2020年7月7日火曜日

第33期竜王戦]挑戦権かけ実力者激突 



 将棋の第33期竜王戦は予選にあたるランキング戦が終了した。将棋界の最高位と賞金4400万円をかけて、豊島将之竜王・名人に挑戦する棋士は誰か。タイトル通算100期を目指す羽生善治九段、ランキング戦4期連続優勝の新記録を打ち立てた藤井聡太七段に注目が集まる。きょう6日、開幕する本戦を豊島竜王・名人に展望してもらった。(文化部 吉田祐也)

「本命は羽生九段と藤井七段」…豊島竜王・名人の本戦展望

竜王戦決勝トーナメントを展望する豊島将之竜王・名人(6月27日、読売新聞東京本社で)=宮崎真撮影
竜王戦決勝トーナメントを展望する豊島将之竜王・名人(6月27日、読売新聞東京本社で)=宮崎真撮影

 ――本戦出場者が出そろいました。トーナメント表の左の山をどう見ますか。

 豊島 月並みな言い方ですが、実力者がそろっています。羽生九段が山の最後に待ち構える形で、下から勝ち上がることは大変そうです。

 ――羽生九段は通算タイトル100期に向けての好機だと思いますが。

 豊島 羽生九段は全盛期とそんなに変わらない力だと考えています。好奇心旺盛な方なので、最新の戦法だけでなく、将棋ソフトがあまり評価しない戦法も試している印象です。

 ――関東の若手棋士3人に対する評価は。

 豊島 石井六段の将棋に強さを感じます。受けに自信を持っていて、自玉が薄くても見切りが良く、相手の堅陣を崩す技術にたけています。梶浦六段は着実に力をつけていて、高野五段は昨年、新人王戦で優勝しました。師匠の木村王位に似て、辛抱強い棋風です。

 ――重厚なメンバーが3人並ぶ「1組の壁」をどう見ますか。

 豊島 木村王位、佐藤九段、羽生九段は長年、棋界を引っ張ってきた棋士で、総合力が高い。若手棋士の勢いをもってしても、3人を打ち負かすことは容易ではありません。左の山は1組の棋士の勝ち抜きが有力と見ています。

 ――二つのタイトル戦に挑戦中の藤井七段がいる右の山をどう見ますか。

 豊島 世間から注目されている藤井七段の存在は気になります。先行逃げ切り型の丸山九段、戦略にたけた佐藤七段との対局は激戦必至です。特に竜王戦で挑戦経験もある丸山九段はトーナメント戦の勝ち上がり方を熟知しています。藤井七段をもってしても、序盤の作戦負けは避けたいところでしょう。

 ――純粋な関西勢は久保九段だけですが。

 豊島 本戦に関西棋士の名前が少なく、少し寂しいです。ただ、久保九段は百戦錬磨の実力者です。佐々木七段はランキング戦の苦しい将棋を終盤力でひっくり返し、調子も良さそう。振り飛車VS居飛車の好勝負が期待できそうです。

 ――ズバリ、トーナメントを勝ち抜く本命は。

 豊島 羽生九段と藤井七段が本命です。対抗は、久保九段、木村王位。ダークホースは佐々木七段でしょうか。

 ――少し先にタイトル保持者になっているかもしれない藤井七段の現在の将棋をどう見ていますか。

 豊島 本当に、めちゃくちゃ強いです。残り時間が少ない終盤で間違えないのはすごいこと。1年前より棋力が上がっています。タイトル戦の棋聖戦など大舞台でも、普段通りの実力を発揮しています。

 ――挑戦者を待つ立場として、どう過ごしますか。

 豊島 夏場に勝ち上がった棋士が絞られてきたら、徐々に作戦を練ろうと思います。

 【豊島将之竜王・名人 30】 令和最初の第32期竜王戦七番勝負で広瀬章人八段を破り、史上4人目の竜王・名人同時保持者となった。「序盤、中盤、終盤、隙のない将棋」と評され、鋭い攻めが持ち味だ。趣味はバスケットボール・NBAの試合観戦。「とよぴー」のあだ名があり、女性ファンが多い。

藤井七段、強豪・丸山九段と対局

 竜王戦本戦の注目局、藤井聡太七段―丸山忠久九段戦は24日に東京・千駄ヶ谷の将棋会館で行われる。丸山九段は名人経験者で、タイトル獲得3期の実績を持つ強豪だ。両者は初対局となる。藤井七段は「本戦で結果を残せるように、一局一局、集中して戦いたい」と意気込む。

 1組で優勝し、勝ち上がりをじっくり待つ立場になった羽生善治九段。左の山の準決勝は8月13日に同所で行われる。勝利すると挑戦者決定三番勝負進出となり、通算タイトル100期が視野に入る。それでも、羽生九段は「挑戦への道のりは容易ではありません。気を引き締めて指したい」と話している。

佐藤七段、渡辺三冠破り驚き 西山女流三冠 女性初の4強…ランキング戦回顧

 藤井聡太七段の師匠で、ランキング戦3組準優勝と結果を出した杉本昌隆八段=写真=に、1~6組のランキング戦を振り返ってもらった。

 ――お弟子さんとの3組決勝は、世間の話題となりました。

 杉本 一棋士として優勝を目指しましたが、内容としては完敗でした。師弟対決を実現できて、十分に役目は果たせたかなと思っています。今期の藤井七段の勝ち上がりは、危なげがなかった。過去3年のランキング戦と比べても、序中盤の安定感が違う。本戦での活躍を見守りたいです。

 ――1組は羽生九段が貫禄を示して優勝しました。

 杉本 1組は指し盛りの20、30代の棋士が本戦出場を逃し、波乱含みでした。羽生九段は読みが深くて正確。存在感は圧倒的です。目を引いたのは、佐藤七段の躍進です。40代にして初の1組。初戦で渡辺明三冠を破り、驚きを与えました。3~5位は久保九段、佐藤九段、木村王位が年下の棋士をねじ伏せて、健在をアピールしました。

 ――2組はどうですか。

 杉本 佐々木七段の優勝には勢いを感じます。関東の若手代表格だけに、結果が欲しかったでしょう。丸山九段も本戦入りし、得意とする「一手損角換わり」の切れ味を見せつけました。

 ――4組の結果は。

 杉本 関西勢では、船江六段、都成六段が気を吐きましたが、関東の若手棋士がしぶとく勝ちました。竜王経験者の谷川九段が4組にいるということが、降級しやすいランキング戦の厳しさを表しています。

 ――5組は若手棋士の優勝争いに。

 杉本 梶浦六段は、このところ伸びている関東の若手棋士で、師匠から期待されていると聞いています。関西の若手棋士も、負けずに切磋琢磨せっさたくましてもらいたいです。

 ――6組は将棋ファンの注目を集めていました。

 杉本 何と言っても西山女流三冠が女性初のベスト4に入り、5組昇級まであと一歩に迫りました。粗削りな将棋で序盤に難があるタイプですが、終盤力は男性棋士の中でも上位に入るとみています。西山女流三冠の活躍は将棋を指す女性の励みになると思います。優勝した高野五段は、師匠(木村王位)の頑張りに刺激を受けたことでしょう。勝負の世界ですが、弟子の活躍はうれしいものです。

藤井七段 師に恩返し…杉本八段 衣装も将棋も秘策

感想戦で杉本昌隆八段(右)との対局を振り返る藤井聡太七段。藤井七段は6月20日、第33期竜王戦ランキング戦3組決勝で杉本八段を95手で下し、2度目の「師弟対決」を制した(大阪市福島区の関西将棋会館で)
感想戦で杉本昌隆八段(右)との対局を振り返る藤井聡太七段。藤井七段は6月20日、第33期竜王戦ランキング戦3組決勝で杉本八段を95手で下し、2度目の「師弟対決」を制した(大阪市福島区の関西将棋会館で)

 史上初となる竜王戦ランキング戦4期連続優勝を達成した藤井七段。今期の3組決勝は師匠の杉本昌隆八段との2度目の公式戦で、大舞台できっちり弟子は師匠に「恩返し」を果たした。

 藤井七段は「竜王戦ランキング戦決勝という大舞台で師匠と対局できる喜びを感じていました」という。この弟子の意気が伝わったか、杉本八段は和服で対局に臨んだ。藤井七段は「意表の一手でした」とユーモアをまじえて話す。

 対局は居飛車VS振り飛車の対抗形となり、後手の杉本八段は練習将棋でも藤井七段に見せたことがない、秘策の△6二金型を投入した。「初めて指された形なので、かなり時間を使いました。師匠の駒組みが丁寧で隙がなく、なかなか動く形が見つからなかった」と藤井七段は振り返る。

 長い中盤戦が続き、藤井七段は▲6六角=図=と、攻防の自陣角を放った。棋士室で本局を検討していた畠山鎮八段は「この角は四方に利いていて、後手の指し手に制約をかけている。渋い好手で卓越した大駒の使い方です」と称賛した。この後、杉本八段が動いていったものの、無理気味の攻めをとがめて優位に立った藤井七段はリードを拡大し、押し切った。

 終局直後の対局室で藤井七段は「押し引きが難しかった」としみじみ語った。目を閉じ、師弟対決の余韻に浸る瞬間があった。

 ■本戦出場者

手つきゆったり 王者の風格…1組優勝 羽生善治九段 49

 2017年に「永世竜王」の資格を得て前人未到の「永世七冠」を達成した。苦手な戦型がないオールラウンダーで、ゆったりとした手つきに王者の風格が漂う。

 「1組優勝という結果を出せたことはよかったですが、ここからが本当の勝負と思っています」

42歳で初本戦 振り飛車得意…1組2位 佐藤和俊七段 42

 42歳にして本戦初出場という遅咲きの棋士で、振り飛車を得意とする。趣味はサッカー。足が速く、キック力もあり、将棋界の「キングカズ」の異名を取る。

 「1組の対局は手応えのある内容だった。本戦でも納得のいく将棋を指せるように準備したい」

5年連続出場 さばき鮮やか…1組3位 久保利明九段 44

 ベテランの域に入りながらも本戦は5年連続出場と、華麗なる振り飛車は健在。「さばきのアーティスト」と称され、大駒を鮮やかに活用する将棋だ。

 「若手棋士の将棋を研究しながら最新の戦術を取り入れ、振り飛車に活路を見いだしています」

スタミナ無尽蔵の長考派…1組4位 佐藤康光九段 50

 日本将棋連盟会長という激務の中、対局では無尽蔵のスタミナを発揮し、最前線で活躍する。無類の長考派で、定跡にとらわれない天衣無縫の駒組みが持ち味。

 「同世代の羽生九段、丸山九段の戦いに刺激されました。一つでも多く勝って、よい夏にしたい」

昨年王位獲得「中年の星」…1組5位 木村一基王位 47

 昨年、王位を獲得して最年長初タイトルの記録を打ち立てた「中年の星」だ。力強い受けが得意で、長期戦にも強く、「千駄ヶ谷の受け師」の異名を取る。

 「弟子(高野五段)が勝ち上がって師弟対決が実現したら、たっぷりかわいがってあげます」

無邪気なジュネーブ生まれ…2組優勝 佐々木勇気七段 25

 ジュネーブ生まれの美男子で無邪気な性格。「横歩取り勇気流」という新戦法を編み出した。「天然キャラ」で「力うどん」をさらに「餅入り」で注文したこともある。 「3年前の本戦で負かされた久保九段は強敵です。対振り飛車の感覚を磨いてぶつかりたい」

夜戦に備え 唐揚げ増量…2組2位 丸山忠久九段 49

 将棋の戦法は独自路線を歩み、いつも笑顔を絶やさない「丸ちゃん」は、イケメンゆえにCM出演も果たしている。大食漢で「唐揚げ増量」などで夜戦に備える。

 「藤井七段はとても充実している大変な強敵です。得意戦法を改良して、精いっぱい指します」

2棋戦タイトル挑戦 充実…3組優勝 藤井聡太七段 17

 将棋界の最年少記録を塗り替え続けるスター棋士。現在、2棋戦でタイトルに挑戦していて充実の夏を過ごす。長考派で、持ち時間5時間の竜王戦とは相性がいい。

 「丸山九段は序盤巧者なので、駒組み負けしないように早い段階から集中して指したい」

イシケン 武骨な受け得意…4組優勝 石井健太郎六段 28

 今期ランキング戦で六段昇段を決め、初の本戦出場も果たした。学生時代のあだ名「イシケン」が棋界でも定着している。武骨な受けが得意で、堅実な棋風だ。

 「初の本戦なので緊張感もありますが、じっくり手厚い将棋という持ち味を出して活躍したい」

コツコツ勉強実り連続本戦…5組優勝 梶浦宏孝六段 25

 コツコツ型の「カジー」は勉強が実り、2期連続本戦出場。ボードゲームの「パンデミック」が趣味で、コロナ禍以前から、クラスターなどの用語を知っていた。

 「高野五段とは日頃から練習将棋をしていて、手の内は知っている。負けたくない相手です」

「料理男子」初の本戦出場…6組優勝 高野智史五段 26

 粘り強い棋風で勝ち上がり、初の本戦出場。2勝すると師匠の木村王位との対局が実現する。料理が得意で、クッキーなどのお菓子も作る本格的な「料理男子」だ。

 「一つ一つ勝って師弟戦を実現できれば、自身が色めき立つ状況を生み出せると思います」

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