2020年10月26日月曜日

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10月25日 編集手帳


 テレビを見ていたら「鼻マスク」なる商品を紹介していた。見た目は小さな眼鏡のよう。鼻孔にはめ、花粉等をカットするのだとか。ゆくりなくも名脚本家、向田邦子さんの随筆を思い出した◆小学校の頃というから、昭和戦前期だろう。マスクを「鼻マスク」と呼ぶ女の子がいた。わざわざ「鼻」なんておかしいと皆で言った。「でも、うちじゃそういうもの」と彼女は抗弁した。泣きながら、帰っていった◆最初に言い出したのは、〈私だったような気がする〉と向田さんは回想するのだが、後日、女の子は胸を張って現れた。「これ、耳マスクというんよ」。耳にあてる、うさぎの毛皮の防寒具だった(『無名仮名人名簿』)◆北国出身のご家庭だったのか。世間には様々な生活があり、言葉があると学んだ一件に相違なく、のちに心の機微をむホームドラマを残す人の、ささやかな原体験だったかもしれない◆先ごろはよその国ながら、立場が違えば、ろくに話も聞かずに遮る醜態に驚かされた。米大統領選の討論会は最終回、発言妨害を防ぐマイクオフの措置が取られた。「口チャック」すらできないらしい。

10月24日 よみうり寸評

   米大学教授のジェニファー・ダウドナさんは2011年、プエルトリコで開かれた学会に参加した◆友人とカフェに寄ると、片隅におしゃれな女性が座っていた。友人がこのフランス人エマニュエル・シャルパンティエさんを紹介してくれた◆翌日、シャルパンティエさんから「共同研究を提案するために、しばらく前から電話をかけようと思っていた」と明かされた(「クリスパー 究極の遺伝子編集技術の発見」文芸春秋)。出会いは運命だったのだろう。2人は力を合わせ、DNAを自在に切り貼りする技術「クリスパー・キャス9」を開発、今年のノーベル化学賞に輝いた。女性2人だけの受賞は科学分野で初めてとなる◆この技術の土台となったクリスパーは、DNA上の部位の名前で、最初に発見した石野良純・九州大教授は1987年の論文で「その生物学的な意義は不明」と記した◆もしこの時「革新的技術を実現できる」とでも予言していたら……。女性コンビによる初の独占はならなかったかもしれない。

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