斜視<3>長時間のスマホ 影響も
「同じ看板が二つに見えるんですよ」。大阪市の会社員飯塚大輔さん(37)は、JR大阪駅前で、100メートルほど先のビル壁面にある看板を指さした。この20年、内斜視と向き合ってきた。
高校3年の時、参考書を長時間読んだ後、物が二重に見える「複視」になった。少し目を休めると元に戻った。しかし、20歳代半ばになると頻繁に複視になり、なかなか回復しない。車の運転に支障を来すとの危機感を持った。
内斜視との診断はすぐについたが、治療を受けてもなかなか改善しない。いくつかの病院を回った後、2011年7月、浜松医大病院教授の佐藤美保さんの診察を受けた。
手術を2回した。1回目は同年12月、右目を外側に引っ張る外直筋を短くして張力を高めた。2回目は15年8月。右目を内側に引っ張る内直筋を緩めた。症状はかなり改善した。
手術前、佐藤さんは飯塚さんから目の使い方を聞いた。テレビゲームが好きで、週末は8時間以上遊ぶことがあり、その度にひどい複視になった。
「デジタル機器が内斜視を悪化させるのかも」。そんな問題意識から、佐藤さんが医師仲間に尋ねると、子どもや若者を中心に、同様の事例が増えていることがわかった。特に、目との距離が約20センチと近い、スマートフォンの影響が大きい可能性が見えてきた。
スマホを見る時、両目は内側に寄り、ピントを合わせようと瞳孔は小さくなって、レンズにあたる水晶体は大きく膨らむ。画面は小さいため、視線はほとんど動かず、目の筋肉に大きな負荷がかかる。
これが内斜視の原因の一つと疑われており、「スマホ斜視」と呼ばれている。予防には、30分ごとに5分間休憩して遠くを見たり、スマホを30センチほど離して見たりするなどの工夫が必要だという。
しかし、コロナ禍でテレワークや休業日が増え、外出も減る傾向にある。飯塚さんも、気がつけばテレビゲームとスマホの時間が増え、内斜視の症状は悪化した。「なるべくスマホの時間を減らすように気を付けているんですが……」
日本弱視斜視学会などは昨年秋、全国で200人の患者を目標に、スマホ斜視の実態を調べる研究を始めた。同学会理事長を務める佐藤さんは「子どもたちの周囲にスマホがあり、学校現場のデジタル化も進む。リスクが高い人の特徴や、安全な使い方の手がかりを見つけたい」と話す。
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