「変な臭いや音、間一髪で避難」 豪雨の岐阜・下呂 孤立解消作業続く
© 毎日新聞 提供 ようやく孤立が解消したが、民家や車両が土砂で埋まったままの地区=岐阜県下呂市小坂町長瀬で2020年7月9日午後1時45分、川瀬慎一朗撮影
記録的豪雨に見舞われ、一時約4000人が孤立した岐阜県では、9日も雨の中、懸命な復旧作業が続いた。だが、孤立解消の作業は難航、やっと道路が復旧した地区も家や車が土砂に埋まったままだ。梅雨前線はなお停滞し、11日以降も雨が続く見通しで、住民の不安が募っている。
国道41号が寸断するなど各地で土砂災害が起きた下呂市。小坂(おさか)地区では県道が塞がって9日夜に入っても3集落650人が孤立し、消防団員が自転車道を迂回(うかい)しておにぎりなどの物資を住民の避難先の公民館へ届けた。
秘湯として知られる同市小坂町湯屋の温泉旅館「泉岳館」の若おかみ、熊崎知里さん(36)は「土砂災害はなかったが、食糧は備蓄でやりくりし、停電したので懐中電灯やロウソクの明かりで過ごした。暑い時期で冷蔵庫が使えず困った」と話した。山から濁流が注いだ同市小坂町長瀬では、小坂中学校に一時43世帯97人が避難した。車庫や蔵が土砂にのまれ、義母(90)と避難した女性(60)は「災害が起きた時、生暖かく変な臭いや音がした。間一髪で避難できた。地盤が緩んでいて家を見に行くのも怖い」。庭先に土砂が流入し、床上浸水したという山下貴生さん(51)は「持病があるが病院に行けず、薬をもらえない」とこぼした。
同市小坂町小坂町では7日夜、増水した川の水が民家を破壊して住宅街に流れ込み、雨の中で撤去作業が続く。書店内の泥を取り除いていた店長、早子雅司さん(61)は「九州の豪雨が大変と思っていたがここでも起きるとは」。小坂町区長の住良太朗さん(68)は「多くの家や店が床下浸水した。人的被害がないことが幸い」と話した。
全国有数の温泉地、同市中心部の下呂温泉も、8日に一時孤立した。近くの農産物販売店「いろどり市場」には飛驒川の濁流が流れ込み、店内外が泥や流木であふれた。社長の松下哲也さん(41)は「早く元に戻したい。今後も天気がどうなるか分からず不安」と作業を急いだ。温泉街で和菓子などを販売する「ますや観光百貨店」の駒田誠代表社員は「新型コロナウイルスの影響で旅館やホテルが7月から徐々にスタートしたさなかの豪雨。災害で怖いイメージが付くと観光面でマイナスになる」と心配した。
県などによると9日午後7時現在、下呂、高山両市計6地区の241世帯684人が依然、孤立状態にあるほか、高山市で121戸が断水、同市などで720戸が停電したまま。9日までに、少なくとも民家201棟の床上床下浸水を確認した。同6時半現在でも下呂、郡上両市の1万5659世帯4万1184人に避難指示が出ている。
国土交通省高山国道事務所によると、国道41号は路面崩壊など6カ所で通行止めとなり、隣接する下呂、高山両市の行き来は大きく迂回する必要がある。担当者は「(道路沿いの)飛驒川の水位が平常に戻ってからの復旧作業になるので、開通には相当の時間がかかる」と話す。国道不通を受け、中日本高速は東海環状自動車道美濃加茂インターチェンジ(IC)―東海北陸道飛驒清見IC区間のみ利用する車を対象に通行料を当面無料にする。
JR東海は9日も高山線下麻生―猪谷間の上下線で終日運転を見合わせた。一方、愛知県豊田市で土砂が線路内に流入した愛知環状鉄道は9日正午ごろ、全線で運転を再開した。
名古屋地方気象台によると、降り始めの3日から9日午後5時までの降水量は、下呂市萩原で785ミリ、高山市船山で649・5ミリと、いずれも7月の月間平均降水量を大幅に超えた。引き続き局地的に非常に激しい雨が降る見込みで、同気象台は「地盤が緩んでいるので少しの雨でも土砂災害につながる危険がある。大雨の期間はまだ終わっていない」と注意を呼びかけている。【川瀬慎一朗、黒詰拓也、野村阿悠子】