12月8日 よみうり寸評
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朝刊の『四季』欄で、先月末に読んだ歌を再掲する。〈「リンゴの唄」は敗戦の年に歌われき赤いリンゴの「あ」の明るさよ 米澤光人〉。焼け跡の記憶を重ねる方もあろうか◆件の曲は終戦後の秋に世に出た。赤いリンゴに 唇よせて…サトウハチローの詞を朗らかな歌声に乗せた並木路子さんは、その半年余り前、母親と火の海の中にいた。東京大空襲である◆熱から逃れようと隅田川に入って流れにのまれた。自分は助かり、母親は死んだ。「あたしが殺した」。癒えぬ胸中を後年に明かしている(早乙女勝元著『戦争を語りつぐ』)◆12月8日がまた巡り来た。国力を顧みずに日本が対米開戦に突入した日である。並木さんが経験した悲劇も起点を手繰ればそこに至る。この大事な日のことは、もっと意識されていい◆戦後75年が暮れてゆく。節目の年に戦争の記憶をどこまで新たにできたろう、などと考えながら気づいたことがある。かの曲は敗戦に打ちひしがれた人々を元気づけた。そんな何かが今の日本にはない。
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