12月12日 編集手帳
永井荷風につぎの句がある。<北窓を塞ぎて今日の午睡かな>。初めて見たとき、前半部分の意に首をひねった◆手元の歳時記によると、「北窓塞ぐ」は冬の季語で、寒風に備えて北の窓に板を張ったり、すき間に目張りしたりすることだという。住宅の気密化の進む現代では死語に近いかもしれない。荷風先生の昼寝姿の浮かぶ半分のどかな句なのだが、いま読み返すと不穏な心持ちになる◆かのウイルスは気密性の高い空間を好む。換気が大切なのに、多くの建物は窓を開閉しない限り外気を通すようにはできていない◆予報によれば、来週は真冬並みの寒気が列島に流れ込むという。寒さはただでさえ体にこたえる。高齢者施設などでは室温の維持と換気の調整が難しいことだろう。職員の方々がこれまで以上に気を張らねばならないかと思うと、毎日の感染者数がよけい耳につらく聞こえそうである◆パソコンで原稿を書くと、変換の妙で思わぬ字を目にすることがある。この稿で「かんき」と入力したとき、寒気でも換気でもなく、「歓喜」と変換された。困難な季節を乗り越え、そこに行ければと思った。
12月12日 よみうり寸評
株式会社に移行して今年で10年になった第一生命保険は、明治期に日本初の相互会社として設立された◆創業者の矢野恒太は「利益は保険契約者の所得なり」「主人公は保険契約者なり」と説いたらしい。社史で知った。営利よりも助け合いを追求したのだろう◆創業の志が
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