12月10日 編集手帳
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隣の家でもらい風呂をした時など、かつては普通に「ごちそうさま」と礼を言った。詩人の川崎洋さんが「そこにこめられた気持ちには深いものがある」と随筆に書いていた◆昔の風呂は水をくみ入れ、薪を集め、つきっきりで火を燃やさねばならず大変な労働を必要とした。「ごちそう」はもともと、走り回るという意味の漢語「馳走」から出た言葉なので、入浴の後のあいさつとしては当然と言えるほどなじむものであったらしい◆その言葉はもちろん材料を集めたり、煮たり焼いたりして食事を作る人へのあいさつとして、今もしっかり残っている◆感染拡大の影響で忘年会をはじめとする会食の自粛が広がり、飲食業には厳しい師走となっている。走り回りたくても走り回れない。きのう国内の感染者が2800人を超え、過去最多となった。「勝負の3週間」は残り数日となったものの、減少傾向はうかがえない。長期化の懸念が膨らむ◆お店がもちこたえられるかどうか、心配は年の瀬よりさらに先に向かうことだろう。その辛苦へのねぎらいも含め、ごちそうさまと言える時が一日も早く訪れることを。
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