「助かるよ、元気ださんば」。被害が大きかった熊本県八代市の高齢夫婦は、逃げ込んだ屋根裏で励まし合いながら一夜を過ごし、約14時間後に救助された。顔近くまで水につかり、一時は死も覚悟したが、浮き上がった畳が足場となり、九死に一生を得た。
同市坂本町の球磨川の支流、油谷(あぶらたに)川沿いで理容室を営む村上勝さん(81)と妻の昭枝さん(78)が異変を感じたたのは、4日午前2時半ごろだった。
「いつもより水の流れが速いな」。大雨が予想されたことから、念のためにと夜通しつけていたテレビは、一刻も早い避難を呼びかけていた。
約1時間後、いきなり1階の店舗部分への浸水が始まった。約60年間営業してきた店をなんとか守ろうと、店の道具を住居スペースの2階に運び始めた。
だが、濁流の勢いは予想以上に激しかった。水位は急激に上昇し、逃げる場所がなくなった。「あっという間に2階まで水が上がり、みるみるうちに胸のあたりまできた」と昭枝さんは振り返る。
少しでも高いところへ逃げようと、2階の窓枠を足場にし、カーテンレールと窓のサッシで体を支えた。だが、体は水につかった状態で、体温がどんどん奪われていく。残された選択肢は天井の板を破り、屋根裏に入ることだけだった。
勝さんはなんとか天井板を押し上げて上がったが、水に体温を奪われ、踏ん張る力がもう残っていなかった昭枝さんには難しかった。ついに水が顔まで迫る中、倒れた仏壇が昭枝さんの目に入った。
「ご先祖さま、申し訳ありません。お父さんだけでも生き残ってほしい」。死を覚悟した直後、たまたま浮き上がった畳が足場になり、必死にはい上がった。
外の状況が確認できない薄暗く狭い空間で、2人で励まし合いながら一夜を過ごした。翌日午後、水が引き始めたのに気づいた勝さんが2階に下りて自衛隊に救助を求め、午後4時半ごろにようやく昭枝さんも助け出された。
水没した店はどんな状態か、まだ確認できていないが、勝さんは再開を諦めていない。「道のりは長いが、常連さんのためにも店を再開させたい」
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