古里 気分だけでも 孫の顔見たいが…
帰省「自粛」か「容認」か…知事 割れるお盆判断
■「ぜひ控えて」
「親類の帰省はぜひとも控えて」。秋田県の佐竹敬久知事は3日の記者会見で、家族に帰省の取りやめを促すよう県民にメッセージを送った。県は8~23日に秋田空港と大館能代空港にサーモグラフィーカメラを設置し、帰省で増えるとみられる到着客の検温を実施するなど対策に乗り出す。
秋田市楢山本町の無職女性(71)は、例年なら3~5日滞在する親戚家族に帰省しないように伝えた。「高齢なので感染リスクを考えた。苦渋の決断」とし、「家でゆっくりと過ごすしかない」と寂しそうに話した。
人口10万人あたりの感染者数が一時、全国で上位になった福井県。杉本達治知事は4日の記者会見で、「東京から(の帰省)は自粛してほしい。感染が拡大している地域からでも慎重に判断してほしい」とし、帰省による感染の再拡大に神経をとがらせた。
福井市内で越前そば店を営む男性(77)は「県外の孫と会えるかと楽しみにしていたが、万が一のことがあるとお客さんにも迷惑をかけてしまうので、『夏は帰省しないで』と伝えた。我慢するしかない」と肩を落とした。
■「特別な行事」
山口県宇部市の山口宇部空港の到着ロビーに7日、「マスクの着用・手洗い」「お出かけ先の安全を確認」などを帰省客に呼びかける看板が設置された。同県の村岡
■期待と不安
帰省を巡る知事の発言は、観光にも影響を与えそうだ。
新鮮な海産物が集まる北海道函館市の「函館朝市」。鈴木直道知事が7日、「感染防止を徹底できない場合、帰省や旅行、会合を控えるなど慎重に判断してほしい」と呼びかけたことに、関係者は複雑な表情だ。
来場客にマスク着用を義務づけ、店頭には見本写真を並べて海産物を販売するなど対策を講じ、激減していた観光客が7月下旬の4連休以降、回復の兆しを見せたばかり。函館朝市協同組合連合会の藤田公人理事長は「にぎわってほしいが、全国の感染状況を見ると仕方がない」と語った。
「一律に自粛、中止とすることは致しかねる」と、福田富一知事が帰省に理解を示した栃木県。那須町にある那須温泉の旅館「山水閣」は、客室計23室の稼働率を約7割に抑えるなど3密を避け、繁忙期のお盆に県外から客を迎えようと余念がない。片岡孝夫社長(48)は「お客様に安心安全を感じてもらうことで、これまで通り癒やしの時間を提供したい」と話す。
特産品店・墓参代行 注目
「特別な夏」が始まる。新型コロナウイルスの感染拡大で、東京都内の空港からは7日夕、帰省者や観光客らが地方に飛び立った。一方、旅を控える人たちの中には、自宅でふるさと気分を味わおうと特産品を買い求める人も相次いでいる。
■ひっそりとしのぶ
「どうしても息子の墓参りに行きたい」。羽田空港第1ターミナルから飛行機で札幌市に向かう東京都練馬区の主婦(72)は話した。
主婦の次男は2年前、くも膜下出血で突然、亡くなった。まだ40歳だった。お墓は札幌市にあるという。「お盆には、息子に会える気がしているので……」。ただ、今年は親戚が集まることはなく、ひっそりと亡き息子をしのぶという。
政府の「新型コロナウイルス感染症対策分科会」メンバーの平井伸治・鳥取県知事は7日の記者会見で、お盆休みの帰省などに懸念を示し、「帰省される方は、しっかりと感染拡大防止に協力していただきたい」とくぎを刺した。福岡県に帰省する埼玉県の大学3年の女子大生(20)は「飛行機のキャンセル代がもったいないので帰るが、祖父母には会わず実家でゆっくり過ごす」と語った。
■アンテナショップ
この夏は「特別な夏」――。東京都の小池百合子知事は7日の定例記者会見で、ボードを手に「旅行、帰省はお控えいただきたい」と改めて呼びかけた。
せめて「巣ごもり夏休み」を楽しもうと、都内のアンテナショップは活況を呈している。
東京・銀座にある福井県のアンテナショップ「食の
福井特産の塩うになどを購入した東京都江戸川区の自営業男性(64)は例年、お盆には福井県鯖江市に帰省していたという。だが、「今年は地元の味で帰省した気分だけでも味わいたい」と話す。
■仮想現実
帰省できない人たちの代わりに、お墓の掃除を代行するサービスも登場している。タクシー大手の第一交通産業(北九州市)は7月から、運転手がお墓を掃除して線香もあげる事業を全国34都道府県に広げた。担当者は「お墓参りの新しいスタイルを提供し、先祖を供養する気持ちに寄り添いたい」と話した。
全国約300の石材店でつくる「全国優良石材店の会」は今月1日から、自宅にいながらVR(仮想現実)でお墓参りを疑似体験できるサービスを始めた。同会の認定店が360度カメラを使い、墓掃除や花や線香を供えてお参りしたりする様子を撮影。依頼者は後日送られてくるVR機材で疑似体験できる。
同会は「お墓参りに行けず申し訳ないと思っている人の心の負担を、少しでも和らげられれば」と期待を込める。
赴任後 離ればなれ…海外駐在 寂しい家族
コロナ禍によって日本と海外との行き来も滞り、家族と何か月も会えず寂しさを募らせる人がいる。
1歳の長女、3歳の長男と暮らす大阪府枚方市の女性(38)は2月から、中国・蘇州市に駐在中の夫(39)と離ればなれの生活を送る。蘇州市で家族4人で暮らしていたが、1月に4人で一時帰国した後、中国で感染が広がった。2月上旬には夫が中国に戻り、単身赴任状態に。「その時は、半年以上も夫に会えないなんて思いもしなかった」
離ればなれとなった長男は、夫とのテレビ電話で涙を流すことも。元々、夏休みには家族そろって日本の実家に帰省したり、沖縄に旅行したりと満喫していた。女性は「夏休みどころか、日常生活も一緒に送れず、本当につらい」と話す。
政府は、EU諸国や中国、米国など100超の国・地域を対象に渡航中止勧告を出している。航空各社によると、お盆期間(8月7~16日)の国際線予約数は、日本航空が約8500人、全日空は約1万1500人にとどまり、それぞれ前年に比べて96~97%も激減した。
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