2020年9月3日木曜日

                  9月3日 編集手帳 
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 「怖い」と「恐ろしい」は、どちらも危険や不安を感じた時に口にする。だがものの本によれば、若干の違いがあり、怖いは主観的、恐ろしいは客観的に用いるという◆例えば、カエルが怖い――これをカエルが恐ろしいと書いたとすると、カエルをかわいいと思ったりする人から、あなたの主観ではないかと苦情をいただくのかもしれない◆危険や不安にすべての人がひとしく持つ感情が「恐ろしい」であるとすれば、きのうの気象庁の発表が当てはまるだろう。週末に列島に接近または上陸すると予測される台風10号である◆中心気圧は925ヘクト・パスカルに達し、高潮などで約5000人の死者を出した1959年の伊勢湾台風(929ヘクト・パスカル)に匹敵する。大雨、暴風とも未曽有の猛威になる可能性もあるという。気象庁は「週末前に備えを終わらせてほしい」と最大限の警戒を呼びかけている。予想進路上にお住まいの方はきょうあす、ゆっくりとは過ごせないことだろう◆ようやく朝夕が秋らしくなってきたと思ったら、恐ろしいと警戒すべきものも交代しつつある。熱暑から息つく間もなく、台風シーズンに入った。

       9月3日 よみうり寸評

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 神々から〈この漂える国を整え固めよ〉と命じられた二柱の神が、あまの浮橋に立って島をつくる。古事記が伝える「国生み神話」である◆二神の名をイザナギとイザナミという。その地に降りて結婚し、次々と島を生んで日本列島が形成されたという国土創世たんは、いにしえびとの思念を宿し、いつ読んでも趣深い◆神話に彩られた島が脚光を浴びている。最初の子とされる〈淡道あわじわけのしま〉、いまは兵庫県の淡路島へ、東京から本社の主要機能を移すという上場企業が出てきた◆既に現地で観光事業を手がけている人材派遣大手のパソナグループである。働き方改革に加え、災害時の事業継続を考えての判断らしい。代表ら幹部のほか、管理部門などの1200人ほどが常駐するようだから、瀬戸内の島は大いに活気づくことだろう◆コロナ禍で定着したテレワークが移転計画を可能ならしめたと聞く。ならばいまは、東京一極集中から脱却する好機ともいえよう。地方再生へ、国生みの島がひとつのモデルとなればいい。

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