2020年9月15日火曜日

 読売新聞オンライン

自民総裁に菅氏 社会に安心感を取り戻したい


◆経済再生へ粘り強く取り組め◆ 
   
   菅義偉官房長官が自民党総裁選で勝利し、新たな内閣を率いることになった。感染症への対応は無論、山積する課題の解決に向けて、指導力を発揮してもらいたい。

 菅氏は、国会議員票と地方票を合わせた534票の約7割を獲得して、圧勝した。

 自民党内の7派閥中、5派閥が菅氏を支持し、優位は揺るがなかった。政策の継続性を唱えたことにより、党内や地方組織に共感が広がったのは確かだろう。

 ◆「政策の継承」が奏功

 菅氏は総裁就任にあたり、「危機を乗り越え、国民が安心し、安定した生活をすることができるよう、安倍首相の取り組みを継承し、進めていく」と述べた。

 岸田文雄政調会長は「分断から協調へ」と掲げ、新型コロナウイルス対策の充実などを訴えたが、得票は3桁に届かなかった。4回目の総裁挑戦となった石破茂元幹事長は、地方重視の姿勢を強調したものの、3位に甘んじた。

 両氏とも今後、存在感を維持できるか正念場となる。

 自民党結党以来、無派閥の総裁就任は事実上初めてだ。無派閥の議員が菅氏を支えているが、党内基盤は盤石ではない。菅氏を支持した派閥では、ポストを巡る主導権争いが起きている。

 菅氏は「人事で派閥の推薦は受け付けない」と述べる通り、適材適所の原則を保つべきだ。当選回数順に閣僚を送り込むような派閥主導の人選を行えば、そのツケは菅氏自身に回ってこよう。

 中堅・若手を登用し、人材を育てることも大切である。

 自民党に所属した河井克行・前法相と妻の案里参院議員を巡る選挙違反事件では、党本部が案里被告側に提供した莫大ばくだいな資金が問題視されている。透明性のある党運営を徹底しなければならない。

 安倍首相は、総裁任期途中での辞任となるため、菅氏の任期は来年9月までの1年だけだ。衆院議員は、来年10月に任期が切れる。本格政権を築くために、早期の衆院解散・総選挙に踏み切るべきだとの声も出ている。

 肝要なのは、安定した政治体制を継続することだ。安倍内閣は、経済再生を最優先に掲げて様々な手だてを講じつつ、日米同盟を深化させ、国力を高めた。

 内閣の中枢で、長期間にわたって安倍政権を支えてきた菅氏への期待感は高まっている。

 秋田県出身の菅氏は高校卒業後に上京し、民間企業に勤めた。その後、アルバイトで学費を工面して、大学に通ったという。党内では「苦労人」と言われている。

 ◆高い実務能力に期待感

 内閣のスポークスマンとしてだけでなく、与党内の政策調整や国会対策にも尽力してきた。菅氏の実務能力を評価する声は多い。

 だが、国を率いる立場は重責だ。政策を遂行していく上で、継続を訴えるだけでは心もとない。

 国際情勢の変化を的確に捉え、戦略的に対応する手腕が試されよう。中長期的な視点で、社会保障制度改革や、財政再建に取り組むことも不可欠である。

 菅氏は総裁選で、地域金融機関の再編や、携帯電話料金の引き下げに意欲を示した。着実に実施し、成果を出してほしい。

 新型コロナへの対応で、安倍内閣は後手に回った。菅氏にも、その責任の一端はある。

 社会に安心感を取り戻すために、政治が果たすべき役割は大きい。検査の拡充や医療体制の強化をしっかり進め、国民の不安の払拭ふっしょくに努めてもらいたい。

 落ち込んだ経済の回復に向け、家計や企業への支援を継続する。成長戦略の再構築を図っていく。こうした取り組みを粘り強く行っていくことが求められよう。

 ◆憲法論議の環境整備を

 安倍首相は任期中の憲法改正を目指したが、実現しなかった。与野党の対立によって停滞する論議をどう活性化させるか。

 菅氏は、首相の意向を踏襲し、9条への自衛隊明記を目指す考えを表明している。

 北朝鮮の脅威は増している。軍拡を進める中国への警戒も怠れない。国民を守る自衛隊の根拠規定を憲法に明記し、一部に残る違憲論を払拭する意義は大きい。

 憲法改正について、菅氏には安倍首相ほどの熱意はないと見る向きもある。社会や経済、安全保障環境の変化に応じて、憲法について不断に議論することは大切だ。緊急事態条項の創設や、参院の合区解消も重要な論点である。

 衆参の憲法審査会で建設的な議論を行うため、菅氏は公明党や野党との接点を探るべきだ。

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