7月4日 編集手帳
私が、私は――「は」と「が」の使い分けは、国語学者の間に複雑な議論があるらしい◆決して小さなことではないと思った。「お前が虫だ」。同級生に取り巻かれ、そう言われたのはお笑いトリオ「ジャングルポケット」の斉藤慎二さんである。本紙連載「STOP自殺#しんどい君へ」を読んだ◆小学3年の夏だった。学校では体が小さく「ちび」と呼ばれ、上履きが消えたり、自分の教科書が校舎から落ちてきたり…そんな日々に虫捕りに誘われ、舞い上がった。「いじめは終わったんだ」。うれしくて早めに待ち合わせ場所に行った◆すると木の陰から同級生らが飛び出してきた。「お前が虫だ」。袋だたきにあったという。「が」の濁音がすさまじく悪意を強調するようで胸が苦しくなる。心に善意を多く持つ子供ほど仲間に入れず、いじめられる側に回るのかもしれない◆もし斉藤さんのような目にあっている人がいたら、贈りたい詩の一節がある。<私は知らなかった。私がこんなに善良さをいっぱい持っていたとは>(ホイットマン「大道の歌5」)。そう気づけるまで君は生きるべきだ。私が、と。
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