まず巨人自体のチーム状態であるが、得点、失点、本塁打、防御率はリーグ1位の数字を残してはいるものの、投打ともに全てが順調というわけでは決してない。先発投手ではエースの菅野智之、20歳の戸郷翔征が見事な成績を残しているが、それ以外は不安定な投球が目立つ。戸郷も高校卒2年目で、一年間を通して投げ切った経験はないため、ここから調子を落とすことも十分に考えられるだろう。
リリーフでは抑えのデラロサが故障から復帰し、セットアッパーの中川皓太、トレードで加入した高梨雄平やベテランの大竹寛も安定しているだけに、新外国人のサンチェス、実績のある田口麗斗、故障で離脱したメルセデスあたりの先発陣がどこまで持ち直してくるかがポイントとなりそうだ。
一方の打線は主砲の岡本和真が現時点でホームランと打点の二部門でトップを走ってはいるものの、セ・リーグの打率上位10人には一人もランクインしていない。特に坂本勇人と丸佳浩の調子がなかなか上がらず、そのことが先日の編成会議で出た即戦力の野手を最優先するという方針に繋がったと考えられる。
ただここへ来てようやく2人ともに当たりが出始めたのは大きなプラス材料だ。トレードで加入したウィーラーと今年が正念場と見られていた中島宏之のベテラン二人も存在感を見せており、松原聖弥、北村拓己といった新戦力の台頭が見られるのも心強い。全体的な層の厚さはやはり頭一つ抜けている印象だ。
他の5球団を見てみると、まず対抗の一番手になりそうなのはDeNAだ。7月中旬には6連敗を喫したものの、それ以降は持ち直し、8月以降は勝率5割以上をキープしている。
何よりも大きいのが不振の山崎康晃に代わって抑えを任されている三嶋一輝の頑張りだ。8月は9試合に登板して全て無失点に抑えており、被安打3、与四球1という抜群の安定感を見せた。三嶋に繋ぐまでの7回、8回についてはまだまだ課題が残るものの、最後の1回を固定できたことは大きなプラスである。
そしてDeNAを推すもう一つの要因が、離脱している選手の復帰による上積みである。投手陣ではエースの今永昇太、8月上旬まで防御率1点台という安定感を見せていた平良拳太郎、ルーキーながらデビュー戦で見事な投球を見せた坂本裕哉が現在戦列を離れているが、この三人が戻ってくれば先発ローテーションのやりくりは一気に楽になる。野手も新外国人のオースティンがようやく二軍で実戦復帰を果たしており、現在二軍で調整中のロペスとともにスタメンに戻ってくれば得点力アップも期待できるだろう。
もう1チーム挙げたいのが阪神だ。チーム防御率は巨人に次ぐリーグ2位で、打率はリーグ5位ながらも1試合の平均得点は3位とリーグトップの打率を誇るDeNAを上回っている。まず大きなプラス要因が若手投手の台頭だ。先発では高橋遥人、リリーフでは馬場皐輔とドラフト上位で獲得した選手の存在が大きい。
ともにストレートで打者を圧倒できるだけに、他の技巧派投手との相乗効果も生まれている。また開幕当初は不安定だったブルペン陣もスアレスとガンケルの新外国人二人が機能し始めてからは大きく改善した。顔ぶれは少しずつ入れ替わっても、投手力が大きく落ちないのはもはやチームの伝統と言っても良いだろう。
そして攻撃陣では長打、ホームランの増加に尽きる。ここまで新外国人のサンズが13本、ボーアが12本の本塁打を放ち、開幕当初はベンチスタートが多かった大山悠輔も7月からは調子を上げて、昨年の14本に早くもあと1本と迫る13本塁打をマーク。この3人だけでチームの約2/3のホームランを放っている計算となるのだ。
開幕当初は2年目のジンクスに苦しんでいた近本光司も急激に調子を上げてきており、リーグトップの盗塁数(15個)をマークしている。ヒットは少なくても効率よく得点するパターンはできつつある。また、先日引退を発表した藤川球児の最後を飾ろうとチームが結束することもプラス要素となりそうだ。
今のところ巨人の優勝確率がダントツで高いことは間違いないが、今年のセ・リーグはクライマックスシリーズも行われないため、このまますんなり優勝が決まってしまっては面白くないと感じている野球ファンも多いはずだ。下位に沈んでいる中日、広島、ヤクルトも含めて、最後まで混戦となるような戦いを見せてくれることを期待したい。(文・西尾典文)
●西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。
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