娘が残した いつもの朝
2020/07/13 15:00
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午前7時、テレビの電源がひとりでに入った。
京都アニメーション放火殺人事件で犠牲になった石田奈央美さん(当時49歳)の部屋。「涼宮 ハルヒの憂鬱 」などで「色彩設計」を担当した。タイマーがセットされているテレビは、主のいなくなった今も、朝の訪れを告げている。
目覚まし代わりに使っていたのだろう。母親(79)は、テレビの音に「今頃起きていたんやな」と思う。セットされているタイマーに、娘の気配を感じる。あの日の朝、いつも通り見送った後ろ姿が忘れられない。赤い弁当箱も持っていた。「今も悲しい。もう死ぬまでこんな気持ちやと思います」
プロ養成塾の講師もつとめていた渡邊 美希子さん(当時35歳)の母親は、事件後、「娘を感じていたい」とポスターや絵を、家中に飾るようになった。幼い頃から絵が好きだった。絵の道に進むことは反対していたが、大学卒業後、その強い意志を尊重し、背中を押すことにした。「人が傷つけあわない優しい世界になってほしい」と願う。
「聖地」と呼ばれる作品にちなんだ場所。「けいおん!」の舞台とされる豊郷小学校旧校舎群(滋賀県豊郷町)や「氷菓」ゆかりの喫茶店「バグパイプ」(岐阜県高山市)では、黒板やノートに、訪れたファンが思いをつづる。6月22日の日付で、「氷菓」に寄せられたメッセージにこう書かれていた。「悲しい思い出を刻むことになってしまった事件ですが作品の輝きは永遠です」
36人が犠牲になった事件から、18日で1年を迎える。(写真と文 浜井孝幸)
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