首相退陣表明 危機対処へ政治空白を避けよ
◆政策遂行に強力な体制が要る◆国難とも言える感染症の危機に直面している現在、政治の安定を揺るがせてはならない。政権を担う自民党は、早急に新たなリーダーを選び、混乱を回避する必要がある。
安倍首相が記者会見し、辞任を表明した。持病の潰瘍性大腸炎が今月に入って再発し、病状が思わしくないという。
首相は「病気と治療を抱え、体力が万全でないという苦痛の中、大切な政治判断を誤ることがあってはならない」と述べた。
◆長期政権の功績大きい
新型コロナウイルスの流行を踏まえ、首相は1月下旬から6月下旬まで、147日間連続で執務にあたった。しかし、今月に入り、通院を繰り返していた。体調管理に無理があったのではないか。
唐突な退陣表明とはいえ、病気が原因ではやむを得まい。第1次内閣も、持病の悪化が退陣の要因となった経緯がある。
首相は今月24日、連続の在職日数が佐藤栄作氏を抜いて歴代最長となったばかりだ。通算の在職日数も、憲政史上最長である。2012年末の第2次内閣発足後の政権運営は、7年8か月に及ぶ。
長期政権の最大の功績は、不安定だった政治を立て直したことである。民主党政権は、党内でもめ事が絶えず、「決められない政治」と揶揄 された。
首相に返り咲いて以降、経済再生を最優先に掲げ、大胆な金融緩和や積極的な財政出動によって、景気を回復軌道に乗せた。
緊迫する安全保障環境の中で、日米同盟を基軸として政策を見直したことも評価されよう。
集団的自衛権の限定的な行使を容認し、安保関連法を成立させた。対日防衛義務を定めた日米安保条約の実効性を上げようとした首相の考え方は、理にかなう。
各国首脳と良好な関係を築き、国際社会で存在感を示した。首相が毎年のように代わるようでは、こうはいくまい。
だが、今年に入り、新型コロナの流行への対応は、ちぐはぐだったと言わざるを得ない。
2次にわたる大規模な補正予算で様々な給付措置を実現したものの、煩雑な手続きや、支給の遅れに批判が集中した。マスクの一律配付や、首相が寛 ぐ動画の配信に、違和感を覚えた人は多い。
東京都などで感染が再拡大する中、旅行代金を補助する「Go To トラベル」事業を前倒しで実施したことも無理があった。
官邸主導の政治は、迅速な政策決定を可能にする一方で、首相に近い官僚の意向が反映されやすい。国民の不安の声が、首相に届いていなかったのではないか。
◆総裁選で活発な論争を
安定して長期政権を担ってきたという自負が、気持ちの緩みにつながった面も否めまい。
自民党は、総裁選の準備に着手した。菅官房長官や岸田政調会長、石破茂元幹事長らの出馬が取り沙汰されている。
感染症の抑止に社会全体で取り組むには、政治に対する国民の信頼が不可欠だ。総裁選を通じて、危機を克服するための政策論争を深めてもらいたい。総裁候補は、コロナ後を見据えた社会や経済の青写真を示すべきである。
経済の現状は厳しい。国内総生産(GDP)成長率は、戦後最大の下落幅となった。今後、雇用を維持できなくなる企業が増える恐れもある。
次期政権は、安倍政権同様、感染抑止と経済活動の両立という難しい舵 取りを迫られる。
景気動向や雇用環境を適切に見極め、追加の経済対策を講じることも視野に入れたい。秋以降の企業倒産を防ぐには、資金繰りの支援を円滑に行うことも重要だ。
◆感染症対策の実行急務
首相と全閣僚で構成する新型コロナ感染症対策本部は、政策パッケージをまとめた。検査や医療の体制を拡充する狙いである。
ワクチンについては、来年前半までに、全国民に提供できる数量を確保する方針を掲げた。
高齢者や持病のある人など重症化のリスクの高い人や、医療従事者に優先的に接種するのが妥当である。政府は国内企業の開発支援に加え、海外の製薬会社との交渉も適切に進めねばならない。
検査体制については、PCRと抗原検査を合わせて1日20万件まで能力を向上させるという。
目標や方針の羅列だけでは意味がない。これまでなぜ検査が増えなかったのか。保健所や医療現場など体制の精査が急務である。
政府は明確な戦略に基づき、具体策を着実に進めるべきだ。
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