2020年8月31日月曜日

ススキより一足お先に…滋賀、岐阜県境の伊吹山


白い花を咲かせ見頃を迎えたサラシナショウマ(30日午後、滋賀・岐阜県境の伊吹山で)=里見研撮影
白い花を咲かせ見頃を迎えたサラシナショウマ(30日午後、滋賀・岐阜県境の伊吹山で)=里見研撮影
 滋賀、岐阜県境の伊吹山(1377メートル)の山頂付近で、秋の花のサラシナショウマが見頃を迎え、涼しげに風に揺れる白い姿が登山客の目を楽しませている。 キンポウゲ科の多年草で、山頂付近の草原に群生する。縦に伸びる綿毛のような白い花が特徴で、大きいものでは長さが50センチになる。見頃は9月中旬まで。
 麓の滋賀県米原市では30日、最高気温34.8度を観測したが、山頂付近は約10度低い。奈良市から訪れた男性会社員(35)は、「ススキみたいで秋を感じる。いい避暑になった」と喜んでいた。

睡眠薬混ぜたスープ飲ませ、看護師の体触る…介護・看護の現場ではびこるセクハラ


 介護や看護の現場で働く職員が、利用者らから受けるセクハラ被害が後を絶たない。労働組合や国の調査では、介護職員の約3割が被害を経験し、訪問看護では5割を超える。薬物を使った悪質なわいせつ事件も相次いでいる。国や自治体は対策を打ち出しているが、費用や人員に限りがある中、各事業所での対応は遅れがちだ。(藤井竜太郎)
◆スープに睡眠薬
 「女性と接する機会がなく、触りたい衝動を抑えられなかった」
 法廷でそう述べた男(79)は今年2月18日、神戸地裁で懲役2年6月の実刑判決を受けた。罪名は準強制わいせつ。昨年12月、点滴や問診で自宅を訪れた30歳代の女性看護師に、睡眠薬を混ぜたスープを飲ませ約10分に及び体を触っていた。
 被害女性は法廷で「恐怖心と怒りで、忘れたくても忘れられない」と涙ながらに意見陳述。判決で裁判官は「訪問看護の現場に少なからぬ不安を与えた」と男を指弾した。
 同種の事件はほかにもあり、さいたま市では今年7月、訪問介護の女性を脅し、体を触ったとして利用者の男(83)が埼玉県警に強制わいせつ容疑で逮捕された。
◆泣き寝入り
 介護職員らの労働組合「日本介護クラフトユニオン」(東京)が2018年に実施した調査では、回答した2411人のうち29・8%の718人が「不必要に体に触れる」などのセクハラ被害を経験していた。
 厚生労働省も18年度、「通所介護」「介護老人福祉施設」など従事する12種のサービス別に被害を調査。被害を受けた職員の割合は12種すべてで30%を超え、「訪問看護」が53・4%と最も高かった。
 クラフトユニオンによると、介護現場は、入浴や排泄はいせつの介助など接触を伴う業務が多い。相手が高齢者や病人で、被害職員や事業所が強く抗議しにくい面もあり、セクハラが起きやすく、防ぎにくいという。
 17年前から川崎市の老人ホームで働く介護職員の女性(39)は、「被害に遭っても我慢が当たり前との雰囲気がある」と話す。
 約10年前、老人ホームに入る80歳代男性から約2年、排泄や入浴の世話のたび、わいせつな言葉を浴び、体も触られた。上司に相談しても「病人だから」と取り合ってもらえなかった。
 19年に異動した別の施設でも、計3人の男性から胸を触られるなど被害を受けた。報告を受けた事業所は男性らに注意したが、すぐ元に戻り、今も日常的にセクハラが続いているという。
◆付き添い費用補助
 厚労省では18年度にセクハラなどを防ぐための事業所向けマニュアルを作成。訪問介護については今年4月から、利用者と二人きりになるのを避けるため、付き添うスタッフを派遣する費用の一部を補助する制度も導入したが、現場に浸透するかは未知数だ。
 複数の福祉事業所を運営する「京都福祉サービス協会」(京都市)は、弁護士や警察OBを非常勤で雇い、事業所を巡回し、職員の相談を受けるなどして被害の未然防止を図るが、費用もかかるため、まだこうした取り組みは多くない。
 兵庫県では、国に先駆け17年度から2人以上の職員を訪問させる場合、2人目の一部費用を補助する制度を設けたが、19年12月までの約2年で利用は4件。同県姫路市の訪問介護事業所は一時利用を検討したが、結局断念。「そもそも人手が不足する現場で2人を一緒に派遣するのは厳しい」と話した。
 神戸市東灘区の訪問介護事業所は「セクハラ被害の訴えがあっても、交代させる余裕すらないこともある。被害を防ぎきるのは難しい」と実情を明かした。

業界全体で意識改革を

 関西医科大の三木明子教授(精神保健看護学)の話「これまで介護、看護の現場では、ある程度の我慢が当然とされる傾向があり、業界全体が意識を変える必要がある。増加する介護需要に対応し、職員の離職を防ぐためには安心して働ける環境が欠かせない。行政は対策を打ち出すとともに、地道に事業所の啓発を進めることが重要だ」

コロナ回復者の血液にできる「抗体」、集めた血漿を使う「古くて新しい治療法」

 新型コロナウイルス感染症から回復した人の免疫力を治療に生かす戦略に注目が集まっている。回復者の血液には、新型コロナを攻撃する「抗体」ができており、それを活用した新薬の開発も世界的に進められている。(医療部 利根川昌紀、科学部 中居広起)

抗体が十分にある人の血漿を集める

 国立国際医療研究センター(東京都新宿区)は4月、回復した人から「血漿けっしょう」という成分を集める取り組みを始めた。事前の検査で抗体が十分にあると確認された人が対象で、提供した男性(37)は「自分の血液が治療に役立てばうれしい」と話す。
血漿  血液のうち細胞成分である赤血球や白血球、血小板を除いた液体成分。血液全体の約55%を占める。国立国際医療研究センターは、十分に抗体があると確認された回復者から、200~400ミリ・リットルを提供してもらっている。
腕に針を刺して取り出した血液から、血漿を提供する回復者(画像は一部加工。国立国際医療研究センター提供)
腕に針を刺して取り出した血液から、血漿を提供する回復者(画像は一部加工。国立国際医療研究センター提供)
 血漿を集めるのは、新型コロナに特化した治療薬がなく、既存の薬の効果も限定的なためだ。冷凍保存した血漿を今後、患者に投与し、治療効果や安全性を確かめる計画だ。研究責任者の忽那賢志・国際感染症対策室医長は「主に重症化リスクの高い人の治療に役立てたい」と語る。「効果があった」の報告も…有効性は慎重に判断
 血漿を使った治療は、感染症では古くて新しい治療法だ。SARS(重症急性呼吸器症候群)やエボラ出血熱などでも実施されている。医療機関で採取できて簡便なことから、新型コロナでも、今年初めから中国で実施され、重症患者の症状改善などに効果があったとの報告もあった。
 北里英郎・北里大教授(ウイルス学)は「決定的な治療薬がまだない過渡期に、治療の選択肢となる可能性はある」と話す。日本輸血・細胞治療学会の松下正理事長(名古屋大教授)は「海外から多くの報告があるが、有効性は引き続き検討していく必要がある」とし、慎重な立場だ。
 回復者の中には抗体が少ない人もおり、血漿にした場合に抗体の濃度が一定しないなどの課題も残る。こうした課題を解消し得るのが、血漿から抗体を取り出して精製した高度免疫グロブリン製剤だ。武田薬品工業は、米欧などの約10社との大規模な提携で製品化を急いでおり、近く臨床試験が米国などで実施される。

アメリカでは混乱も

 米国では、トランプ政権のてこ入れで回復者の血漿が大規模に集められ、科学的な効果を確かめる臨床試験が進まないうちに広く配布された。このため、8月、「効果がまだ確認できない」として、米食品医薬品局(FDA)が早期の承認を保留し、トランプ大統領が批判のコメントを出すなど混乱している。
 抗体については未解明な点も多く、本格的に調べる研究も始まる。横浜市立大は、回復者の血液中の抗体を半年ごとに調べ、どのくらい持続するか確かめる。9月から採血を開始する計画で、400人以上が参加を申し込んだ。研究代表者の山中竹春教授は「ワクチン開発のための情報や、地域の抗体保有率の把握などに役立つ可能性がある。研究には回復者の協力が欠かせない」と話している。

「人工抗体」の新薬に期待…ワクチンの代わりになるか

 より期待が高まっているのが、回復者の血液から特定の抗体を選び出し、コピーして作る「人工抗体」の新薬だ。
 新型コロナから回復した人は、様々な抗体を体に持っている。その中から、強力な作用のある特定の抗体を選び、人工的に作り出したものを「モノクローナル抗体」と呼ぶ。狙ったところにピンポイントで効くため、強力な抗体が見つかれば高い効果が期待でき、有効な抗体探しは世界的な競争になっている。
 抗体医薬に詳しい島根大の浦野健教授(病態生化学)は、「この15年ほどで開発技術は飛躍的に進歩した。副作用が少ないという特徴もある」と説明する。米科学誌「セル」のまとめによると、新型コロナでは7月末の段階で少なくとも40以上の人工抗体開発の取り組みがあり、8種が臨床試験に進んだ。
 米製薬大手イーライリリーは、米国立衛生研究所(NIH)などと協力し、回復者1人の血液から取り出した強力な抗体をもとに作った新薬候補を開発。今月、安全性や有効性を確かめる最終段階の臨床試験を始めると発表した。米国の高齢者施設の入居者やスタッフから最大2400人の参加者を募り、投与後4~8週間で感染や重症化を防げたかどうかなどを確かめる。
 ワクチンは、免疫の仕組みを刺激して自分自身が体内で抗体を作るのを助けるのに対し、人工抗体薬は外部で作製した抗体を体内に入れる。約2~4週間程度で量が半減するため効果は短いものの、臨床試験で良好な結果が得られれば、治療にも予防にも使える薬となる可能性がある。
 浦野教授は「ワクチンは接種してから抗体ができるまでに時間がかかる。モノクローナル抗体はすぐに効果を発揮するため、重症化や死亡するリスクが高い高齢者や、医療従事者などに対し、予防のために投与する意義はある」と指摘する。
 福井県は30日、10~80歳代の男女11人が新型コロナウイルスに感染していることが確認されたと発表した。県内の感染者は222人となった。新たに1人が回復するなどして退院した。
 福井市の10歳代の女児も含まれており、市教委は女児が通う小学校を31日から9月3日まで臨時休校とし、同じクラスの児童らにPCR検査を行う。
 県によると、この女児と同市の40歳代の女性会社員、70歳代の自営業男性と無職女性は、クラスター(感染集団)が発生した福井市のカラオケ喫茶「カサブランカ」の利用者と接触していた。同店関連の感染者は計28人となった。
 同様にクラスターが発生している同県越前町のカラオケ喫茶「ニューフレンド」についても、利用した同町の70歳代のパート男性と無職女性、利用者の知人だった福井市の70歳代の無職女性の感染が判明。過去に感染発表された1人の利用もわかり、関連の感染者は計17人に上った。
 福井市の70歳代の無職女性は他のカラオケ喫茶の利用者の同居家族、越前市の80歳代男性はカラオケ喫茶の従業員という。
 また、同県鯖江市の30歳代の自営業男性は20、21日に石川県に仕事で滞在し、感染者と接触していた。同市の20歳代の無職女性は男性の同居家族で濃厚接触者

[あすへの考]【マイクロプラスチック】プラごみ排出規制、考える時…九州大教授・磯辺篤彦氏56

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大学の研究室で無数のプラスチック片と向き合う日々。町役場職員だった父も科学好きだった。「子どもの頃、井戸の仕組みを確かめるために一緒に井戸を掘ったり、切った水道管にレンズをはめて月を観察したりしました。科学にも現場が大事と知る原体験だったかもしれません」=大野博昭撮影
大学の研究室で無数のプラスチック片と向き合う日々。町役場職員だった父も科学好きだった。「子どもの頃、井戸の仕組みを確かめるために一緒に井戸を掘ったり、切った水道管にレンズをはめて月を観察したりしました。科学にも現場が大事と知る原体験だったかもしれません」=大野博昭撮影
いそべ・あつひこ 滋賀県生まれ。1986年愛媛大卒。民間企業勤務を経て、94年九州大大学院総合理工学研究科助教授。2008年愛媛大沿岸環境科学研究センター教授。14年から現職。近著に「海洋プラスチックごみ問題の真実 マイクロプラスチックの実態と未来予測」(DOJIN選書)。いそべ・あつひこ 滋賀県生まれ。1986年愛媛大卒。民間企業勤務を経て、94年九州大大学院総合理工学研究科助教授。2008年愛媛大沿岸環境科学研究センター教授。14年から現職。近著に「海洋プラスチックごみ問題の真実 マイクロプラスチックの実態と未来予測」(DOJIN選書)。
 私たちの生活にくまなく浸透するプラスチックが、自然界では分解されないのをご存じだろうか。ポリ袋やペットボトルなどのプラスチックごみ(プラごみ)は海洋で細かく砕け、世界中を漂う。直径5ミリ以下のプラごみは「マイクロプラスチック(MP)」と呼ばれ、魚の体内からも見つかる。プラごみは、どうすれば減らせるのか。海洋プラごみの行方を追う九州大教授の磯辺篤彦さんに聞いた。(社会部 安田信介)河川から海へ。細かく砕け、でも絶対分解しない
 プラごみが砕けて5ミリ以下のMPに至る過程を知るにつけ、「自然っていやらしい」と思います。
 例えば、ポリ袋やペットボトルが路上に捨てられ、河川から海に出ます。それから、何日くらい海岸にとどまると思います?
 海岸に落ちているプラごみに数字を書き込み、3年半も追跡調査した研究者がいます。その調査結果によると、およそ半年です。いったん海岸から離れかけても、何度も波が押し戻すんです。
 プラスチックの強度は半年で半分に落ちると言われています。その間、紫外線にさらされ、波に洗われ、気温の変化などで傷んだプラごみは、急速に劣化が進み、さらに細かく砕けていきます。
 最終的にMPになるまでの時間はよく分かりません。ただ、さらに細かくなると、MPは浮力を失って沈み、海中の深いところを漂います。自然自身が、有害なプラごみを育んでいるようなものです。いやらしいと思いませんか?
 世界で年間数百万トンのプラごみが海に出ていますが、行方はほとんど分かりません。いわゆる「ミッシング(行方不明の)プラスチック」です。それを追いかけるのが僕らの仕事です。
 では、プラごみは生物にどのような影響をもたらすのでしょう。
 プラスチックはポリ塩化ビフェニール(PCB)などの有害物質を吸着する性質があります。水槽のメダカに有害物質を吸着させたMPを与え続けると、肝機能に障害が表れるとの指摘もあります。たとえ、有害物質が吸着しなくても、海水1トンあたりのMPが1グラム程度に達すると、生物への影響が出る可能性があると推測されます。実験室と現実の海は違うので明確には言えませんが、プラごみが増え続ければ、2060年代には大量のMPが漂う海が出現しそうです。
 ただ、MPが人体に有害という研究結果はまだありません。人は住宅のほこりなどの中でも生きているし、あまり神経質にならないほうがいいという意見もあります。
 この研究は分からないことだらけです。そもそも、計測・分析できるMPも、今は数十マイクロ・メートル(1マイクロ・メートルは1000分の1ミリ)以上のサイズでないと難しい。もっと小さければ検出すらできない。だから、最悪のシナリオは、既に海面が微細なMPだらけという想定です。逆に、海底に沈んだMPは地球に吸収され、二度と表に出てこない可能性もあります。
 僕は元々、海流の専門家です。プラスチックに興味を持ったのは、07年頃に長崎県の五島列島に出向いたのがきっかけでした。
 その頃、「海岸に漂着したごみがどこから来たのか」が問題でした。それをコンピューターによるシミュレーションで突き止めるシステムを作り始めたんです。
 現場を見に行ったら、ペットボトルや漁網などのプラごみが海岸をどかっと埋め尽くしていた。足元には小さいプラスチックの粒がいっぱい落ちている。
 漁船をチャーターし、海で網を引いてみました。一見すると真っ青な美しい海が広がっています。でも、10分ほどで、レジ袋らしきもののかけらや硬いプラスチックの破片が網にじゃらじゃら入ってくるんです。「これはエラいことになるな」と思いましたね。
 それで、他の海域も調べることにしました。プラごみは、瀬戸内海に比べ、海流のある太平洋や日本海の沿岸が10倍も多かった。
 プラスチックは、海に浮き、細かく砕け、でも絶対分解しない、地球の歴史上初めての物質です。100年以上も文明を支え、生活の隅から隅まで使われています。
 ただ、それが今、世界の海を漂い、生態系にも影響しかねない現実がある。海はどう処理するのか、しきれないのか。どこにたまっていくのか。そうした仕組みを一つずつ解明できると、変な話、わくわくもします。
 海のプラごみは減らさないといけない。でも、一気になくすのはほぼ不可能だと思います。
 難しいのは、プラスチックが一部の富裕層の贅沢ぜいたく品ではないことです。タイなど東南アジアの国に行くと、屋台の食べ物やジュース、あらゆる容器に使われています。安く衛生面を担保できる素材だからです。そこに先進国が「使うな」と言うのは、不潔な、快適でない暮らしを途上国に押しつける弱い者いじめのように感じます。
 日本のプラごみは年間900万トンです。分別して、焼却施設で処理しても、14万トン(1・6%)はどこかに漏れてしまっています。100%の管理は難しい。
 7月からレジ袋の有料化が義務づけられました。環境に優しく海中で分解される生分解性プラスチックや、植物由来のバイオマスプラスチックが注目されています。ただ、分解の経過やかかる時間など、分からないことも多い。
 結局、プラごみの排出量を規制するしかないと考えます。例えば、日本政府が「排出量を今の半分の500万トンに減らす」と決める。目標達成のためのアイデアを企業や消費者が出す。先進国として、「プラスチックに頼らなくてもこれだけ豊かな生活を送れますよ」というロールモデルを世界に示してほしい。
 むしろ、産業界にとってはチャンスかもしれません。プラスチックの代替素材ができれば、すごい市場になる。プラスチックのように頑丈で柔らかくて、安い上に、海水につけたら溶けてなくなる素材とか。夢がありますよね。こうした技術で、日本が世界をリードしてほしい。

太平洋側や瀬戸内海の海岸ごみはほとんど日本のもの

 災害が多発し、コロナ禍にも見舞われている今、日本でも多くの人がプラスチックのありがたみを感じているのではないでしょうか。
 「巣ごもり生活」中にケータリングを頼むと、清潔なプラ容器で食べ物が届く。災害で避難所にいれば、水や食料もプラ容器で提供される。でも、減らさなきゃいけない。プラスチックの価値とリスク、そして代替手段を考えるきっかけになってほしいと思います。
 プラごみの現状を若い世代に伝えることも大事です。
 私は、中学校や高校での講演で、「プラごみはみんなが出しているんだよ」と繰り返し言います。生徒からは「海岸のごみって海外から来てるんでしょ」「海でバーベキューやってる人が捨ててるんでしょ」との意見もありますが、これは誤解です。太平洋側や瀬戸内海の海岸ごみは、ほとんど日本のものです。100人はちゃんとごみ箱に捨てるでしょう。でも、1人がポイ捨てすれば、海に流れていってしまう。
 プラスチックは、地球温暖化の話に似ていると思います。僕ら科学者はなるべく早く、科学的な根拠に基づいて「何年までにどれくらいプラごみを減らさないとこんな未来になりますよ」と予測する。そして、地球温暖化を防ぐ国際的な枠組み「パリ協定」のように、世界の専門家の研究成果に基づき、国際的な政策や公約を構築していければいいと思います。
 メモ…米大学研究者らの2015年調査によると、10年には推定478万~1275万トンのプラごみが世界の海に流出し、うち日本からは2万~6万トンと予測。1位は中国で132万~353万トン、2位はインドネシアで48万~129万トン。上位10か国のうち5か国が東南アジアの国で、排出抑制が課題となっている。

[あすへの考]【マイクロプラスチック】プラごみ排出規制、考える時…九州大教授・磯辺篤彦氏56

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大学の研究室で無数のプラスチック片と向き合う日々。町役場職員だった父も科学好きだった。「子どもの頃、井戸の仕組みを確かめるために一緒に井戸を掘ったり、切った水道管にレンズをはめて月を観察したりしました。科学にも現場が大事と知る原体験だったかもしれません」=大野博昭撮影
大学の研究室で無数のプラスチック片と向き合う日々。町役場職員だった父も科学好きだった。「子どもの頃、井戸の仕組みを確かめるために一緒に井戸を掘ったり、切った水道管にレンズをはめて月を観察したりしました。科学にも現場が大事と知る原体験だったかもしれません」=大野博昭撮影
いそべ・あつひこ 滋賀県生まれ。1986年愛媛大卒。民間企業勤務を経て、94年九州大大学院総合理工学研究科助教授。2008年愛媛大沿岸環境科学研究センター教授。14年から現職。近著に「海洋プラスチックごみ問題の真実 マイクロプラスチックの実態と未来予測」(DOJIN選書)。いそべ・あつひこ 滋賀県生まれ。1986年愛媛大卒。民間企業勤務を経て、94年九州大大学院総合理工学研究科助教授。2008年愛媛大沿岸環境科学研究センター教授。14年から現職。近著に「海洋プラスチックごみ問題の真実 マイクロプラスチックの実態と未来予測」(DOJIN選書)。
 私たちの生活にくまなく浸透するプラスチックが、自然界では分解されないのをご存じだろうか。ポリ袋やペットボトルなどのプラスチックごみ(プラごみ)は海洋で細かく砕け、世界中を漂う。直径5ミリ以下のプラごみは「マイクロプラスチック(MP)」と呼ばれ、魚の体内からも見つかる。プラごみは、どうすれば減らせるのか。海洋プラごみの行方を追う九州大教授の磯辺篤彦さんに聞いた。(社会部 安田信介)河川から海へ。細かく砕け、でも絶対分解しない
 プラごみが砕けて5ミリ以下のMPに至る過程を知るにつけ、「自然っていやらしい」と思います。
 例えば、ポリ袋やペットボトルが路上に捨てられ、河川から海に出ます。それから、何日くらい海岸にとどまると思います?
 海岸に落ちているプラごみに数字を書き込み、3年半も追跡調査した研究者がいます。その調査結果によると、およそ半年です。いったん海岸から離れかけても、何度も波が押し戻すんです。
 プラスチックの強度は半年で半分に落ちると言われています。その間、紫外線にさらされ、波に洗われ、気温の変化などで傷んだプラごみは、急速に劣化が進み、さらに細かく砕けていきます。
 最終的にMPになるまでの時間はよく分かりません。ただ、さらに細かくなると、MPは浮力を失って沈み、海中の深いところを漂います。自然自身が、有害なプラごみを育んでいるようなものです。いやらしいと思いませんか?
 世界で年間数百万トンのプラごみが海に出ていますが、行方はほとんど分かりません。いわゆる「ミッシング(行方不明の)プラスチック」です。それを追いかけるのが僕らの仕事です。
 では、プラごみは生物にどのような影響をもたらすのでしょう。
 プラスチックはポリ塩化ビフェニール(PCB)などの有害物質を吸着する性質があります。水槽のメダカに有害物質を吸着させたMPを与え続けると、肝機能に障害が表れるとの指摘もあります。たとえ、有害物質が吸着しなくても、海水1トンあたりのMPが1グラム程度に達すると、生物への影響が出る可能性があると推測されます。実験室と現実の海は違うので明確には言えませんが、プラごみが増え続ければ、2060年代には大量のMPが漂う海が出現しそうです。
 ただ、MPが人体に有害という研究結果はまだありません。人は住宅のほこりなどの中でも生きているし、あまり神経質にならないほうがいいという意見もあります。
 この研究は分からないことだらけです。そもそも、計測・分析できるMPも、今は数十マイクロ・メートル(1マイクロ・メートルは1000分の1ミリ)以上のサイズでないと難しい。もっと小さければ検出すらできない。だから、最悪のシナリオは、既に海面が微細なMPだらけという想定です。逆に、海底に沈んだMPは地球に吸収され、二度と表に出てこない可能性もあります。
 僕は元々、海流の専門家です。プラスチックに興味を持ったのは、07年頃に長崎県の五島列島に出向いたのがきっかけでした。
 その頃、「海岸に漂着したごみがどこから来たのか」が問題でした。それをコンピューターによるシミュレーションで突き止めるシステムを作り始めたんです。
 現場を見に行ったら、ペットボトルや漁網などのプラごみが海岸をどかっと埋め尽くしていた。足元には小さいプラスチックの粒がいっぱい落ちている。
 漁船をチャーターし、海で網を引いてみました。一見すると真っ青な美しい海が広がっています。でも、10分ほどで、レジ袋らしきもののかけらや硬いプラスチックの破片が網にじゃらじゃら入ってくるんです。「これはエラいことになるな」と思いましたね。
 それで、他の海域も調べることにしました。プラごみは、瀬戸内海に比べ、海流のある太平洋や日本海の沿岸が10倍も多かった。
 プラスチックは、海に浮き、細かく砕け、でも絶対分解しない、地球の歴史上初めての物質です。100年以上も文明を支え、生活の隅から隅まで使われています。
 ただ、それが今、世界の海を漂い、生態系にも影響しかねない現実がある。海はどう処理するのか、しきれないのか。どこにたまっていくのか。そうした仕組みを一つずつ解明できると、変な話、わくわくもします。
 海のプラごみは減らさないといけない。でも、一気になくすのはほぼ不可能だと思います。
 難しいのは、プラスチックが一部の富裕層の贅沢ぜいたく品ではないことです。タイなど東南アジアの国に行くと、屋台の食べ物やジュース、あらゆる容器に使われています。安く衛生面を担保できる素材だからです。そこに先進国が「使うな」と言うのは、不潔な、快適でない暮らしを途上国に押しつける弱い者いじめのように感じます。
 日本のプラごみは年間900万トンです。分別して、焼却施設で処理しても、14万トン(1・6%)はどこかに漏れてしまっています。100%の管理は難しい。
 7月からレジ袋の有料化が義務づけられました。環境に優しく海中で分解される生分解性プラスチックや、植物由来のバイオマスプラスチックが注目されています。ただ、分解の経過やかかる時間など、分からないことも多い。
 結局、プラごみの排出量を規制するしかないと考えます。例えば、日本政府が「排出量を今の半分の500万トンに減らす」と決める。目標達成のためのアイデアを企業や消費者が出す。先進国として、「プラスチックに頼らなくてもこれだけ豊かな生活を送れますよ」というロールモデルを世界に示してほしい。
 むしろ、産業界にとってはチャンスかもしれません。プラスチックの代替素材ができれば、すごい市場になる。プラスチックのように頑丈で柔らかくて、安い上に、海水につけたら溶けてなくなる素材とか。夢がありますよね。こうした技術で、日本が世界をリードしてほしい。

太平洋側や瀬戸内海の海岸ごみはほとんど日本のもの

 災害が多発し、コロナ禍にも見舞われている今、日本でも多くの人がプラスチックのありがたみを感じているのではないでしょうか。
 「巣ごもり生活」中にケータリングを頼むと、清潔なプラ容器で食べ物が届く。災害で避難所にいれば、水や食料もプラ容器で提供される。でも、減らさなきゃいけない。プラスチックの価値とリスク、そして代替手段を考えるきっかけになってほしいと思います。
 プラごみの現状を若い世代に伝えることも大事です。
 私は、中学校や高校での講演で、「プラごみはみんなが出しているんだよ」と繰り返し言います。生徒からは「海岸のごみって海外から来てるんでしょ」「海でバーベキューやってる人が捨ててるんでしょ」との意見もありますが、これは誤解です。太平洋側や瀬戸内海の海岸ごみは、ほとんど日本のものです。100人はちゃんとごみ箱に捨てるでしょう。でも、1人がポイ捨てすれば、海に流れていってしまう。
 プラスチックは、地球温暖化の話に似ていると思います。僕ら科学者はなるべく早く、科学的な根拠に基づいて「何年までにどれくらいプラごみを減らさないとこんな未来になりますよ」と予測する。そして、地球温暖化を防ぐ国際的な枠組み「パリ協定」のように、世界の専門家の研究成果に基づき、国際的な政策や公約を構築していければいいと思います。
 メモ…米大学研究者らの2015年調査によると、10年には推定478万~1275万トンのプラごみが世界の海に流出し、うち日本からは2万~6万トンと予測。1位は中国で132万~353万トン、2位はインドネシアで48万~129万トン。上位10か国のうち5か国が東南アジアの国で、排出抑制が課題となっている。

安首相、トランプ大統領と電話会談…北・拉致問題で緊密な連携呼びかけ


 安倍首相は31日午前、米国のトランプ大統領と電話会談を約30分間行った。首相は辞任表明に至った経緯を説明した上で、次期政権でも引き続き、新型コロナウイルスや北朝鮮の弾道ミサイル、日本人拉致問題などで日米が緊密に連携していくことを呼びかけた。首相は会談で、自らの後継に関し「日米同盟を強化していくことに変わりはないので安心してほしい」と伝えた。トランプ氏は「最も親しい友人である首相の辞任を寂しく思う。しっかり療養し、健康状態を回復してほしい」と述べた。
 首相はまた、北朝鮮の弾道ミサイル能力の向上などを踏まえ、「日米同盟をさらに深化させるべく、ミサイル措置に関する安全保障政策の新たな方針の具体化を進めていく」と説明。9月の退陣までに、新たなミサイル防衛のあり方を取りまとめる考えを伝えた。
 首相には各国首脳から会談の要請が相次いでおり、31日午後にはロシアのプーチン大統領との電話会談が行われる予定だ。

ポスト安倍、自民内で動き活発化…派閥・グループが対応協議

 竹下派は前回2018年の総裁選で事実上の自主投票となり、首相を支援した衆院側と石破氏を支持した参院側で対応が割れた。このため、31日昼に衆参両院議員による会合を開き、今回は派内で共同歩調をとることを目指している。
新型コロナの影響で都心部の百貨店は打撃を受けた(5月、閑散とする東京・銀座)© NIKKEI STYLE 新型コロナの影響で都心部の百貨店は打撃を受けた(5月、閑散とする東京・銀座) 新型コロナの影響で、個人消費が大きく変わったと聞くわね。全体としては厳しい状況の中でも好調な企業もあるらしいけど、どんな要因なの。今後私たちの生活様式も変わるのかな――。「ウィズコロナの消費」について、田中陽編集委員が金子理奈さんと新井陽子さんに解説した。
――消費行動はどう変わりましたか。
スーパーやコンビニエンスストアでは現金のやり取りを減らそうとキャッシュレス決済が増えています。ファミリーマートは3~5月期に同決済の比率が3割と、前年同期の2割から拡大しました。またサイゼリヤは7月からメニュー価格の端数(9円)をやめて50円単位にしました。客も店も1円や10円の出し入れをなくすことで、精算時間が3割も減ったそうです。
日経POS情報によると、第1波が襲い始めた2~3月は畜肉缶詰、水、即席袋めんといった買いだめ需要が急激に増えました。一方、緊急事態宣言が出た4~5月はケーキ・パン材料、生クリーム、お好み焼き粉などのプレミックスのような、自宅で子どもたちと一緒に料理を楽しむ商品が人気となりました。
また5月から3カ月連続で伸び率トップはアルコール濃度の高いスピリッツでした。当初は手指の消毒液の代替としての購入でしたが、7月には家飲み用の商品が人気でした。買い物の頻度は減る一方で、1回当たりの購入金額は1~2割増えています。
――売り上げが落ち込んでいる分野は。
ファッション性の高い衣料品は一部の企業を除き不振ですね。外出する機会が減ったほか、商業施設が営業を見合わせたためです。欧米も同じで、有名百貨店やアパレル専門店の破綻が相次いでいます。マスク人気の陰で口紅などの化粧品も苦戦気味です。移動制限の直撃を受けたのが航空会社、ホテルです。
本来楽しい時間を過ごすはずの外食産業も窮地です。日本フードサービス協会によると、レストラン業態の6月の売上高は前年比43%減、居酒屋は58%減でした。
――同じ業態でも明暗があるのですか。
外食産業は宅配やテークアウトに活路を見いだそうとしています。昨秋の消費税増税後も、店外では軽減税率対象なのも追い風です。日本マクドナルドの4~6月期の既存店売上高は前年比6%増、客単価は32%増と好調でした。
巣ごもり需要を上手に取り込んで業績を向上させたのが「宅急便」を手掛けるヤマトホールディングスです。4~6月期決算の営業利益は99億円と、前年同期の61億円の赤字から急回復しました。7月の取扱個数も同8%増と好調を維持しています。
コンビニはコロナ前まで営業成績が良好だった都心部、駅前立地、観光地が芳しくない一方、住宅立地が盛り返しています。ここ数年、インバウンド(訪日外国人)需要が旺盛だったドラッグストアも同様の傾向です。テレワークの拡大で「ユニクロ」のように部屋着、カジュアル衣料に強いアパレルも一時期の落ち込みから回復しています。
8月版「コロナ禍で売れた商品」トップ10© 東洋経済オンライン 8月版「コロナ禍で売れた商品」トップ10  酷暑のさなかもマスクが生活必需品になる――。ほんの半年前まで誰も想像しなかった事態だが、新型コロナウイルスが引き続き猛威を振るう中、店頭の売れ筋商品も例年の夏場からは一変している。

市場調査会社のインテージが、新型コロナの影響を受ける前の今年1月6日週から週次で、全国約4000店のスーパー、コンビニ、ドラッグストア、ディスカウントショップなどの販売動向を追っている「新型肺炎カテゴリー動向」。
 季節が春から夏、そして夏から秋に移ろうとしている中で、コロナ時代の“3種の神器”ともいえる商品が、驚異的な売り上げの伸びを示している。

マスクは前年比1000%超え

3種の神器の筆頭格といえば、やはり「マスク」だ。直近のインフルエンザの流行が昨年12月上旬だったことから、今年1月中旬は前年同期の8割程度で推移していたが、1月20日週に突如200%を突破。翌週には667%に達したが、2月に入ると品薄状態となり、3月9日週には前年比80.6%まで落ち込んだ。
 その後も需要に供給が追いつかず、前年同期比で200%を超えたのは4月20日週。徐々に正規の商流での供給が追いつき、街角で売られている粗悪品の値崩れが始まると、スーパーやドラッグストアでの販売金額はうなぎ上りとなり、緊急事態宣言が解除された5月25日週に700%を超えた。
 一気に1000%、つまり前年同期の10倍の大台に乗ったのは6月29日週。7月27日週には、ついに1800%を突破した。その主たる原因は、例年なら大きく需要が落ち込む夏場にも、高水準の需要が続いているからだ。
 ただ、このような前年同期比で伸び率が大きくなる“カラクリ”を抜いた実額ベースで見ても、驚くべき水準に達している。「2019年のマスクの需要のピークは1月21日週だったが、そのときの販売金額と比較してもほぼ2倍」(インテージの渡邉満・市場調査アナリスト)というのだ。
 ユニクロをはじめ、アパレルメーカーやスポーツ用品大手などが相次いで布マスクを発売し、それらが広く普及してもなお、例年のピーク時の倍売れているということになる。
 「非接触形式体温計」も、7月27日週に1000%の大台に乗った。
 消耗品のマスクと違い、一度買えば済む体温計は、店頭から蒸発した時期がマスクよりも1カ月遅い3月中旬だったが、供給が戻った5月以降は250~260%前後で推移。7月に入って300%台に乗った。
 マスクの1000%という数字を見てしまうと、感覚がマヒするためか、どうしても見劣りするが、客観的に見れば、前年同期比で200%を超える状態が何カ月も継続しているというのは異常事態だ。
 だが、体温計のうち非接触形式のものだけ切り出すと、体温計全体とはまったく異なる動きが見て取れる。
 まず、店頭から商品が蒸発する直前の2月24日週に1213.1%を記録。その後は商品供給が追いつかず、5月下旬ごろまで150~280%前後を行ったり来たりしていたが、6月に入って600%台にハネ上がった。
 7月13日週には937.8%に上昇。7月27日週に、ついに1000%の大台に乗った。「非接触形式の体温計の2019年のピークは、マスクよりも1週間前の1月14日週だったが、このときと比較しても565%」(前出の渡邉アナリスト)。
 7月に入って感染者の急増が伝えられるようになると、飲食店が営業を再開した6月上旬ごろとは異なり、入店時に検温される機会が俄然増えたと感じている人は少なくないはずだ。
 図書館など公共施設を利用する際にもほぼ100%入り口で検温されるし、リモートワークを継続しながら緊急事態宣言時よりは出社率を上げた企業も、事業所単位で社員の出社時に検温を実施している。
 こういった需要に応えているのが、事業所周辺のドラッグストアなのだろう。もっとも、非接触型も一度買えば済むので、需要の盛り上がりは早晩落ち着くはずだ。

手指消毒剤は2000%を突破

マスクや非接触形式体温計以上の伸びを見せているのが「手指消毒剤」である。
 傷口の消毒剤なども含めた「殺菌消毒剤」全体の伸びも7月以降400%台に乗るなど、依然高水準で推移しているが、伸びを大きく牽引しているのが手指消毒剤だ。
 マスクよりも若干早めに供給が追いついたこともあり、前年同期比で1000%を突破したのは4月13日週。例年なら需要が減り出す5月下旬ごろから伸び幅が大きくなり、7月20日週に2000%に到達した。つまり、例年の夏の20倍売れているのだ。
 インテージによれば、2019年のピークはマスクと同じ1月21日週で、その時点と比較しても357%だという。例年のピーク時と比べても、その3.5倍売れていることになる。
 検温は計り手がいることが前提だが、手指消毒剤は今や世の中の至る所に設置されていて、基本はセルフ。手軽かつ供給が追いついているので、高水準の伸びはまだ当分続くだろう。
 これら“新型コロナ時代の3種の神器”の間に、急激に割って入ってきたのが「うがい薬」だ。
 長らく100%台で推移していたものが、8月3日週に1096%と急伸。日次ベースでは8月4日に5089%という驚異的な伸びを示し、6日以降も400%前後と前年同期に比べて高い水準が続いている。
 理由は、ご存じのとおり、吉村洋文・大阪府知事が8月4日に緊急会見を開き、「うがい薬の成分『ポビドンヨード』で新型コロナウイルス感染症の治療効果が期待できることを確認した」と力説したためだ。
 会見直後から、ドラッグストアにうがい薬を買い求める人が殺到。1カ月近くが経った現在も品薄が続いている。
 購入者の属性の変化も興味深い。うがい薬の購入者を、直近1年間の購入の有無によって継続と新規に分けてみると、7月27日週までは新規ユーザーが20~30%で推移していたが、8月3日週には59%まで増加した。
 ほかにも、前年同期比の伸び率は200%に届かない水準なので、“3種の神器”に比べると見劣りするが、「ぬれティッシュ」も除菌・抗菌・アルコール系が例年のピーク(秋の行楽シーズン)の2.5倍売れている。
 個人が外出時に持ち歩く需要もさることながら、ドアノブや手すり、アクリルボードなどをこまめに拭く事業所単位の需要を、周辺のドラッグストアやスーパーが支えているとみられる。

企業業績にも影響を与えるニューノーマル

ニューノーマルは企業業績にも大きく影響を与えている。同じ化粧品・トイレタリー業界に身を置きながら、メイク用品中心の資生堂は2020年上半期(1~6月期)の営業損益が34億円の赤字と、前年同期の689億円の黒字から724億円悪化した。
 だが、花王は同じ時期の営業損益は前年同期比13.8%減で乗り切ることができた。化粧品は大きく落ち込んだが、巣ごもり特需で衣料用洗剤や台所用洗剤が大きく伸びたほか、業務用のハンドジェルが爆発的に売れたことが寄与した。
 ウィズコロナ時代の必需品は、消費者が選別する段階に入っている。ニーズをタイムリーかつ適格にとらえるヒット商品が、業界の勢力図を塗り替える可能性もあるだろう。
2005年のリーグ優勝の瞬間、バンザイをして歓喜の輪に加わる藤川球児© スポーツ報知/報知新聞社 2005年のリーグ優勝の瞬間、バンザイをして歓喜の輪に加わる藤川球児  阪神は31日、藤川球児投手(40)の現役引退を発表した。
 谷本修球団本部長(55)がオンラインで取材に応じ、「藤川球児選手から今シーズン限りでの現役引退の申し出を受けまして、球団としてはそちらの方を了承いたしましたので、そのご報告でございます。理由としては本人から聞いた話ですけども、1年間を通じてコンディションを保つのが年々難しくなってきておりまして、体が悲鳴を上げているんだというのが一つ。もう一つはチームに非常に迷惑をかけていると。来季については今季以上に苦しくなるという懸念も考えられると。以上2点でございます」と明かした。
 8月中旬に申し出があったようで、本人は「野球人生に悔いはない」と話しているという。
 昨年4月にも本人から昨季限りでの引退の申し出があったというが、球団は一度、態度を保留。同年9月に残留要請を行っていた。それでも、現在は2軍で9月中の復帰を目指してリハビリ中。今シーズン中は優勝を目指すチームの戦力として第一線に立ち続けるつもりだ。
 藤川は開幕から守護神を担ったが、本来の火の玉ストレートが走らず、打ち込まれる場面が目立った。7月12日に右肩のコンディション不良で2軍降格。同23日に1軍復帰したが、クローザーに戻ることはなく、8月13日に「右上肢のコンディショニング不良」で再び出場選手登録を抹消されていた。
 右肩、右肘の状態は限界だったとみられ、今季は11試合に登板し、1勝3敗2セーブ、防御率7・20。名球会入りとなる通算250セーブまで、あと5セーブとなっている。
 藤川は98年のドラフト1位で阪神に入団。プロ7年目の04年途中から中継ぎに転向すると、翌05年に潜在能力が一気に開花した。ホップするような剛速球を武器に、久保田、ウィリアムスと勝利の方程式「JFK」を形成し、リーグ制覇に貢献。当時の日本記録の80試合に登板し、7勝1敗46ホールド、防御率1・36と圧巻の成績を残した。
 翌06年途中からはクローザーを務め、メジャー挑戦、阪神復帰と日米球界をまたいで、ファンを魅了し続けた。昨年はシーズン途中から抑えに復帰し、56試合の登板で4勝1敗、16セーブをマークし、復活を印象づけていた。
 球児は近年、常に引き際を意識して「グラウンドで年齢は関係ない。結果がすべて」と覚悟を決めて戦ってきた。シーズン折り返しとなる60試合を消化した時点での決断も、自らケジメをつけたかった証拠といえる。1日には西宮市内で会見予定。希代のリリーバーが、今季限りでユニホームを脱ぐ。
 ◇藤川 球児(ふじかわ・きゅうじ)1980年7月21日、高知市生まれ。40歳。高知商から98年ドラフト1位で阪神に入団。05年に当時のプロ野球記録となるシーズン80試合登板。07年は当時のプロ野球記録の46セーブ。12年オフに米大リーグのカブスへ移籍。13年6月に右肘じん帯再建手術。レンジャースを経て、15年6月に四国アイランドリーグplusの高知に入団し、同9月に退団した。同オフに阪神復帰。NPB通算777試合に登板し60勝38敗243セーブ、防御率2・08。MLBでは29試合で1勝1敗2セーブ。185センチ、90キロ。右投左打。

 電気自動車(EV)の競争が本格化してきた。世界では市場が急拡大しつつあり、官民挙げて取り組みを急ぐべきだ。ホンダは、小型車「Honda e」を10月下旬に国内で発売すると発表した。ホンダのEV量産は初めてとなる。
 他の日本メーカーも続き、2010年発売の「リーフ」で先行してきた日産自動車は来年、スポーツ用多目的車(SUV)の「アリア」を投入するという。トヨタ自動車は高級車で、マツダはSUVタイプで参入する予定だ。
 19年の世界のEV市場は167万台と新車販売の2%だが、4年で5倍に増えた。35年に20%近くになるとの予測がある。各社が力を入れるのは、妥当である。
 問題なのは、これまでも走行中に二酸化炭素(CO2)を出さないEVの販売増を目指しながら、国内では伸びていないことだ。
 政府は4年前、EVと家庭で充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)の保有台数を、20年に計100万台にする目標を掲げた。現状はその3分の1程度とみられる。その間に、世界では導入促進の動きが加速している。
 欧州は、今年から自動車の環境規制を強化し、CO2の排出量が基準より多い場合は、メーカーに罰金を科すことになった。
 ドイツやフランスは、コロナ禍に苦しむ経済を環境重視で活性化する方針も打ち出し、EV購入時の補助金の増額、充電器の整備などを行っている。
 最大市場の中国は、「新エネルギー車」購入への補助制度で販売を伸ばしてきた。
 ガソリン車より割高なため、日本も政策的に後押しすることが望ましい。国が最大40万円程度の補助金を出すが、最大100万円前後の欧州と比べて少ない。拡充を検討すべきではないか。
 充電1回で続けて走れる距離はガソリン車より短く、充電に時間がかかる。こうした技術的課題の克服に向けた支援も考えたい。
 自動車は日本の基幹産業だが、EVでは劣勢にある。19年の世界の販売は米テスラが1位で、2位以下も中国勢が目立っている。
 自動車産業は裾野が広い。当面はガソリン車の優位が続いたとしても、将来的には部品メーカーの構造転換を含めて対応を進めなければ、雇用にも打撃が及ぼう。
 次世代車には水素で走る燃料電池車(FCV)もあり、どちらに軸足を置くのか政府の方針は定まらない。世界の動向を見据え、具体的な戦略を示してほしい。
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 <論語で一生を貫いてみせる>。日本の資本主義の父、渋沢栄一は30代でそう誓いをたてたという(『現代語訳 論語と算盤』ちくま新書)◆91歳で他界するまでに起こした会社は数知れない。<四十、五十は洟垂れはなた小僧、六十、七十は働き盛り、九十になって迎えが来たら、百まで待てと追い返せ>と語ったと伝えられる。<十五にして学に志し>で始まる孔子の教えに似ていなくもない◆とはいえ「論語読みの論語知らず」という警鐘も昔からある。気を付けたいところだが、そう言われかねない評判がよりによって世界に論語の普及を図る中国の事業を包んでいる◆この15年で160か国の大学などに作られた「孔子学院」である。日本でも15の大学に設けられている。中国政府が講師派遣など運営を後押しし、講座のような形で中国文化に触れる学生をどんどん増やしてきた◆ただこのところ、地球規模の親中派育成という下心が露骨に見えてきたらしい。政治宣伝や影響力拡大の拠点になるとの警戒が強まり、欧米で閉鎖が相次いでいる。論語には敬意をもたれない国作りのことはさて、何て書いてあったろう。

[スキャナー]細田・麻生派動向カギ…自民総裁選 無派閥・菅氏 支援欠かせず


 安倍首相の後継を選ぶ自民党総裁選で、菅官房長官が出馬に向けて動き出した。無派閥の菅氏が勝利するには、細田、麻生両派の動向がカギを握る。ポスト安倍の筆頭候補と目されてきた岸田政調会長は焦りを強めている。(政治部 工藤淳、谷川広二郎)岸田氏、巻き返しに躍起
 ■二階派が先陣
 「安倍政権の色々な懸案事項を菅氏がすべて承知している。政権の継承も含めて、しっかりやってほしい」
 30日夕、二階幹事長との会談を終えた二階派会長代行の河村建夫元官房長官は、菅氏が出馬した場合には支援する考えを明言した。二階派が菅氏支援で先陣を切った格好で、党内では「『菅総裁』の流れを作ろうとする二階氏の戦略だ」(閣僚経験者)との見方が広がった。菅氏は7年8か月にわたって政権中枢で安倍首相を支えた。首相の突然の辞任による緊急登板でも、「安定的に政権運営を引き継ぐことができる」(党幹部)として、党内には待望論があった。
 菅氏は30日、表だった動きを控え、自身に近い議員と電話で党内情勢などについて意見を交わした。無派閥の菅氏にとって、党内の支持基盤は「菅系」と目される無派閥約30人だけだ。総裁選で勝つには派閥単位で支援を受けることが不可欠で、29日に二階氏に出馬の意向をいち早く伝えたのも、そうした事情が背景にある。
 ■党議員の4割
 首相の出身母体で党内最大派閥の細田派と、第2派閥の麻生派は党所属国会議員の4割近くを占める。両派が菅氏の支援を決めれば、二階派と菅氏を支援する無派閥グループを合わせ、230人規模となる。党執行部は、総裁選を党大会に代わる両院議員総会で行う方向で、総裁選出に必要な過半数268票に迫る。
 ベテラン議員は「二階、細田、麻生の3派が菅支持を決めれば、他派閥や無所属議員も雪崩を打つ」と指摘する。
 ただ、細田、麻生両派がすんなり菅氏支援でまとまるかは不透明だ。細田派内では下村博文選挙対策委員長らが出馬に意欲を示しており、麻生派でも河野防衛相が出馬を模索している。新総裁の任期は来年9月まで。菅氏に近い無派閥議員は「まずは来年9月までの暫定政権という位置付けで、党内から幅広い支援を得ていく」と語る。
 ■最悪のパターン
 一方、岸田派幹部は30日、菅氏が出馬の意向を固めたことについて「一番最悪のパターンだ。かなり厳しくなった」と語った。岸田氏はこの日、昼に宿舎を出ると、細田派の細田博之元幹事長、同派に影響力を持つ森喜朗元首相、麻生派の麻生副総理兼財務相、鈴木総務会長と相次いで個別に会談した。
 首相の政権運営を支え続けた岸田氏は、来年9月の総裁任期満了で後継者の指名を受ける戦略を描いてきた。しかし、首相は退陣を表明した28日の記者会見で後継者を明言しなかった。岸田氏について、最近では「発信力が課題だ」と不満を口にしている。
 岸田派は30日夜、幹部が急きょ集まり、対応について協議した。岸田氏は「これまで通りやっていくしかない」と周囲に漏らした。

「党員投票」若手100人賛同

 自民党執行部は総裁選について、国会議員と都道府県連の代表者による投票で行う方針だが、党内では党員投票の実施を求める声が上がっている。
 総裁選は、議員票と、それと同数の党員票で行うのが原則だ。ただ、党則では「特に緊急を要するとき」は党員投票は行わず、議員票と各都道府県連の代表者各3人による投票で決められるとしている。
 過去には2007年に安倍首相、08年に福田首相が任期途中で辞任した際、この規定が適用された。党執行部は今回、新型コロナウイルス対応を抱える中、一刻も早く新総裁を決める必要があるとの立場だ。世耕弘成参院幹事長は30日のNHK番組で、「一日も早く次の総理を決める必要がある」と強調した。
 これに対し、小林史明青年局長と歴代の青年局長らは、党員投票実施を求めた署名活動を行っている。細田派や岸田派の若手を中心に100人程度が賛同しており、31日に執行部に申し入れる予定だ。青年局長経験者の小泉環境相は30日、「党員の声を反映する機会を作るべきだ。新総裁が政策を推進する上で、必ず後押しとなる」と語った。
 党員投票が省略されれば、議員票でほぼ勝敗が決するため、「派閥の論理で、密室で総裁が決まった印象がつきまとう」(ベテラン)。地方人気は高いものの党内基盤の弱い石破茂・元幹事長は、党員票を軸にした戦略を練っており、「石破氏を総裁にしないために党員投票をしなかったと見られれば、世論の反発を買う」(中堅)との懸念もある。
 ただ、党員投票を実施するには、党員名簿の精査のほか、投票用紙の準備などの事務作業が伴い、「1か月近くはかかる」(党職員)という。新型コロナの感染拡大が続く中、本格的な総裁選の実施は困難との見方もある。
© FNNプライムオンライン 辞任を表明した安倍首相の後継を決める自民党総裁選挙に、菅官房長官が立候補する意向を固めた。
菅官房長官は、安倍政権の新型コロナウイルス対策を継続する必要があるとして、総裁選挙に立候補する意向を固め、9月1日の総務会で、総裁選挙のあり方が決まるのを待って、正式に立候補を表明する見通し。
これを受け、二階派は菅氏を支持する方針を固め、幹部が集まって、党内情勢を分析するなどした。
石破元幹事長「党員1人ひとりを大事にする自民党でありたい。国会議員のための自民党ではない」
石破元幹事長は、立候補するかどうかは党員投票の有無を見極めて判断する考えを示し、30日夜、派閥のメンバーらと対応を協議した。
一方、菅氏が出馬の意向を固めたことを受けて、岸田政調会長は戦略の見直しを迫られることになり、30日夜、派閥のメンバーらと対応を協議した。
日中には、細田派会長の細田元幹事長や、麻生派会長の麻生副総理らと相次いで面会し、支援を要請した。
岸田政調会長「ごあいさつをいたしました。ご指導をお願いいたしました」
河野防衛相は、党員投票を行うべきだとの考えを記者団に示した。
前回の総裁選挙で石破氏に投票した小泉環境相は、自身の立候補を否定し、「河野さんが出れば河野さんを応援します」と述べた。
自民党は、総裁選挙を9月7日にも告示し、党員投票を省く両院議員総会を15日までに開いて、新しい総裁を選ぶ方向。
© 毎日新聞 提供    新型コロナウイルスの感染者は30日、新たに599人が確認された。1日当たりの感染者が1000人を下回るのは9日連続。クルーズ船の乗客乗員らを合わせた国内の感染者は6万8714人で、死者は神奈川県で新たに4人が確認されるなど、全国で14人増えて1299人となった。
 東京都では新たに148人の感染を確認し、1日当たりの感染者数が5日ぶりに200人を下回った。重症者は前日から2人増えて34人になった。大阪府では2日連続で100人を下回った。【まとめ・川崎桂吾】