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黄斑部とは、眼球のいちばん奥にある網膜の中心部。直径6ミリ程度で、光をキャッチする「視細胞」が密集しており、「ものを見る」機能の中心的役割を担う。加齢により黄斑部に障害が起こり、視力が低下する病気が「加齢黄斑変性」だ。
もともとは欧米人に多い病気だったが、近年は日本でも増加している。名古屋市立大学病院眼科教授の小椋祐一郎医師はこう話す。
「食生活の欧米化などが、日本でこの病気が増えている要因のひとつと推測されます」
この病気のいちばんの要因は加齢だが、「遺伝的な体質も関係している」と、東京女子医科大学病院眼科教授の飯田知弘医師は話す。
「遺伝といっても、親がこの病気になったから子どもも必ずなる、というものではなく、例えば、母と娘の顔が似るのと同じように、体質として引き継がれる要因が関係しているといわれています」
ほかに、喫煙や強い光に当たること、食生活(ビタミン不足)などもリスク因子とされている。
黄斑部に障害が起こると、ものがゆがんで見えるようになる(変視症)。障害が進むと、視界の中心が暗くなって見えなくなり(中心暗点)、視力も低下する。
早期診断のためには、「ゆがみ」に気づいた時点で眼科を受診することが望ましい。ただし、目は片方の見え方に異常が起こっても、もう片方が補うため、両目で見ると異常に気づきにくい。加齢黄斑変性は片目ずつ発症することが多く、「視界のゆがみに気づかず、かなり進行してから受診する人も少なくない」と飯田医師は話す。
「ときどき片目で見え方を確認し、まっすぐな線がゆがんで見えたり、左右の目で見え方が違ったりした場合は眼科を受診しましょう。必ず片目ずつチェックすることが重要です」
■診断技術の進歩で早期発見が可能に
加齢黄斑変性は、黄斑部の障害の起こり方によって「滲出型」と「萎縮型」に分けられる。
日本人の加齢黄斑変性の9割は滲出型で、このタイプでは網膜の下に「新生血管」と呼ばれる異常な血管ができ、増殖する。新生血管はもろく、破れた血管からの出血や、血管から漏れ出した液体成分がたまって網膜が腫れ、黄斑部がダメージを受けて視力が低下する。滲出型は進行が速く、著しく視力が低下し、放置すると失明につながるリスクがある。
一方、萎縮型では新生血管はできず、黄斑部の組織が萎縮して視細胞が減少していく。進行はゆっくりで、経過観察となる。
加齢黄斑変性の診断のためには、視力検査、アムスラー検査、眼底検査、光干渉断層計(OCT)検査などをおこなう。
アムスラー検査とは、変視症の有無を調べる検査で、片目で方眼紙のような図を見て、ゆがみがあるか確認する。簡単な検査のため、自宅でも定期的にチェックすることがすすめられる。眼底検査では、網膜の状態を詳しくみることができ、新生血管や出血の有無などがわかる。OCT検査は、網膜を断面図として見る最新の検査法で、新生血管や黄斑部網膜などの状態を明確に把握できるため、加齢黄斑変性の診断には不可欠な検査だ。
「OCTの普及により、加齢黄斑変性はごく初期に診断できるようになりました。現在では、大学病院などではほぼ全て、開業医でも多くの施設でこの検査が受けられます」(小椋医師)
OCTにより加齢黄斑変性のタイプが判別できたら、光干渉断層血管撮影や、造影剤を入れておこなう蛍光眼底造影検査など、新生血管の状態をさらに詳しく調べるための検査をおこなう。
萎縮型は、定期的に経過を観察し、滲出型への変化がみられたら治療を開始する。喫煙習慣のある人は禁煙する、外出時はサングラスをかけるなど目に直接強い光が入らないようにする、ビタミンC、Eなどを含む栄養バランスの良い食事を心がけるなど、生活改善も大切だ。抗酸化作用のあるルテインなどのサプリメントを服用することもすすめられる。
■50歳を超えたら片目でチェックを
滲出型は、進行が速く、「ある日突然、新生血管から大出血して急激に視力が低下し、失明することもある」と飯田医師は話す。
「ただし、加齢黄斑変性による失明は、真っ暗になり何も見えなくなる失明ではありません。黄斑部が障害されると視力は低下しますが、網膜のほかの部分は正常なので、視野は確保されます。光は入りますし、まわりはぼんやり見えますが、文字が判読できないなど、肝心の見たいものは識別できないため、日常生活に支障が出ます。視力が0・1以下の、このような状態を“社会的失明”といいます」
このように放置すると失明のリスクがある病気だが、滲出型の加齢黄斑変性には治療法がある。2008年から、眼球に注射する「抗VEGF療法」という治療法が登場し、早期発見すれば病気の進行を抑え、視力を維持することが可能となった。「だからこそ、早期発見を目指してほしい」と両医師は口をそろえる。
「昔は良い治療法がなく不治の病と言われていましたが、今は診断技術も治療法も進歩し、早期発見・早期治療により失明を防ぐことができます。ただ、早期発見のためには見え方の変化に気づくしかないため、50歳を過ぎたら“片目でまっすぐなものを見る”習慣をつけることをおすすめします」(小椋医師)
(文・出村真理子)
≪取材協力≫
名古屋市立大学病院 眼科教授 小椋祐一郎医師
東京女子医科大学病院 眼科教授 飯田知弘医師
※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より
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