2020年8月31日月曜日

睡眠薬混ぜたスープ飲ませ、看護師の体触る…介護・看護の現場ではびこるセクハラ


 介護や看護の現場で働く職員が、利用者らから受けるセクハラ被害が後を絶たない。労働組合や国の調査では、介護職員の約3割が被害を経験し、訪問看護では5割を超える。薬物を使った悪質なわいせつ事件も相次いでいる。国や自治体は対策を打ち出しているが、費用や人員に限りがある中、各事業所での対応は遅れがちだ。(藤井竜太郎)
◆スープに睡眠薬
 「女性と接する機会がなく、触りたい衝動を抑えられなかった」
 法廷でそう述べた男(79)は今年2月18日、神戸地裁で懲役2年6月の実刑判決を受けた。罪名は準強制わいせつ。昨年12月、点滴や問診で自宅を訪れた30歳代の女性看護師に、睡眠薬を混ぜたスープを飲ませ約10分に及び体を触っていた。
 被害女性は法廷で「恐怖心と怒りで、忘れたくても忘れられない」と涙ながらに意見陳述。判決で裁判官は「訪問看護の現場に少なからぬ不安を与えた」と男を指弾した。
 同種の事件はほかにもあり、さいたま市では今年7月、訪問介護の女性を脅し、体を触ったとして利用者の男(83)が埼玉県警に強制わいせつ容疑で逮捕された。
◆泣き寝入り
 介護職員らの労働組合「日本介護クラフトユニオン」(東京)が2018年に実施した調査では、回答した2411人のうち29・8%の718人が「不必要に体に触れる」などのセクハラ被害を経験していた。
 厚生労働省も18年度、「通所介護」「介護老人福祉施設」など従事する12種のサービス別に被害を調査。被害を受けた職員の割合は12種すべてで30%を超え、「訪問看護」が53・4%と最も高かった。
 クラフトユニオンによると、介護現場は、入浴や排泄はいせつの介助など接触を伴う業務が多い。相手が高齢者や病人で、被害職員や事業所が強く抗議しにくい面もあり、セクハラが起きやすく、防ぎにくいという。
 17年前から川崎市の老人ホームで働く介護職員の女性(39)は、「被害に遭っても我慢が当たり前との雰囲気がある」と話す。
 約10年前、老人ホームに入る80歳代男性から約2年、排泄や入浴の世話のたび、わいせつな言葉を浴び、体も触られた。上司に相談しても「病人だから」と取り合ってもらえなかった。
 19年に異動した別の施設でも、計3人の男性から胸を触られるなど被害を受けた。報告を受けた事業所は男性らに注意したが、すぐ元に戻り、今も日常的にセクハラが続いているという。
◆付き添い費用補助
 厚労省では18年度にセクハラなどを防ぐための事業所向けマニュアルを作成。訪問介護については今年4月から、利用者と二人きりになるのを避けるため、付き添うスタッフを派遣する費用の一部を補助する制度も導入したが、現場に浸透するかは未知数だ。
 複数の福祉事業所を運営する「京都福祉サービス協会」(京都市)は、弁護士や警察OBを非常勤で雇い、事業所を巡回し、職員の相談を受けるなどして被害の未然防止を図るが、費用もかかるため、まだこうした取り組みは多くない。
 兵庫県では、国に先駆け17年度から2人以上の職員を訪問させる場合、2人目の一部費用を補助する制度を設けたが、19年12月までの約2年で利用は4件。同県姫路市の訪問介護事業所は一時利用を検討したが、結局断念。「そもそも人手が不足する現場で2人を一緒に派遣するのは厳しい」と話した。
 神戸市東灘区の訪問介護事業所は「セクハラ被害の訴えがあっても、交代させる余裕すらないこともある。被害を防ぎきるのは難しい」と実情を明かした。

業界全体で意識改革を

 関西医科大の三木明子教授(精神保健看護学)の話「これまで介護、看護の現場では、ある程度の我慢が当然とされる傾向があり、業界全体が意識を変える必要がある。増加する介護需要に対応し、職員の離職を防ぐためには安心して働ける環境が欠かせない。行政は対策を打ち出すとともに、地道に事業所の啓発を進めることが重要だ」

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