7月7日 よみうり寸評
〈測り難きは天の心〉と、幸田露伴が書いている。小説『五重塔』の終盤、塔の落成式を控えた夜に大嵐が襲う名高い場面である◆〈人の心の平和を奪へ平和を奪へ〉という〈天魔〉の叫びとともに〈夜叉 〉が暴れ出す。土石を飛ばし、橋を揺るがし、軒の瓦を踏み砕き、二階を捻 じ取り…暴風雨で町が壊れていく描写がすさまじい◆これも夜叉の類いの所業だろう。記録的と言うべき九州の大雨がなおやまない。積乱雲が連なる線状降水帯が猛威をふるう暴れ梅雨である◆熊本県の被災地が痛ましい。豪雨禍の犠牲者が時を追って増えていく。孤立している集落もあるが、捜索、救助活動を度々雨が阻む。避難所に逃れた人にもコロナ禍の不安が待っていよう。浸水被害が広がる九州北部も含め、住民の身の安全を祈るばかりである◆居座る前線は依然、活発らしい。列島はあすにかけて大雨がつづく恐れがあるという。最大限の警戒をと書きつつ、つい思う。なぜこうもむごい仕打ちを繰り返すのか…天の無慈悲が恨めしい。
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