10月7日 編集手帳
スペインの大女優ヌリア・エスペルさんは日本語が読めるのだという。かつて来日したおり、地震にも気づかず、夢中で絵本を読む姿を劇作家の井上ひさしさんが随筆に書き留めている◆その本とはイラストレーターの和田誠さんが、なぜか文のみを書いた『おさる日記』(絵・村上康成)である。船乗りのお父さんから土産におさるをもらった子供が、成長日記をつけていく…◆いわゆるネタバレになるので詳述はしないが、大女優に「こんな面白い本があるなんて。最後のどんでん返しがすごい」と言わしめたそうである◆ほんわかした絵が人気だった和田さんが83歳で亡くなって、きょうで1年になる。東京都内のギャラリーに著作を集めた「和田誠書店」が時を限って開業するという(6日夕刊東京版)。記事を読んでうれしく思った。人柄の伝わる温かみのあるエッセーや映画通として書いた本が並ぶらしい。往時、映画の監督や作曲も手がけている。驚くほど多方面で活躍した和田さんは、次代に伝えたい希代の文化人だろう◆エスペルさんはこうも言ったという。レオナルド・ダ・ビンチみたいな人ね。