若い人の聞こえ<3>「慢性」の難聴 治療困難
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聞こえが悪くなるのは加齢のためばかりではない。東京都内の20歳代の男性が右耳に異変を感じたのは6月初め。耳鳴りがして音が聞こえない。以前も時々、耳鳴りがしたが、すぐに治まった。ところが今回は、なかなか良くならない。
異変を感じて3日後、近所の耳鼻咽喉科クリニックを受診した。診断は「音響外傷」。大音量などで聴覚器官が傷ついた状態だ。炎症を抑えるステロイド剤などが処方された。
男性は、デザインの仕事でコンピューターに向かって作業をする間、ヘッドホンで音楽を聞く習慣があった。音量は、外部の話し声が聞こえる程度だったが、1日8時間ほど耳につけていた。学生時代は10時間、休憩なしで音を聞き続けたこともあったという。この10年はゲームをする時もヘッドホンを使っていた。
「音楽を聞きながら仕事をする人は周囲に少なくない。友人も『最近、みんな難聴だね』と言っていた」と男性は話す。
音は鼓膜を経て、蝸牛 という器官の中の有毛細胞によって電気信号に換わる。この細胞は大きな音にさらされると傷つきやすい。
男性は治療を続け、約2週間で回復した。今は、音量を抑えてスピーカーで音楽を聞く。ヘッドホンはできるだけ使わず、使った後は耳を休めるように心がける。「長い間、耳を酷使してダメージが蓄積していたことがわかった。同世代の人にも、難聴のことをもっと知ってほしい」と言う。
難聴は短時間で損傷した「急性」なら治ることも多いが、長期間ダメージを受けた「慢性」の場合、現在の医学では治療が困難だ。治療した医師は「男性の話からは慢性が疑われたが、まだ急性の段階だったとみられる。異変を感じてからの対応も早かったので、回復した」と話す。
若い人の耳のトラブルに詳しい耳鼻咽喉科日本橋大河原クリニック(東京都中央区)院長の大河原大次さんは、「ライブをスピーカー前の大音量で楽しみ、その日から聞こえなくなる急性の症例は珍しくない。1週間以内に受診してほしい」と話す。
慢性はより深刻だ。「工場の騒音などによる『職業性難聴』は昔から知られてきた。今は携帯音楽プレーヤーやスマホがより身近な難聴の危険になっている」と大河原さんは指摘する。世界保健機関(WHO)は世界中で11億人の若者が難聴のリスクを抱えていると警鐘を鳴らす。
大河原さんは難聴対策として、静かな環境で耳の「休憩時間」を作ること、大音量から耳を守る耳栓の活用などを勧めている
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