その中には考えられないような、際どいお笑い路線も多かった。各球団を代表するスター選手が出演、お茶の間の笑いを誘ったものもあった。
世間を席巻した野球CMを思い出し、新型コロナウイルスなど、閉塞感が充満する現代を笑って過ごそうではないか。
テレビ離れなどが叫ばれ、大衆の娯楽はYoutubeなどネット方面へ完全シフトしている。当然、各企業はCM関連に関しての軸足が変化している。ソフトバンク『お父さん犬』のような息の長いものもあるが、記憶に残る名作CMはテレビから消えつつある。しかし昭和から平成にかけ、テレビCMの中心に野球が君臨する時代も長くあった。
テレビ人気全盛時、CMの顔はやはり巨人選手。グラウンドでのイメージがそのままCMになったようだった。
「いいですね元気」海岸でゴロをさばき1塁送球で手をヒラヒラしたのは長嶋茂雄の『アスパラエース』(田辺製薬)。
「お菓子のホームラン王」が決めゼリフ、王貞治(現・ソフトバンク球団会長)の『亀屋万年堂・ナボナ』。東京・自由が丘発祥の和菓子屋の社運も変えたという。
現在監督を務める原辰徳は「アイアイ、アイリス」の目薬『アイリス』(大正製薬)、自動車のスバルなど、ルーキー年からCMに引っ張りだこだった。
『明治アーモンドチョコ』には、のちに“いじられタレント”として有名となる定岡正二が出演し爽やかにチョコをほおばった。
そして怪物・江川卓は『不二家ピーチネクター」内で「もももも……ごっくん」とやってみせ、入団時に生まれたアンチ・ファンすらも唖然とさせた。
中畑清と篠塚和典が白いタキシード姿でタップダンスを踊る『オートバックス』も印象に残る。
巨人といえば「小さな巨人です」の『オロナミンC』は鉄板だ。
当初は初代出演者の大村崑氏が有名だったが、その後は巨人選手に変わった。春季キャンプ地だったグアム島で撮影されるCMには、主力選手がズラリ登場。巨人のユニフォームを着て実戦さながらに白球を追う姿は、まるでイメージVTRのようなカッコ良さ。レギュラー参加する人気者・中畑の存在感が一際目立っていた。
同じく人気球団の阪神では、ミスタータイガース・掛布雅之。
『背番号31』のユニフォームを着て金鳥のCMに登場した。「蚊にはキンチョー、マットです」、落語家・三遊亭円丈との掛け合いは、掛布氏の憎めないキャラにマッチした。また同シリーズでは、阪神キャップにスーツ姿の掛布がスナックにいる設定もあった。
85年阪神日本一の立役者ランディ・バースは、ジレット社CMでトレードマークのヒゲを剃り落とした。ギャラ推定1億円とも言われ、「俺はヒゲを剃れない。絶対に剃れない」のセリフとともに別人のようになってしまった。その後、同社は『剃刀の三冠王』のコピーを使用した。
地方のローカルCMでは、ご当地球団選手の抜擢はお約束。地域密着はかなり昔から行われていた。
広島選手が登場したのは、即席ラーメンの『出前一丁』(日清食品)。
大野豊、川口和久、津田恒実など中心選手が登場し、スタジオ内でシャドーピッチング。作品のチープさが当時の広島を連想させる。
地元企業が広島選手を支えるのは、人気球団となった現在でも変わらない。
『もみじ銀行』に田中広輔と西川龍馬が登場。旧広島市民球場横に本店のる家電量販店『エディオン』が野間峻祥を起用したこともある。また『眼鏡市場』にはたびたび外国人選手が出演。ブラッド・エルドレッド、ヘロニモ・フランスア、クリス・ジョンソンが見事な“広島弁”を披露している。
関西では家電量販店ジョーシンの阪神選手バージョン。
18年ぶりのリーグ制覇を果たした03年からはじまったCM。初代出演者から今岡誠、赤星憲広、矢野輝弘(現監督※名前は当時の登録名)と豪華な陣容。08年にはここに藤川球児も加わった。以後も新井貴浩や鳥谷敬(現・ロッテ)、藤浪晋太郎など大物が出演。今年は梅野隆太郎、糸原健斗が選ばれた。
ジョーシンCMも広島のものとさほど変わらないクオリティ。合成場面の前で懸命に演技をしている選手の姿がいじらしくも感じる。
九州全域に多大な影響力を持つ、ソフトバンク選手も多くのローカルCMに出演している。
ダイエー時代には井口資仁(現・ロッテ監督)が「辛子めんたいのまるいち」に出演。福岡の宅配ピザ「ピザクック」は12年から松田宣浩をイメージキャラに起用、CMでは宅配バイクに乗る。そして明石健志はバック宙ができる肉体美、というつながりで『ハンディミストシャワ-IO霧(イオム)』(クレイツ)に出演。もはや何でもあり、という状況にもなっている。
地域密着ではないが金田正一は現役、ロッテ監督時代も含めキャラそのままにCMでも飛び抜けた存在感を発揮。
ノックを打ちながら「もう1つ」と聞き返すロッテの自社製品『ロッテ・イタリアーノ』。
和服姿で「うまきこと誠にぜんざい、わかっちょるね」とカメラ目線でのたまう『ロッテ・ぜんざい」。
「男はがんばろう」と上半身裸で腕立て伏せをする『チョーヤの梅酒』。
極めつけは、15歳の娘さんと共演した『エクボ ミルキィフレッシュ」(資生堂)。スイカや洗濯カゴを頭にかぶらされるオチまでついている。
スポーツメーカーや他業種も野球をモチーフにしたアイデアで攻めている。
なかでも野球メーカーSSK社はとんがっていた。多くのプロも愛用する一流メーカーで、一時期は『ディンプル』と呼ばれる独自技術構造を前面に出すCMでの正統派勝負だった。契約選手の巨人・西本聖や阪神・岡田彰布を使ったストイックなプレー映像でのCMだった。しかしある時からシフトチェンジ。今ならコンプライアンスに引っかかりそうなものを全国放送していた。
「ジャック・ハズ・ア・バット・アンド・ツーボールズ」とひたすら叫びながら基礎練習に打ち込んでいる選手。しかし捉え方によっては、完全に下ネタ。これを野球中継のイニング間に流していたとは、恐れ入る。
その他にも「ヒロシ、かっ飛ばせ」と母親がスタンドで応援を先導するものなど、シュールなものが多かった印象だ。
虫刺されで悩む夏の時期と高校野球をかけた『ムヒ』(池田模範堂)も秀逸。オンエア当時の高校野球にこだわっている。
監督役は、必殺仕事人シリーズで有名な藤田まこと。帽子を脱いで挨拶すると校歌斉唱始まるが、着用ユニフォームは大阪・PL学園を連想させる。そしてもちろん「池田」は徳島・池田高ともリンクする。高校野球好きが企画したのがわかるCMだ。
「もっと選手が世間に認知され、CMにもバンバン出ないと」
巨人・今村司球団社長が昨年の就任早々感じたのは、選手露出の必要性。以降CMをはじめファッション誌など、これまでとは異なる媒体での露出が目立つようになってきた。良いことで、やはり巨人が本気になれば多くのことが動き出す。
その中で昔ながらの野球CMの良さも生かして欲しい、「かっこいい」「クール」だけを目指したCM設定には限界がある。プロ野球選手は芸能人ではない。演出だけにこだわっても滑稽にも映ることもある。選手の良さや意外性を生かした、語り継げるような野球CMを期待してしまう。
可能であれば『オロナミンC令和バージョン』が見たいものだ。
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