8月22日 よみうり寸評
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作家の北杜夫さんは旧制松本高校に通っていた頃、学生寮で過ごした。〈狂 瀾 怒濤 のごとき生活〉だったらしい◆上級生が寝ている下級生をたたき起こして説教する。深夜に大声で歌いながら廊下を跳びはねる。さらに睡眠を削ったのが駄弁 りだった。人生のあれこれを午前3時、4時まで議論する。このひたむきな〈ダベリ〉こそもっとも有意義だったという(『どくとるマンボウ青春記』)◆バンカラの時代ではなくとも学生寮の生活は濃密なのだろう。寝食を共にする暮らしゆえのコロナ禍だったのかもしれない◆大学や高校の部活動で、寮生活をする部員の集団感染が相次いでいる。無策ではなかっただろうから感染予防の難しさを思い知る。しばらくは仲間たちとも密を避けざるをえない◆コロナ前の調査だが、大学の学生寮は増えていると聞く。人付き合いのイロハを身につけられると見直されているのだろう。北さんは回想している。〈私は寮で多くの友情に囲まれて暮した〉。ウイルスも友情までは奪えまい。
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「サザエさん」のお父さん、磯野波平さんはああ見えて現役の会社員である。たまに背広を着て家から出かけたりするのに会社での肩書を聞いた覚えがない◆まず家族の物語に関係しないことが大きいと思われる。原作の漫画や過去に放送されたアニメをくまなく見れば、どこかで紹介されているのかもしれないが、知るだに忘れそうである◆将棋界にも忘れて差し支えない肩書が生じることがある。八段、九段といった呼称は冠を抱くかぎりそれを付けて呼ばれることはない。藤井聡太二冠(18)の段位なしで呼ばれる道はどこまで続くだろう◆二冠目の「王位」を手中にし、八段昇段の最年少記録を打ち立てた。だからといって、藤井八段とは先の事情で呼ばれない。長く段位で呼ばれなかった棋士といえば羽生善治さんがいる。タイトルを保持した期間は連続27年を超え、それに並ぶか追い越すかと藤井二冠に期待がわくのも、若さから未来をみれば自然なことだろう◆ただ当欄で2回も藤井二冠と記しながら、一抹のさみしさを覚える。記者会見の初々しい受け答えなどを見ていると、藤井くんと呼びたくなる。
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