ウィズコロナ時代の新しい旅行のかたちとして普及し始めたオンラインツアー。自宅にいながらにして各地の景色や観光施設などを擬似的に楽しめるサービスだが、利用の仕方によっては家族と溝が生じることもあるようだ。オンラインツアーにハマった夫に憤る60代主婦に、フリーライターの吉田みく氏が聞いた。
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「主人がオンラインツアーにハマって困っています」──そうため息交じりで話してくれたのは、千葉県在住の専業主婦・野辺まりなさん(仮名・63歳)。最近の夫の行動に困っているという。
オンラインツアーとは、インターネット環境が整っているところからであれば気軽に参加することができる疑似旅行である。国内・海外ともに、各旅行会社などからサービスが提供されている。新型コロナウイルス感染拡大防止による自粛生活をきっかけに、人気が高まりはじめた。今では、新しい旅行の形としても浸透しつつある。
1時間程度のカジュアルなもの、ライブ配信を使ったリアルなものまで幅広く展開されている。中には、事前に現地の食事やワークショップの材料を自宅に届け、オンラインツアー中に楽しめるという工夫がされているものもあるようだ。無料〜3000円以下の参加料で楽しめるツアーが多くあり、注目が集まっている。
「無趣味な夫に趣味ができたと思って嬉しかったのですが、『そろそろオンラインツアーの時間だ』といって食事を中断したり、安いからといって料金を考えずに参加したりするんです。定年を迎えていますので、出費がかさむのが心配です」(野辺さん、以下同)
先月の利用料金は1万5000円。参加回数は無料のものを合わせると、20回近いのではないかという。気に入ったツアーには複数回参加しているそうだ。夫のお小遣いは月1万円なので5000円オーバー。足りない分を補うため、コレクションしていたDVDをリサイクルショップへ持って行ったが、ほとんど値が付かなかったらしい。現在、お小遣いの前借り中とのこと。
最近では、長年関係が続いている友人たちと一緒にオンラインツアーに参加しているようで、賑やかな声がリビング中に響き渡っているそうだ。
「『旅行気分を味わいたい』といって、昼間からビールを飲む姿にも呆れます」
オンラインツアーが終わればリビングでいびきをかいて昼寝。野辺さんの趣味である韓国ドラマ鑑賞が邪魔されていることもあり、イライラが募っているという。野辺さんはオンラインツアーに参加しないのだろうか。
夫を旅行に誘ったが…
「オンラインツアーもいいですが、私は実際に旅行へ行きたいタイプです。現地の食事を楽しむ、気候を感じる、そして旅の思い出にお土産を買ってご近所さんに配りたいんです。喜びをシェアするまでが私の旅行といえるかもしれません」
そのため、オンラインツアーでは少し物足りなさが残ってしまうそうだ。新型コロナがなければ、娘と旅行を計画していたらしい。
「私も旅行は大好きですから、夫の趣味を否定するつもりはありません。でも、参加する頻度と態度が気に入らないんです。タスクを処理するかのようにポンポン参加して、ちゃんと思い出になっているのか……。それよりも私はGo Toキャンペーンを利用して、本当の旅行へ行きたいです」
野辺さんは夫に旅行の提案したのだが、夫からは「もう少し感染者数が落ち着いてからにしよう」と言われてしまったそうだ。しかしまだ諦めてはおらず、現在も旅行の提案をし続けているんだとか。
リーズナブルな価格で気軽に参加できるオンラインツアー。旅行会社のホームページを見てみると、魅力的なツアーがずらりと並んでおり、野辺さんのご主人がハマってしまうのも納得できる内容ばかりだった。コロナ禍の今、オンラインツアーか、現地に足を運ぶ旅行か、という二者択一を迫られたら判断は難しいところである。
野辺さんの一番の不満は、オンラインツアーに参加しまくる夫への態度のようだった。気軽だからこそ陥りやすい問題なのかもしれない。新しいスタイルとして注目を集めつつあるオンラインツアー。夫婦仲が険悪にならないよう、利用のルールなどを決めて旅行を楽しむべきなのかもしれない。
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