2020年11月17日火曜日

 編集手帳・よみうり寸評

11月17日 編集手帳

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 きのうは各地で、ぽかぽか陽気となった。北は仙台市で20度を超え、鹿児島市では25・8度の夏日になった◆これでは小春日和を通り越して、小夏日和ではないか。と思って調べてみたところ、沖縄歳時記に11月の季語として小夏日和が載っていた。空が晴れ気温がぐんと高くなる日がそう呼ばれる◆ドイツでは小春日和は「老婦人の夏」と言う。気象エッセイスト倉嶋厚さんによると、日本で春の陽気と感じる天気を「夏」とするのは、向こうでは夏がさわやかな季節だからといい、感覚の違いがある。東京の街に穏やかな老婦人の夏が訪れるなか、ドイツ出身のバッハ会長が国際オリンピック委員会(IOC)を代表して来日した◆安心安全を最優先にした大会運営をめざすと語った。観客を入れての開催やその規模は、新型ウイルスの推移を見守りながら判断するという。慎重な物言いをテレビで拝見しつつ、安心安全への感覚の差がまだ大きいのではと思った。日本ではプロ野球などが観客を入れて成功しているが、海外の国の多くは厳しい状況にある◆チケットが楽しみになるのは、もう少し先になりそう。

11月16日 よみうり寸評


 「木は旅が好き」という一編が詩人の茨木のり子にある◆〈木は/いつも/おもっている/旅立つ日のことを/ひとつところに根をおろし/身動きならず立ちながら〉。動けないもののかなしさが行間ににじむ◆立場が違えば見方も変わる。植物学者がいう。〈もし植物たちが話せれば、「自分たちは、動きまわることができないのではなく、動きまわる必要がないのだ」というはずです〉(田中修著『植物のすさまじい生存競争』)。動かずに生きられる理由として著者は光合成や虫媒といった仕組みの存在を挙げる◆ウェブ会議にオンライン飲み会…対面に代わる仕組みが広まったコロナ禍の生活を思う。動く必要がなくても旅はしたい。植物の心はともあれ人の気持ちは「Go To トラベル」人気から明らかだろう◆この週末も多くの人が行楽地に繰り出したが、第3波の到来を警告する声は日増しに強まる。3連休となる次の週末も変わることなく「ゴー」の旗は振られているか。いささかの緊張感を伴って週が明けた


11月16日 編集手帳


 「親子兄弟が別れずに、貧しくとも幸せに暮らせる稲を育てたいと思うのです」。小説「壬生義士伝」(浅田次郎著、文春文庫)で、幕末の盛岡藩士、吉村貫一郎の息子は、ラストで切々と語る◆やませという風が吹き、冷害が何年も続く厳しい東北の地から、幼少の頃、越後へと出された。後に稲の育成と品種改良に尽くし、「米馬鹿先生」と称される。寒さに強い「吉村早生」を開発し、ふるさとの盛岡にコメを運ぶ思いに涙した人も多いだろう◆亜熱帯が原産のコメの品種改良は、冷害との戦いだった。寒冷地に強いコメ作りが進み、産地は北に進んだ。今は新潟に次ぎ北海道が2番目の産地である◆ところが、最近は少し様子が違う。山形の「雪若丸」、新潟の「新之助」、富山の「てんこもり」。来年には京都の「京式部」が登場する。いずれも暑さに強い品種として開発されたコメだ。地球温暖化の影響で敵は暑さに変わった◆それを超える難敵がいる。消費者のコメ離れだ。1人当たりの消費量は、ピークから半減した。食の多様化や糖質を避ける傾向が影響しているという。吉村はどう思うだろうか。

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