2020年9月16日水曜日



9月16日 編集手帳

   先日、書店で当欄の「書き写しノート」を持ってレジに向かう女子高校生を見て恐縮した。昔話をするにしても、若い人にわかる書き方をしなければと思ってから、そう時がたっていない◆こう言えば少しは古き時代に近づくだろうか。おばあちゃん世代の話です。コンサートで熱狂したあまり、失神する人が続出していたのを知ってた? 音楽シーンの場外に昔あって今はない景色だろう◆「ザ・タイガース」のメンバー岸部四郎さんが71歳で亡くなった。きのう流れた訃報ふほうに、グループサウンズの絶頂期を思い出された方は多かろう◆京都市で育った。兄の俳優、岸部一徳さんがいたタイガースに加入したのは人気の爆発したあとだったが、気さくなトークでファンをひきつけた。解散後は俳優やテレビの司会者として活躍した。当たり役は「西遊記」の沙悟浄だろう。中国の妖怪がなぜか、とぼけた感じの京都弁で話をしていたのが懐かしい◆コピーライターの吉竹純さんに短歌がある。<GSはグループサウンズ息子よ角のガソリンスタンドじゃない>。悲報なのに、柔らかなコーラスが耳朶じだに響いてくる。

9月16日 よみうり寸評

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 「牛」という詩の冒頭で高村光太郎はその特徴を挙げた。〈のろのろと歩く〉と。だが意思は強い。〈牛はあとへはかへらない/足が地面へめり込んでもかへらない〉◆政界でまず連想されるのは鈍牛と呼ばれた大平正芳元首相だが、この人の経歴も牛の歩みに重なろう。午後の国会で首相に指名される運びの菅義偉氏である。47歳で国政に進出するまでの半生はすっかり知れ渡った◆牛は力も強い。詩人はいう。〈弾機ばねではない/ねぢだ/坂に車を引き上げるねぢの力だ〉。バネが跳ねるようだった前政権の手並みを思う。アベノミクスで景気を一気に回復軌道に乗せたが、近頃はバネの伸びも案じられた◆先の連想から菅氏の身上はネジの力にあるとも考えられよう。地方創生、財政再建等々、粘り強さを生かすにはあつらえ向きの中長期的課題が待ち受ける。ただしコロナ禍という眼前の関門を越すにはバネの力が欠かせない◆新政権の本領はネジかバネか。その船出にあたり、両方の力を併せ持つに違いないと願望を記す。

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