2020年7月8日水曜日

             7月8日 編集手帳

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 近松門左衛門が江戸中期に著した歌舞伎の台本に次の表現がある。「さぞしんろかろ」と。現代人が口にする「しんどい」は「しんろ」がなまったものだとの説がある◆では「しんろ」の語源は何か。「辛労」(つらい目にあって苦労すること)、もしくは「心労」(思い煩うこと)ではないかといわれる。広辞苑が<もと関西方言>と説明しているように、「しんどい」はすでに関西を飛び出した言葉になっている◆辛労と心労が、あまりに多い世の中であることと無関係ではあるまい。豪雨被害が拡大し、地域の暮らしを脅かしている◆家が泥水につかった人々はいまだ空模様が怪しく、避難を余儀なくされ片付けを始めることもままならない。折からのコロナ禍も濃く影を落とす。熊本県人吉市には感染症対策を施したバスでさあ営業というところで、車両が泥にまみれたバス事業所がある。福岡県大牟田市では授業が正常化してほどない小学校で一晩を過ごし、ゴムボートで救出される子供たちの姿があった◆被害の全貌はまだ分かっていない。被災者の本当のしんどさが伝わるのは、これからのことだろう

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