にあたるランキング戦が終了した。将棋界の最高位と賞金4400万円をかけて、豊島将之竜王・名人に挑戦する棋士は誰か。タイトル通算100期を目指す羽生善治九段、ランキング戦4期連続優勝の新記録を打ち立てた藤井聡太七段に注目が集まる。きょう6日、開幕する本戦を豊島竜王・名人に展望してもらった。(文化部 吉田祐也)

「本命は羽生九段と藤井七段」…豊島竜王・名人の本戦展望

竜王戦決勝トーナメントを展望する豊島将之竜王・名人(6月27日、読売新聞東京本社で)=宮崎真撮影
竜王戦決勝トーナメントを展望する豊島将之竜王・名人(6月27日、読売新聞東京本社で)=宮崎真撮影

 ――本戦出場者が出そろいました。トーナメント表の左の山をどう見ますか。

 豊島 月並みな言い方ですが、実力者がそろっています。羽生九段が山の最後に待ち構える形で、下から勝ち上がることは大変そうです。

 ――羽生九段は通算タイトル100期に向けての好機だと思いますが。

 豊島 羽生九段は全盛期とそんなに変わらない力だと考えています。好奇心旺盛な方なので、最新の戦法だけでなく、将棋ソフトがあまり評価しない戦法も試している印象です。

 ――関東の若手棋士3人に対する評価は。

 豊島 石井六段の将棋に強さを感じます。受けに自信を持っていて、自玉が薄くても見切りが良く、相手の堅陣を崩す技術にたけています。梶浦六段は着実に力をつけていて、高野五段は昨年、新人王戦で優勝しました。師匠の木村王位に似て、辛抱強い棋風です。

 ――重厚なメンバーが3人並ぶ「1組の壁」をどう見ますか。

 豊島 木村王位、佐藤九段、羽生九段は長年、棋界を引っ張ってきた棋士で、総合力が高い。若手棋士の勢いをもってしても、3人を打ち負かすことは容易ではありません。左の山は1組の棋士の勝ち抜きが有力と見ています。

 ――二つのタイトル戦に挑戦中の藤井七段がいる右の山をどう見ますか。

 豊島 世間から注目されている藤井七段の存在は気になります。先行逃げ切り型の丸山九段、戦略にたけた佐藤七段との対局は激戦必至です。特に竜王戦で挑戦経験もある丸山九段はトーナメント戦の勝ち上がり方を熟知しています。藤井七段をもってしても、序盤の作戦負けは避けたいところでしょう。

 ――純粋な関西勢は久保九段だけですが。

 豊島 本戦に関西棋士の名前が少なく、少し寂しいです。ただ、久保九段は百戦錬磨の実力者です。佐々木七段はランキング戦の苦しい将棋を終盤力でひっくり返し、調子も良さそう。振り飛車VS居飛車の好勝負が期待できそうです。

 ――ズバリ、トーナメントを勝ち抜く本命は。

 豊島 羽生九段と藤井七段が本命です。対抗は、久保九段、木村王位。ダークホースは佐々木七段でしょうか。

 ――少し先にタイトル保持者になっているかもしれない藤井七段の現在の将棋をどう見ていますか。

 豊島 本当に、めちゃくちゃ強いです。残り時間が少ない終盤で間違えないのはすごいこと。1年前より棋力が上がっています。タイトル戦の棋聖戦など大舞台でも、普段通りの実力を発揮しています。

 ――挑戦者を待つ立場として、どう過ごしますか。

 豊島 夏場に勝ち上がった棋士が絞られてきたら、徐々に作戦を練ろうと思います。

 【豊島将之竜王・名人 30】 令和最初の第32期竜王戦七番勝負で広瀬章人八段を破り、史上4人目の竜王・名人同時保持者となった。「序盤、中盤、終盤、隙のない将棋」と評され、鋭い攻めが持ち味だ。趣味はバスケットボール・NBAの試合観戦。「とよぴー」のあだ名があり、女性ファンが多い。

藤井七段、強豪・丸山九段と対局

 竜王戦本戦の注目局、藤井聡太七段―丸山忠久九段戦は24日に東京・千駄ヶ谷の将棋会館で行われる。丸山九段は名人経験者で、タイトル獲得3期の実績を持つ強豪だ。両者は初対局となる。藤井七段は「本戦で結果を残せるように、一局一局、集中して戦いたい」と意気込む。

 1組で優勝し、勝ち上がりをじっくり待つ立場になった羽生善治九段。左の山の準決勝は8月13日に同所で行われる。勝利すると挑戦者決定三番勝負進出となり、通算タイトル100期が視野に入る。それでも、羽生九段は「挑戦への道のりは容易ではありません。気を引き締めて指したい」と話している。

佐藤七段、渡辺三冠破り驚き 西山女流三冠 女性初の4強…ランキング戦回顧

 藤井聡太七段の師匠で、ランキング戦3組準優勝と結果を出した杉本昌隆八段=写真=に、1~6組のランキング戦を振り返ってもらった。

 ――お弟子さんとの3組決勝は、世間の話題となりました。

 杉本 一棋士として優勝を目指しましたが、内容としては完敗でした。師弟対決を実現できて、十分に役目は果たせたかなと思っています。今期の藤井七段の勝ち上がりは、危なげがなかった。過去3年のランキング戦と比べても、序中盤の安定感が違う。本戦での活躍を見守りたいです。

 ――1組は羽生九段が貫禄を示して優勝しました。

 杉本 1組は指し盛りの20、30代の棋士が本戦出場を逃し、波乱含みでした。羽生九段は読みが深くて正確。存在感は圧倒的です。目を引いたのは、佐藤七段の躍進です。40代にして初の1組。初戦で渡辺明三冠を破り、驚きを与えました。3~5位は久保九段、佐藤九段、木村王位が年下の棋士をねじ伏せて、健在をアピールしました。

 ――2組はどうですか。

 杉本 佐々木七段の優勝には勢いを感じます。関東の若手代表格だけに、結果が欲しかったでしょう。丸山九段も本戦入りし、得意とする「一手損角換わり」の切れ味を見せつけました。

 ――4組の結果は。

 杉本 関西勢では、船江六段、都成六段が気を吐きましたが、関東の若手棋士がしぶとく勝ちました。竜王経験者の谷川九段が4組にいるということが、降級しやすいランキング戦の厳しさを表しています。

 ――5組は若手棋士の優勝争いに。

 杉本 梶浦六段は、このところ伸びている関東の若手棋士で、師匠から期待されていると聞いています。関西の若手棋士も、負けずに切磋琢磨せっさたくましてもらいたいです。

 ――6組は将棋ファンの注目を集めていました。

 杉本 何と言っても西山女流三冠が女性初のベスト4に入り、5組昇級まであと一歩に迫りました。粗削りな将棋で序盤に難があるタイプですが、終盤力は男性棋士の中でも上位に入るとみています。西山女流三冠の活躍は将棋を指す女性の励みになると思います。優勝した高野五段は、師匠(木村王位)の頑張りに刺激を受けたことでしょう。勝負の世界ですが、弟子の活躍はうれしいものです。

藤井七段 師に恩返し…杉本八段 衣装も将棋も秘策

感想戦で杉本昌隆八段(右)との対局を振り返る藤井聡太七段。藤井七段は6月20日、第33期竜王戦ランキング戦3組決勝で杉本八段を95手で下し、2度目の「師弟対決」を制した(大阪市福島区の関西将棋会館で)
感想戦で杉本昌隆八段(右)との対局を振り返る藤井聡太七段。藤井七段は6月20日、第33期竜王戦ランキング戦3組決勝で杉本八段を95手で下し、2度目の「師弟対決」を制した(大阪市福島区の関西将棋会館で)

 史上初となる竜王戦ランキング戦4期連続優勝を達成した藤井七段。今期の3組決勝は師匠の杉本昌隆八段との2度目の公式戦で、大舞台できっちり弟子は師匠に「恩返し」を果たした。

 藤井七段は「竜王戦ランキング戦決勝という大舞台で師匠と対局できる喜びを感じていました」という。この弟子の意気が伝わったか、杉本八段は和服で対局に臨んだ。藤井七段は「意表の一手でした」とユーモアをまじえて話す。

 対局は居飛車VS振り飛車の対抗形となり、後手の杉本八段は練習将棋でも藤井七段に見せたことがない、秘策の△6二金型を投入した。「初めて指された形なので、かなり時間を使いました。師匠の駒組みが丁寧で隙がなく、なかなか動く形が見つからなかった」と藤井七段は振り返る。

 長い中盤戦が続き、藤井七段は▲6六角=図=と、攻防の自陣角を放った。棋士室で本局を検討していた畠山鎮八段は「この角は四方に利いていて、後手の指し手に制約をかけている。渋い好手で卓越した大駒の使い方です」と称賛した。この後、杉本八段が動いていったものの、無理気味の攻めをとがめて優位に立った藤井七段はリードを拡大し、押し切った。

 終局直後の対局室で藤井七段は「押し引きが難しかった」としみじみ語った。目を閉じ、師弟対決の余韻に浸る瞬間があった。

 ■本戦出場者

手つきゆったり 王者の風格…1組優勝 羽生善治九段 49

 2017年に「永世竜王」の資格を得て前人未到の「永世七冠」を達成した。苦手な戦型がないオールラウンダーで、ゆったりとした手つきに王者の風格が漂う。

 「1組優勝という結果を出せたことはよかったですが、ここからが本当の勝負と思っています」

42歳で初本戦 振り飛車得意…1組2位 佐藤和俊七段 42

 42歳にして本戦初出場という遅咲きの棋士で、振り飛車を得意とする。趣味はサッカー。足が速く、キック力もあり、将棋界の「キングカズ」の異名を取る。

 「1組の対局は手応えのある内容だった。本戦でも納得のいく将棋を指せるように準備したい」

5年連続出場 さばき鮮やか…1組3位 久保利明九段 44

 ベテランの域に入りながらも本戦は5年連続出場と、華麗なる振り飛車は健在。「さばきのアーティスト」と称され、大駒を鮮やかに活用する将棋だ。

 「若手棋士の将棋を研究しながら最新の戦術を取り入れ、振り飛車に活路を見いだしています」

スタミナ無尽蔵の長考派…1組4位 佐藤康光九段 50

 日本将棋連盟会長という激務の中、対局では無尽蔵のスタミナを発揮し、最前線で活躍する。無類の長考派で、定跡にとらわれない天衣無縫の駒組みが持ち味。

 「同世代の羽生九段、丸山九段の戦いに刺激されました。一つでも多く勝って、よい夏にしたい」

昨年王位獲得「中年の星」…1組5位 木村一基王位 47

 昨年、王位を獲得して最年長初タイトルの記録を打ち立てた「中年の星」だ。力強い受けが得意で、長期戦にも強く、「千駄ヶ谷の受け師」の異名を取る。

 「弟子(高野五段)が勝ち上がって師弟対決が実現したら、たっぷりかわいがってあげます」

無邪気なジュネーブ生まれ…2組優勝 佐々木勇気七段 25

 ジュネーブ生まれの美男子で無邪気な性格。「横歩取り勇気流」という新戦法を編み出した。「天然キャラ」で「力うどん」をさらに「餅入り」で注文したこともある。 「3年前の本戦で負かされた久保九段は強敵です。対振り飛車の感覚を磨いてぶつかりたい」

夜戦に備え 唐揚げ増量…2組2位 丸山忠久九段 49

 将棋の戦法は独自路線を歩み、いつも笑顔を絶やさない「丸ちゃん」は、イケメンゆえにCM出演も果たしている。大食漢で「唐揚げ増量」などで夜戦に備える。

 「藤井七段はとても充実している大変な強敵です。得意戦法を改良して、精いっぱい指します」

2棋戦タイトル挑戦 充実…3組優勝 藤井聡太七段 17

 将棋界の最年少記録を塗り替え続けるスター棋士。現在、2棋戦でタイトルに挑戦していて充実の夏を過ごす。長考派で、持ち時間5時間の竜王戦とは相性がいい。

 「丸山九段は序盤巧者なので、駒組み負けしないように早い段階から集中して指したい」

イシケン 武骨な受け得意…4組優勝 石井健太郎六段 28

 今期ランキング戦で六段昇段を決め、初の本戦出場も果たした。学生時代のあだ名「イシケン」が棋界でも定着している。武骨な受けが得意で、堅実な棋風だ。

 「初の本戦なので緊張感もありますが、じっくり手厚い将棋という持ち味を出して活躍したい」

コツコツ勉強実り連続本戦…5組優勝 梶浦宏孝六段 25

 コツコツ型の「カジー」は勉強が実り、2期連続本戦出場。ボードゲームの「パンデミック」が趣味で、コロナ禍以前から、クラスターなどの用語を知っていた。

 「高野五段とは日頃から練習将棋をしていて、手の内は知っている。負けたくない相手です」

「料理男子」初の本戦出場…6組優勝 高野智史五段 26

 粘り強い棋風で勝ち上がり、初の本戦出場。2勝すると師匠の木村王位との対局が実現する。料理が得意で、クッキーなどのお菓子も作る本格的な「料理男子」だ。

 「一つ一つ勝って師弟戦を実現できれば、自身が色めき立つ状況を生み出せると思います」