なぜか世に出なかった版本用の絵という。ロンドンの大英博物館が葛飾北斎の版下絵103点を入手したと5日の本紙が報じていた。画像はサイトで公開中とも◆閲覧してみて、興奮させられた。文政12年(1829年)、70歳頃の作で、大半は異国の風物だ。奇抜な伝説や想像上の動物を次から次へ描いてみせる。同時に博物学の知識を取り込む◆例えば、アフリカ産の巨鳥「スドロイスホウゲル」。オランダ語で駝鳥のことだ。隣に火食鳥の図を配し、駝鳥とするのは誤りとも注記している。江戸時代、両者は混同されがちだった◆東京・上野動物園で駝鳥が公開されたのは1902年のこと。ただ、本紙の記事を調べて、目を疑った。説明を聞き違えたか、「鵞鳥」とある。当時の読者におわびしつつ付言すれば、まだなじみが薄かったのだろう◆英国の絵をネットで見られる時代、もはや駝鳥と鵞鳥を取り違える人もあるまい。確かに未知の世界は狭まったが、その分、想像の翼をはばたかせる余地は減った。〈東京の首夏を駝鳥がちょっと走る〉(池田澄子)。奔放に駆け巡る北斎の筆に羨望を禁じ得ない。
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