7月3日夜から九州に線状降水帯ができて局地的に猛烈な雨が降り、熊本県を流れる球磨川が氾濫して広範囲が浸水。4日に熊本県と鹿児島県に大雨特別警報が出され、6日から7日には福岡県、佐賀県、長崎県に大雨特別警報が発表されました。
その後、東日本が大雨の中心となり、7月8日朝には岐阜県と長野県に大雨特別警報が出され、岐阜県を流れる木曽川水系飛騨川などが氾濫、土砂災害が発生しました。
さらに翌週、7月13日から14日には中国地方でも大雨となり、島根県を流れる江の川下流が氾濫、広島県で土砂災害が発生しています。
多くの河川の氾濫、広範囲での浸水・冠水、土砂災害などによる被害は甚大で、7月16日時点の死者は76人、心肺停止1人、行方不明者8人です。
「令和2年7月豪雨」の特徴
「令和2年7月豪雨」の特徴の1つは、長い期間にわたって断続的に大雨となったことです。原因は、梅雨前線の停滞です。気象庁職員も「記憶にない」というほど長期間にわたり、日本付近に梅雨前線が停滞しています。
このため、梅雨明けが遅くなりそうです。
すでに奄美では、観測史上最も遅い記録を更新しています。奄美の梅雨明け平年日は6月29日、これまで最も遅い記録は7月15日でした。九州南部でも平年日の7月14日をすでに過ぎています。
そして、関東甲信は7月21日ですが、平年より遅くなる見込みです。東京では6月30日から7月18日まで19日連続で雨が観測されていて、これまでにない梅雨となっています。
7月16日に気象庁は、「北・東・西日本の日照不足と長雨に関する全般気象情報」を発表し、今後2週間程度もくもりや雨の日が多く、日照時間が少なく、降水量の多い状態が続くと予想しています。
なぜ今年は梅雨前線が長く停滞しているのか。主に2つの原因があります。
1つは、太平洋高気圧です。
梅雨前線は、太平洋高気圧によって日本の南から北に押し上げられます。太平洋高気圧が日本付近に張り出すと梅雨前線は北上し、梅雨明けになるのです。
しかし今年は、日本付近への張り出しが弱いです。
太平洋高気圧の日本付近への張り出しが弱いのは、フィリピン近海の対流活動が弱いためだと考えられます。両者には相関関係があり、「PJ(ピージェー)パターン」といいます。
フィリピン付近の対流活動が弱くて積乱雲の発生が少ないため、今年はこれまで台風の発生数が少ないです。台風が発生すると太平洋高気圧の勢力が強まり日本付近へ張り出します。
もう1つは、偏西風です。
偏西風は大陸から日本に向かって吹く西風ですが、朝鮮半島から日本付近で南に蛇行しています。
蛇行する偏西風と張り出さない太平洋高気圧に挟まれて、梅雨前線は日本付近に停滞しているのです。
記録的な暖冬が影響
今回の豪雨で記録的な降水量になったのは、梅雨前線の停滞に加えて、日本近海の海面水温が高いことが影響していると考えられます。昨年から今年にかけての冬は、記録的な暖冬でした。
暖冬の年は冬から海面水温が高く、この時期も平年より高くなっています。海面水温が高いと水蒸気量が多くなるため、梅雨前線に大量の湿った空気が流れ込んで前線の活動が活発になり、降水量が多くなったのでしょう。
昨年は、東京都を含む13都県で大雨特別警報が発表され、長野県の千曲川が決壊した「令和元年東日本台風(台風19号)」。2年前は「平成30年7月豪雨(通称:西日本豪雨)」、3年前は「平成29年九州北部豪雨」など、毎年災害が発生しています。
海面水温が豪雨に影響しているのは、「令和2年7月豪雨」に限ったことではなさそうです。
1900年代からの約100年間、日本近海の海面水温は上昇傾向にあります。
海面水温が高いと水蒸気量が多くなり、前線の活動が活発になったり、台風が発達しやすくなったりします。水蒸気は雨のもとになるので、水蒸気量が多いほど降水量が多くなりやすいです。
したがって、近年豪雨が増えている理由の1つは、海面水温が高くなっていることだと考えられます。
日本近海の上昇率は世界全体の2倍以上
そして、海面水温は世界の中でも特に日本近海で上昇しています。2019年までの約100年間の上昇率は、日本海中部の上昇率が最も高い+1.72℃、日本近海の全海域平均は+1.14℃です。
同じ期間の海面水温の上昇率は、世界全体が+0.55℃、北太平洋全体が+0.53℃となっていて、日本近海の上昇率は世界全体の2倍以上です。
「令和2年7月豪雨」は梅雨前線による豪雨でしたが、今後は台風による災害のおそれもあります。
これまでは日本の南で発生した台風が北上して日本に接近することが多かったですが、近年は日本付近で台風が発生したり、日本に上陸する直前まで発達したりしながら進んでくる印象があります。日本近海の海面水温が高いことにより、台風のエネルギー源となる水蒸気量が多いためでしょう。
ハザードマップを確認したり、防災グッズを用意したり、大雨警戒レベルや避難情報が通知されるアプリを入れたり、これまで以上に私たち一人ひとりが自助や共助を考える必要があるでしょう。
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