電子印鑑 PC、スマホから
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新型コロナウイルスの影響で企業がテレワークを拡大する中、パソコンやスマートフォンから電子文書に押印できる「電子印鑑」の利用が増えている。どんなものなのだろう? (デジライフ班 加藤雅浩 写真・動画も)
テレワークで利用拡大
電子印鑑とは、電子文書にパソコンやスマホから電子的に押印できる印鑑だ。請求書や辞令など社内外の文書に押す「会社印」、役職名が入った「役職印」、社員個人が使う「個人印」などで使われる。
文具大手のシヤチハタは2017年、電子印鑑を使って一連の決裁をインターネット上で行う「パソコン決裁Cloud(クラウド)」のサービスを開始した。今年2月に約2000件だった新規の利用申し込みは、新型コロナの感染拡大に伴い無料開放を始めた3月で約1万5000件、4月には約16万件にも達した。
このサービスでは、申請者はまず、パソコンで作成した電子文書をサービス画面に取り込む。個人印の電子印鑑を選んで該当欄をクリックして押印し、承認者を指定して申請する。
承認者にはメールで通知が届き、外出先でもスマホから電子印鑑で承認ができる。画面上のハンコを押したい場所をタッチするだけで簡単に押印できる。
なりすまし防ぐ
このサービスでは、セキュリティー上の対策も取っている。申請や承認のためにログインするにはID・パスワードが必要なほか、それぞれの電子印鑑にIDが付与されており、「いつ」「誰が」「どの文書に」押印したかが記録に残る。外部者のなりすましは困難という。
ITサービスの「富士通エフサス」は19年4月、事務処理の停滞解消を目的としてシヤチハタのサービスを導入した。導入以前はハンコを押すためだけに所属長が事務所に戻ったり、承認印が間に合わず顧客への見積書の提示が遅れたりするケースがあったという。
富士通エフサスでは現在、社員約4500人の多くがテレワークをしており、出社組も含めて約2500人が同システムを利用している。経営企画室の出口拓夫シニアマネージャーは「場所を問わずに押印できるようになり、事務処理のスピードが上がった」と話す。
セキュリティー対策を施した電子印鑑を利用できるサービスは、ほかに米アドビのアプリ「Adobe Sign(アドビ サイン)」もある。また、ネット上には無料ソフトも多く、書体やサイズを決めて簡単に電子印鑑を作れるものもある。
現物必要な時も
業務効率アップに有効な電子印鑑だが、現物のハンコに完全に代われるわけではない。
民法の規定で、遺言の作成には遺言者の押印(指印でも可)が必要だが、IT関連法に詳しい浅井孝夫弁護士によると、この場面で電子印鑑は使えない。
国や地方自治体が企業と契約をする際にも一部で押印が義務づけられているが、こちらも不可だ。行政手続きに電子印鑑が使えるケースは、いまのところないという。
[知っておこう]米アドビの日本法人の調査では、生産性向上の観点から、中小企業の経営者・役員らの7割がハンコの慣習を「なくした方がいい」と思いながら、5割が「撤廃は容易ではない」と考えている。理由として、「取引先の契約方法に従う必要があるから」という回答が最も多かった。富士通エフサスでも、同じような理由で契約は紙のままという。
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