2020年12月17日木曜日

 読売新聞オンライン12/17  6:59

12月16日 よみうり寸評

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 言葉の海はどこまでも深い。作家の織田作之助が〈ざっと数えて三十ぐらいの意味に使える〉と随筆に書いたのが大阪弁の「ややこしい」である◆広辞苑は〈こみいっている。複雑でわずらわしい〉で済ませているが、『大阪ことば事典』はさすがに詳しい。〈ヤヤコシイ男やなァ〉という用例ひとつとっても、〈本心のはっきりせぬ、つかまえどころのない〉…と語釈が列挙されている◆〈話のつじつまの合わぬ〉との意味もあるというから、浮かんでくる姿がある。就任から3か月を迎えた菅首相である◆遅まきながら「Go To トラベル」の全国一斉停止に踏み切るが、「移動によって感染は拡大しない」との言を変えない。誰もが矛盾を覚えよう。感染抑止に向けた「勝負の3週間」のかけ声が空回りした現状への危機感が、これで十分伝わるのだろうか◆いまこそ持てる言葉を尽くし、コロナ対策への理解と協力を国民に呼びかけるべきときだろう。なぜ記者会見を渋っているのか、なんともヤヤコシイお人である。

12月17日 編集手帳

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 おしゃべりが飛沫ひまつをとばし感染を広げている――などと聞くと、ヘミングウェー『老人と海』の一節が頭によぎる◆老人は思う。「だれか話し相手がいるというのはどんなに楽しいことかが、初めてわかった。自分自身や海に向かっておしゃべりするよりずっといい」。長く孤独に海と戦ってきた老人が少年と出会い、とりとめもないことを話す喜びにやっとのことで気づく場面である◆会食の目的は飲食と同等に、おしゃべりだろう。とりとめのない話とは暇つぶし以上に大事な何かではありそうである。その自由に制限をつけることは、つらいお願いなのかもしれない◆菅首相、自民党の二階幹事長らが8人で会食したという。国民へ少人数での会食を呼びかけておきながら、である。しかも、「Go To トラベル」の全国一斉停止を発表した当日の夜ときている。政府の方針転換を知った国民が年末年始、親族や友人と会う機会を減らそうかと考え始める矢先に見せていい姿ではあるまい◆国民のまじめさで何とか医療崩壊をしのいだ第1波の危機を思い出してもらいたい。まじめな人ほど失望しただろう。

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