2020年7月8日水曜日

東京・渋谷のNHK放送センター (c)朝日新聞社
© AERA dot. 提供 東京・渋谷のNHK放送センター (c)朝日新聞社 「受信料契約を締結する義務はない」


NHK(日本放送協会)が映らない装置を付けた場合に受信料を払う必要があるかどうかを争った訴訟の判決で、東京地裁の小川理津子裁判長は6月26日、原告の訴えを認めた。
 訴えたのは東京都文京区に住む女性。代理人を務めた高池勝彦弁護士が説明する。
「原告の女性は、NHKが映らなくなるカットフィルターと呼ばれる装置が付いた19インチのテレビを購入しました。民放しか映らないようになっています。NHKが受信できないのだから、受信料を支払う義務はありません」
 放送法64条には「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」とある。受信できない設備なら契約も不要との主張だ。
 同様の裁判は、NHKから国民を守る党の立花孝志党首が過去に起こしている。だが、そのときはテレビの外側に装置を付けたことから、「フィルターを取り外してNHKを見ることができる」などとして原告が敗訴した。
「今回のテレビでは、チューナーの近くにフィルターを埋め込んだ上、硬化剤などに使われるエポキシ樹脂でガチガチに固めてあります。無理に外そうとするとテレビ自体が壊れてしまいます。NHKは容易に復元できると主張しましたが、実験をした結果、受信できる状態ではないと裁判官に判断してもらえました」(高池氏)
 このカットフィルター、iranehk(イラネッチケー)を作ったのは、筑波大准教授でメディア工学などを研究する掛谷英紀氏。2013年から開発に取り組み、その翌年にアマゾンで販売を始めた。価格は5千円程度。前述した立花氏の裁判や、今回の裁判にも関わっている。
「3千円で購入した中古テレビに私がフィルターを装着し、その上から金属板などで覆って電波を遮蔽しました。原告となった女性から問い合わせが来たので、テレビを譲る代わりに原告を引き受けてもらえないかと持ちかけたのです」(掛谷氏)
 iranehkを開発したのは、NHKの制度に問題が多いと考えるからだ。
「現行制度の下では、視聴者は受信料支払いを強制されるのに、NHKに何の影響力も及ぼせない。役員も国民の意思を反映せずに決まってしまう。これでは独裁と同じ。ならばNHKとの契約を拒否する手段を提供しようというのが開発の目的です」
 すでに2500個以上が売れ、判決後はテレビの設置台数が多いホテル業などから問い合わせが来ている。
 元NHK放送文化研究所主任研究員で上智大学名誉教授の石川旺氏は、今回のような裁判が起きるのはNHKが自ら招いたことだと指摘する。
「広く契約者に財源を求める以上、NHKには市民を代表して権力を監視する役割がある。だが、それに反することをやってきた。だから受信料の支払いを拒否する人が出てきたのです」
 NHKに見解を尋ねると、「控訴する方針です。主張は裁判の中で伝えていきます」(広報部)と回答した。(桐島瞬)

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