2020年8月30日日曜日

  •           8月30日 編集手帳

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     終戦直後、75年前の本紙を見直し、意外に思うことがある。映画・演劇の広告が載っている。激動する時代を報じた一隅にちらほら出続け、例えば8月31日は伴淳三郎一座の広告が見いだせる◆バンジュンとて玉音放送には衝撃を受けた。ドサ回り以来の友人で、一緒に慰問公演もした歌謡漫談の川田晴久とともに聴いた。『伴淳放浪記』によると、ラジオの前で号泣し、とにかく皇居を遥拝ようはいしようと町に出た◆本紙への寄稿にも同じ回想がある(1953年5月11日付)。川田は〈停留所のド真ん中で土下座し〉、通行人に〈『すみませんでした』と敗戦が自分一人の責任かのように〉謝り続けたという。その姿に思わず手を合わせて、伴もまた泣き崩れた◆その半月後、舞台に立ったことになる。演目は「軽喜劇 見合ひの日」等。たくましい。ほどなく伴は「アジャパー」で人気を博す。川田が美空ひばりを見いだし、大スターに育てたことを知る人も少なくないだろう◆いままた興行界は苦難のさなかにある。休演、客席減と長引くコロナ禍に悩まされているが、確かなことが一つある。復興の日は必ず来る。

           8月29日 よみうり寸評

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 「サプライズ」という英語は今、当たり前のように日本の新聞に登場する。そう昔からのことではない◆2000年代に入り、小泉純一郎元首相が閣僚や自民党役員の人事で盛んにそれを演出した。「驚き」の日本語訳がなくても通じるカタカナ語として定着したのが、この頃だったかと思う◆小泉サプライズ劇場のハイライトに、当時49歳、衆院当選3回の安倍晋三官房副長官を党幹事長に抜擢ばってきした17年前の人事がある。時代は移って昨年秋、今度は安倍氏が自分の内閣の一員に元首相の次男の進次郎氏を加えた。このときの紙面にも「サプライズ」の5文字が躍る◆その首相が自ら政権の幕を下ろすと表明した。国民に広がった驚きは在任中のどのサプライズも遠く及ぶまい。病状が心配されていたとはいえこれほど急な決断を何人が予想しただろう◆思えば東日本大震災後の国難のなかで誕生したのが第2次安倍内閣だった。コロナ禍という新たな国難の出口を見いだせないまま、歴史的な長期政権が後継にバトンを託す。

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