2020年9月15日火曜日

 読売新聞オンライン

9月15日 編集手帳


 小泉元首相に「青論」という造語がある。政治家が「正論」にたどり着くまでに、自由闊達かったつに青く語る段階があるべしとするものだ◆小泉氏が「自民党をぶっ壊す」と叫んだかつての自民党総裁選は、青論を正論へと向かわせる一つの過程だったろう。では今回の総裁選はというと、正論を成論(=完成した論「大辞林4版」)に高める論戦ではなかったかと、3氏の訴えに思った◆国難をどう乗り越えていくか。新型コロナウイルスの制圧と経済の再生――これを中心に堅実な議論が行われたすえ、菅義偉氏が新総裁に選出された◆派閥の支援を受けた国会議員票はもとより、地方票も6割超の高い支持を得た。秋田の小さな町のイチゴ農家に生まれた。高校卒業後は工場に勤め、学費をため大学に進んだという経歴に共感を寄せる人は少なくないだろう。あす国会の首相指名選挙を経れば、2世、3世ではないたたきあげの首相が誕生する◆ふと、俳人の池田澄子さんの作品集にこんな一句を見かけたのを思い出す。<じゃんけんで負けて蛍に生まれたの>。けがさないでほしいささやかな光を持った人ではある。

9月15日 よみうり寸評


 千利休が創成した茶の湯をどう継いでいくか。茶道裏千家大宗匠、千玄室さんが歩く道は過酷である◆〈一瞬の油断も許されません。お点前でも型に心が伴わなければ崩れ、魂の入った形にはなりません〉。戦国時代からの歴史を刻む家の15代家元をつとめた重みだろう、かつて本紙に載った述懐に感じ入ったことを覚えている◆伝統芸能ならずとも、継ぐという営みは難しい。例えば組織運営にしても、漫然と「型」を踏襲するだけなら、前進は望めない。次の首相となる菅義偉官房長官はどうだろう◆安倍首相の路線継承を唱えて自民党の新総裁に選ばれた。安定感が支持されたようだが、看板をただ引き継ぐだけならコロナ禍という危機の突破はおぼつかない。何が足りないか、改める点はないか…と問い直し、不安を抱える国民の心に寄り添う姿勢が欠かせまい◆多弱といわれた野党勢力の一部が合流し、新党の立憲民主党として動き出した。対抗軸を練ってこよう。一瞬の油断も許されない日々が新総裁を待っている。

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