コロナ禍で労働問題、詐欺被害、
ネットトラブルの相談が急増
コロナ禍で生まれたトラブルは数多い。ネット通販で購入したマスクが届かない「マスク詐欺」や、厚生労働省をかたって「10万円の給付に必要だから」とクレジットカードや銀行口座の情報をだまし取る詐欺。在宅時間が増えたことによる近隣住民との騒音問題など、挙げればキリがないだろう。こうしたトラブルも含め、新型コロナウイルスの流行以降、法律相談所には「コロナ禍ならでは」の相談が増えているという。
「特に増えているのは3種類。労働関係の相談と詐欺に関する相談、そしてインターネットトラブルに関する相談です。労働関係は新型コロナの感染拡大によって職を失った人、解雇を宣告された人からの相談が主で、件数は流行前の2倍以上となっています」(清水氏、以下同)
詐欺被害とインターネットトラブルの相談件数が増えているのは、「外出自粛により在宅時間が増えたことが原因ではないか」と、清水氏は分析する。
「詐欺の被害者はだまされている最中、『なんだかおかしいな』と異変を感じるものの、加害者の話の巧みさや勢いに流されてしまいがちです。しかし、外出自粛で在宅の時間が増え、異変についてじっくり考えることができたのか、『もしかしてこれは詐欺かもしれない…』と、相談に訪れる人が増えました。インターネットトラブルも、時間ができてネットに興じる人が増え、あちこちでトラブルが起きているのでしょう」
また、法律相談所の対応もオンライン面談となり、相談者は時間の融通がつきやすくなったことも相談件数の増加に一役買っているようだ。
「これまでは法律相談所に足を運ばないといけませんでしたが、最近は(オンライン面談ツールの)Zoomや電話などを使って、自宅にいながら相談が可能です。そのため、『ちょっと気になる…』というレベルの悩みも相談してくださる方が増え、相談件数が増加したのだと思います」
清水氏いわく、事件になる手前の「少し気になる…」という段階でも相談をすることで、別の問題を浮かび上がらせる効果があるという。
「労働系の相談では、相談内容以外の問題が浮き彫りになるケースが多いですね。たとえば、解雇を言い渡された人から相談を受けて話を聞いていると、賃金未払いやパワハラなどの問題も明らかとなり、より多くの慰謝料を請求できることが判明したという事例もありました。気軽に相談できる環境が整っているからこそ、ささいなことでも気になれば相談してもらえたらと思います」
親にバレない「リモート相談」で
中高生が法律事務所に相談するケースも
労働系の相談以上に増えたというのが、インターネット上でのトラブルだ。被害件数は新型コロナの流行前と比較すると3倍近くも増え、その中には中高生からの相談が多数あり、コロナ流行前よりも増加傾向にあるという。「普段は中高生からの相談はほとんどこないのですが、Zoomや電話であれば親にバレずに相談しやすいため、“リモート相談”を活用した中高生が多かったのだと思います。SNSでの誹謗中傷や、オンラインゲームでのアイテムトレードでのもめ事。女性だと、SNSで知り合った男性に『裸の写真を送れ』と脅されて送ってしまったなど、さまざまな相談が寄せられました」
特にSNSでの誹謗中傷行為は、昨今多くのメディアでも取り扱われている。敏感になっている中高生が多いそうだ。
「もしも自分が誰かから心ない誹謗中傷をされた場合は、スクリーンショットなどで証拠を残し、持ってきてもらうように伝えています。未成年が弁護士に依頼をするには親の承諾書が必要なので、さすがに中高生の相談が実際の依頼に発展するケースはほぼありませんが、証拠を見て、有効なアドバイスをさせてもらっていますよ」
ゲームでのもめ事や、「裸の写真を送れ」と脅迫された場合も、相手の発言を記録することが自分の身を守ることにつながる。もちろん、そんな場面に遭遇しないことが一番だが、ネット上で他人から悪意をぶつけられた際は、できる限り証拠を残しておくことが重要だ。
そして、同様に増えている被害が、ネットショッピングでの詐欺被害だという。中でもコロナ禍で利用者が急増している、「メルカリ」や「ラクマ」といったフリーマーケットアプリは、被害が急増しているそうだ。
「フリマアプリでの売買は素人同士のやり取りなので、以前からトラブルが多くありました。しかし、このコロナ禍では初心者、つまりネットでの詐欺被害に対する危機感があまりない、だまされやすい人の利用機会が増えています。フリマアプリは今、詐欺師に“ターゲット”として狙われやすい人が集まる市場になっているようです」
ネット上での詐欺行為は、犯人の特定が難しく往々にして泣き寝入りをするしかない。そうならないためにも、警戒心を持ってネットを利用することが重要だ。
外出自粛により時間ができたことで
「結婚詐欺」の可能性に気づいた人も
インターネットショッピング以外にもコロナ禍ならではの詐欺被害の相談は増えている。「『結婚詐欺に遭っているかもしれない』と、相談をしに来る人もいました」
新型コロナの流行と結婚詐欺に、どんな関係があるのか。聞けば、これもまた、外出自粛がきっかけだという。
「『恋人と会えない時間が続く中で、冷静に考えたら相手にだまされていて結婚詐欺に遭っている気がする…』という相談を受けました。結婚詐欺でも構造は同じで、詐欺の被害者は異変を感じても、その異変を冷静に分析する暇もないまま金品や個人情報を取られてしまうケースが多い。会えない期間に落ち着いて異変と向き合えたことで、被害に遭う手前で相談することができたのでしょう」
1人の時間が増えたことで相手との関係を考え直した、ということに関する相談は結婚詐欺だけではない。
「不倫に関する相談も増えたように感じますね。1人の時間ができたために相手との関係を見つめ直したという人もいれば、家にいる時間が増えて不倫相手とメールでやり取りをしているところを妻に見られて関係がバレそう、などという相談も受けました」
もしも「コロナ感染第2波」が襲来すれば、再び全国民が外出自粛を求められる可能性がある。そうなれば、今挙げたようなトラブルは自分の身にも降り注ぎかねない。
「どんなことがトラブルになり得るのか、ニュースなどで最新情報を常に仕入れ、警戒心を持ちながら生活するくらいしか、有効な対策はないでしょう」
新しい生活様式が求められる中、どんなことで自分が被害者になってしまうかは分からない。日々変化する社会の流れの中で、トラブルに関する情報もきちんとつかんでいくことが、自衛の手段になるのだと心得たい。
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