◆改革の全体像と手順を明確に◆ 感染症が蔓延する世界的な危機の中で、7年9か月ぶりの首相交代である。新政権は、様々な困難を克服し、経済再生を果たさねばならない。
菅内閣が発足した。菅首相は記者会見で「国民のために働く内閣を作る」と述べ、各分野で改革を断行する方針を示した。再任が多く、派手さはないが、安定性を重視した堅実な布陣と言えよう。
新型コロナウイルスの感染拡大は、デジタル化の遅れや組織の連携不足など、日本の政治、経済、社会の各分野に解決すべき課題が多いことを浮き彫りにした。
◆国民の理解が不可欠
首相は、省庁の縦割りを打破し、規制改革を進めるという。その方針は妥当だが、まず改革の全体像と手順、具体策を示すことが不可欠だ。国民の理解を得ながら取り組むべきである。
新政権の人事では、自民党総裁選後、麻生太郎副総理兼財務相と二階俊博幹事長の再任が真っ先に固まった。前政権を内閣と党で支えた2人の続投で、政治の安定を図る狙いがあるのだろう。
内閣の要である官房長官には、厚生労働相として感染症対策に当たってきた加藤勝信氏を起用した。同じポストへの再任は8人に上り、閣内での横滑りは3人、初入閣は5人だった。
総裁選を戦った岸田文雄前政調会長と石破茂元幹事長は、重要ポストに登用しなかった。岸田派、石破派の議員を閣僚に起用することで配慮したとみられる。
最優先の課題は、感染の抑止と経済活動の両立である。
西村康稔経済再生相が引き続きコロナ対策に当たる。加藤官房長官や再登板となる田村憲久厚労相らと連携し、効果的な手立てを講じなければならない。
首相は、検査や医療体制を拡充し、メリハリの利いた感染対策を行うという。PCR検査は思うようには増えていない。様々な目詰まりを解消し、いかに流行を抑え込むか、重要な試金石となる。
行政・規制改革相に、河野太郎氏を防衛相から横滑りさせた。抵抗を排する突破力への期待があろう。携帯電話料金の引き下げは、武田良太総務相が担う。
デジタル庁創設に向けて、平井卓也氏をデジタル改革相として再入閣させた。関連する部署は現在、内閣官房や経済産業省、総務省などにまたがっている。
地方自治体にもかかわる行政のデジタル化をどう進めるか。それにふさわしい組織はどうあるべきか。総合的な戦略を示して計画的に実施してもらいたい。
経済を成長軌道に乗せるには、前政権で不十分に終わった成長戦略を改めて描き直し、着実に実行に移すことが必要だ。
◆成長戦略をどう描くか
麻生氏と西村氏のほか、梶山弘志経済産業相、赤羽一嘉国土交通相らも続投させた。
年末に向けて企業の倒産を防ぎ、雇用維持を図るのはもちろん、景気を底上げしていくことが責務である。事業者への切れ目ない支援に努めてほしい。
2021年度予算編成では、コロナ対策と夏の東京五輪・パラリンピックをにらみ、歳出圧力が強まるのは確実だ。中長期的な財政健全化にも目を配ることが大切である。
「自国第一主義」が世界に広がり、米中の対立も激化している。日本には、国際協調の体制を構築する努力が求められている。
首相は外交経験が浅く、手腕を不安視する向きもある。日米同盟を基軸に、「自由で開かれたインド太平洋」構想をさらに具体化していくべきだ。
日本周辺の安全保障環境は厳しい。他国からの攻撃が切迫する事態に備え、ミサイル防衛の強化を検討することは、前政権からの課題だ。安倍前首相の実弟である岸信夫氏の防衛相起用は、議論を前進させる意図があろう。
◆衆院解散の時期が焦点
党役員人事では、麻生派の佐藤勉総務会長や細田派の下村博文政調会長ら、総裁選で首相を支援した5派閥からの登用が目立つ。
佐藤、下村両氏は、首相と同じく1996年衆院選で初当選した。首相が信頼する議員を党務の要職に置き、首相官邸と党や国会との連携を強めたいのだろう。
焦点は、衆院解散・総選挙の時期である。麻生財務相はすでに早期解散に言及している。
首相は総裁選で大局的な政権構想を示したとは言えない。新内閣で実績を作った上で、信を問うのか。政策の推進力を得るために、早期に解散して国民の審判を受けるのか。決断が迫られよう。