2020年9月16日水曜日

 

 グループサウンズの『ザ・タイガース』のメンバーでタレント、俳優の岸部四郎さんが8月28日、拡張型心筋症による急性心不全のため、千葉県内の病院で死去していたことがわかった。71歳だった。

人気を博すも波乱万丈な人生

 一世を風靡した『ザ・タイガース』。グループ解散後は俳優、テレビ、映画などで活躍し、個性派俳優&司会者として人気を集めていた。年収は2億円といわれた四郎さんだったが、'98年には知人の借金の連帯保証人だったことや浪費癖が重なり自己破産、所属事務所から解雇された。

 '03年には脳出血で倒れ、その後は視野狭窄や歩行に困難を抱えるなど後遺症に悩まされる。'07年には敏腕マネージャーでもあった最愛の妻を突然死で失い、さらにパーキンソン病も患うなど、まさに波乱万丈の人生だった。

 2011年6月、週刊女性は自宅近所の公園で歩行訓練をする四郎さんを取材している。その際、不安神経症と診断されたことを明らかし、

「予見不安なんです。転ぶんじゃないかとか。それで、少しずつ引きこもりがちになってしまって」と胸中を語っていた。

 その姿は、お茶の間を賑わせていたころのふっくらとした外見とはまるで別人のように痩せ細っており、世間に衝撃を与えることに。その5か月後に再び取材した際には、復帰を待ち望むファンの声に対し「こんな状態じゃ、出られるわけないよ」と弱音をポツリ。

 だが、その半年後の1月24日、四郎さんの姿は日本武道館のステージ上にあった。

 沢田研二(ジュリー)のライブツアー『沢田研二LIVE 2011-2012』に四郎さんの兄・一徳(サリー)、森本太郎(タロー)、瞳みのる(ピー)が全公演にゲストとして参加、その最終日に四郎さん(シロー)が駆けつけたのだ。

 '71年1月24日に日本武道館で解散コンサートを行っていた『ザ・タイガース』。なんと41年ぶりの同じ日、同じ場所に5人が揃ったということで、一夜限りの“再結成”となったステージは大きな感動を呼ぶこととなった。

 週刊女性では、当時のコンサートの様子をこう伝えている。

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 不意に一徳がベースを下ろすと、舞台の袖に消えた。そして、四郎と一緒に姿を見せたのだ。

 兄に支えられながら、四郎は自らの足でしっかりと歩いた。ステージの真ん中に用意されたイスに腰かけると、すすり泣く声があちらこちらから聞こえてきた。

 初めは緊張からくぐもった声で「こんなステージに立てるなんて夢のよう。ジュリーありがとう」と話した四郎。だが、次第に得意の話芸が飛び出す。

「1曲とはいわず2曲いきたいところですが、1曲ね」と言って笑いを誘い、女性ファンから「イケてるよ!」と声援が飛ぶと、「どこがイケてんねん」と軽妙に切り返して沸かせた。

 

 イスに座ってザ・ビージーズの『若葉のころ』を懸命に歌い上げると、この日1番の割れんばかりの拍手が。

 

 退場の際、体を支えている一徳に対して「誰?」などと持病の視野狭窄を逆手にとってボケるなど、最後まで四郎らしさを貫き、名残惜しそうにステージを去っていった。

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 四郎さんがステージで歌ったのはなんと30年ぶりだったという。そんな四郎さんの熱唱に客席も涙。そのライブの様子は、翌日のスポーツ紙を賑わせ、ファンにとっても本人たちにとっても“忘れられない夜”になったのだ。

弟を思う、兄・一徳の優しい言葉

 のちに、兄の一徳は週刊女性の独占インタビューでこう振り返っている。

ギリギリまで四郎も自信なかったみたい。だけど、武道館に向けて頑張っていましたよ。カラオケで練習したり、歩行の訓練をしたりね。(中略) 

 四郎は立って歌いたかったんです。当日はイスに座ってという形になりましたけどね。舞台袖までは車イスでしたが、ステージ上では歩くという目標はクリアできた。

 

 ただ彼は元気なときに歌っていた記憶、しゃべっていた記憶があって、そのときの自分と今を比べてしまうんですね。でも、そんなこと忘れていいんですよ。まだまだ気力はあるし、面白いことも話せる。もともと持っているおもしろさがありますからね。

 久しぶりに四郎の歌を聴いて、えこひいきじゃなく、歌は大丈夫だと思いましたよ。高い声も出ていましたからね。自信がないだけなんですよ」(2012年2月21日号より)

 その後、'13年に『ザ・タイガース』は正式に再結成し、四郎さんはその年のライブツアー最終日の東京ドーム公演に車椅子で出演。それが最後の公の場となった。

 ずっと闘病を続けながら復帰を目指していたという。

「四郎は僕よりもよっぽど才能がある。司会だって面白いし、俳優の部分だって」(前出の一徳インタビューより)

 ミュージシャン、俳優、タレントとしての才能に溢れ、その独特なキャラクターで多くの人に愛されていた四郎さん。またステージで歌う姿が見たかった、そのお芝居を、四郎節を、再び見せてほしかったーー。突然の訃報に驚きと悲しみの声が広がっている。

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