アラサー目前! 自閉症の息子と父の備忘録 梅崎正直
医療・健康・介護のコラム多目的トイレ前の惨劇…父は手で受け、弟は走った 1
間に合わなかった――。
買い物の途中など、急に大きい方をもよおしたとき、大人であれば、ガマンできる間にトイレを見つけるだろう。子どもがそうなったら、「もうちょっとだから」と励ましながら、どうにか事なきを得るかもしれない。だが、「リスク」を予測して前もって備えたり、苦痛に耐えてガマンしたりすることが、できない人もいる。もちろん、洋介が「失敗」した経験など、いくらでもあるのだが、とりわけ記憶に残っているのが、大型ショッピングセンターでのできごとだ。
洋介なりに耐えたものの…
15年以上前、郊外に巨大商業施設が次々に造られた時期があった。近隣の千葉・成田市にも航空母艦のようなショッピングセンターがオープン。そうした施設は、従来の大型スーパーと比べて通路や売り場のスペースに余裕があり、段差も少なく、障害者用の駐車スペースもあり、様々な人が利用しやすくなっていた。大きく開放的なスペースであれば、洋介が大きな声を出したり落ち着きなく動き回ったりしても、それほど他人の目は気にならなかった。洋介本人にとっても、比較的ストレスを受けない場所だったと思う。
とくに重要なトイレ事情についても同様で、それまでの施設と比べて広く、快適な多目的トイレも設けられていた。幼いころは、僕となら男子トイレ、妻となら女子トイレに入ればよかったが、体も大きくなるとそうはいかない。2人で入っても十分な空間がある多目的トイレの存在はありがたかった。特に妻が介助する場合は、洋介を連れて女子トイレに入るわけにもいかず、多目的トイレは頼みの綱だったのである。
その日、お 腹 の調子が悪かったのか、洋介が買い物の途中で「ウンチ!」と言い出したので、あらかじめ場所をチェックしてある多目的トイレに急いだ。言い出したときは、もう差し迫っているので、時間の余裕はない。やっと多目的トイレの前に着いたが、使用中だった。ドアの前に、同年代のお父さんらしき人が待っていた。幼い子どもと奥さんで使っているようだ。ついてきていた次男に男子トイレを偵察させたが、個室はふさがっているとのこと。でも、2番目なので大丈夫……と思ったが、意外に時間がかかる。
洋介なりに頑張って便意と闘っていたが、「ウー! ウー!」と訴え始めた。待っていたお父さんが、こちらの窮状に気づいて、「おい、早く出てこいよ!」と自動ドアをドンドンたたき始めた。が、すでに遅く、僕は潔くあきらめて、出てくるものをズボン越しに手で受けることにしたのだった。そして次男を伝令に出し、新しいズボンを買ってくるよう妻に伝えに走らせた(ほんとに役に立つ弟)。
医療・健康・介護のコラム
多目的トイレ前の惨劇…父は手で受け、弟は走った 2
誰でも使えるけれど
出てきた母子に、お父さんが怒っているので申し訳なかった。多目的トイレでなければ用を足せないわけでもなさそうだったが、小さい子がいて女子トイレの行列に並ぶのがつらかったのだろう。多目的トイレは、必要があれば誰でも使える。ただ、必要とする度合いは人によって様々で、「使えると助かる」人から、「ここでしかできない」人までいる。洋介はその中間あたりだと思っていて、場所としては必要だが、特別な装備(手すりやオストメイト※用の設備など)を使うことはない。僕ら自身もそうだが、「自分たちよりもっと多目的トイレを必要としている人が次にくるかもしれない」と意識して、できるだけ時間をかけないですませたい。障害者用の駐車スペースにも言えるが、「いつも空いていて意味がない」のではなく、使う人にとっては「空いていないと意味がない」のだ。
かつてはひどかったトイレ事情
ちょうどその頃、多目的トイレをテーマに取材をしたことがあった。大手メーカーの展示場には最新の素晴らしい設備が並んでいた。しかし、街中にはまだまだ普及していなかったし、従来からあった障害者用トイレは、目を疑うような劣悪な設備であることも少なくなかった。
例えば、扉は手動の引き戸なのだが、ひどく傾いているために開けてもすぐ閉じてしまう。素早く動ける人でないと入れないし、車いすではまず無理だ。手すりの上をトイレットペーパー置き場にしていたり、自動ドアの内側の開閉ボタン前に備品が置かれていて、車いすの位置からでは手が届かなかったり(入れても、出られなくなる)。
「不適切な使い方」は今も? 大事なのは想像力
使い方にも問題が多かった。福岡の球場近くに造られた商業施設には、充実した多目的トイレが設置されていたが、その洗面台には、つけまつ毛がいくつも落ちていた。高校生が私服に着替えたり、お化粧をしたりするのだそうだ。当然ながら、長時間占拠することになる。
若者のマナーが特に悪いわけでもない。いつも、会社でエレベーターの「閉」ボタンを押して外に降りる習慣があるサラリーマン。次に乗る人がいる階へエレベーターが早く着くように、という気配りなのだが、多目的トイレでも同じことをしてしまう「うっかりさん」もいる。その後どうなるかは、想像できるだろう。そう、大事なのはいつでも「想像力」なのだ。
ただし、それも一昔前の話。今の多目的トイレは設備もマナーも進歩してきているに違いない。と思っていたら、最近は、「不適切な使い方」のせいで警備員が立ったトイレもあるようで……。(梅崎正直 ヨミドクター編集長)
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