2020年7月10日金曜日

米のWHO脱退 感染症対策を阻害するだけだ


 新型コロナウイルスは今も世界各地で蔓延まんえんが続いている。国際社会が一丸となって対策に取り組むべき時に、協調を阻害する一方的な行動をとるのは理解しがたい。
 米国が国連に対し、世界保健機関(WHO)からの脱退を正式に通知した。既定の条件を満たせば、1年後に脱退することになる。「WHOが中国に支配されている」というトランプ大統領の強い不満が根底にあるのだろう。
 コロナ感染が中国で最初に拡大した段階で、WHOが適切な対応をとれず、情報発信のあり方や中立性について問題が露呈したのは事実だ。WHOには公正な検証と組織改革が求められている。
 だが、米国がWHOから脱退しても、事態が改善するわけではない。コロナ対策の司令塔である組織が揺らぎ、中国の影響力が拡大することは得策と言えるのか。
 WHOは、米国の主導で1948年に創設されて以来、ポリオなどの感染症対策や公衆衛生の向上で大きな役割を果たしている。150か国以上に要員を配置し、医療情報や物資が乏しい途上国にとっては欠かせない存在だ。
 米国はWHO予算の約16%を拠出している。米政府の資金が途絶えれば、WHOの活動への打撃は避けられない。コロナのワクチンや治療薬の開発においても、米国と各国の協力体制に悪影響が及ぶ恐れがある。
 トランプ氏はかねて、「米国は国際機関や多国間協定に縛られ、損をしている」と主張してきた。温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を決めたのも、同じ理屈に基づいている。
 感染症の流行や気候変動などの地球規模の課題は、1国だけでは対処できない。その認識がトランプ氏には欠けている。脱退によって、WHOに集まる情報を迅速に入手できなくなれば、米国の国益も損なわれるだろう。
 米国のコロナ感染者は世界で最も多く、300万人を突破した。11月の大統領選を前に、トランプ氏がWHOを標的にして政権への批判を避けようとしているのなら無責任だと言わざるを得ない。
 大統領選でトランプ氏に挑むバイデン前副大統領は、当選した場合、WHOに残留するとの考えを示した。米国が最終的に脱退するかどうかは、選挙の結果次第ということになった。
 トランプ氏の自国第一主義か、バイデン氏の国際協調主義か。米国の有権者は、重大な選択を突きつけられている。


 

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