2020年8月19日水曜日


 
撮影/写真部・東川哲也© AERA dot. 提供 撮影/写真部・東川哲也  新型コロナウイルスと最前線で対峙して数カ月。医療機関のほとんどがその影響を受け、疲弊している医療者も多い。AERAが実施した医師1335人への緊急アンケートや専門家、現場医師らへの取材から、苦境や課題が見えてきた。AERA 2020年8月24日号から。
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 新型コロナウイルスの感染者が、7月から全国で増え続けている。医療現場は、第1波とされる緊急事態宣言前後から現在にいたるまで、対応に追われるようになり、はや4カ月が経つ。
 AERAでは、7月下旬、医師専用のコミュニティーサイトを運営するメドピアの協力のもと、現役の医師1335人を対象にアンケートを実施した。内訳は、(1)感染患者を受け入れている医療機関の医師が約40%、(2)発熱外来などを設けている医療機関の医師が約28%、(3)非対応の医療機関の医師が約32%。新型コロナウイルスによる影響があったかとの問いには、全体の90%が「ある」と回答した。新型コロナウイルスに対応する(1)(2)の医師は、働き方や待遇・収入面での影響も、(3)の医師より多くあったと回答した。
医療体制に危機感を抱く医師も少なくない。埼玉医科大学総合医療センター(埼玉県川越市)では、4月中旬にコロナ専用病棟を新設した。感染症専門10人を含む医師12人体制で10床ほど、いざという時に備え32床を確保。7月中旬には3割から半分ほど埋まる状況だったが、県内では8月3日までの1週間に新規感染者が419人確認され、前週より110人増えた。連日の入院で満床に近いこともある。同センター感染症科教授の岡秀昭医師(45)はこう語る。
「少し前まで、確かに重症化リスクの低い、夜の仕事などに従事する20代の若い人が多かった。けれども最近は、重症化リスクのある40代・50代へとシフトしてきた印象です」
 国や自治体はこれまで幾度か、「医療体制は逼迫していない」とアナウンスしてきたが、それはそろそろ怪しくなってきた。
 新型コロナは一般的に1週間から10日で重症化するといわれる。報告される感染者数と重症者数にはタイムラグがある。
「いまは軽症者が多いですが、指定感染症である以上、彼らを病院に収容してただ観察している状態です。今後、軽症者で病床が埋まり、重症者が増えて入院できず、たらい回しになることが心配です」
 浜松医療センター(静岡県浜松市)の院長補佐で感染症内科部長の矢野邦夫医師(64)も、軽症者の入院の多さに危機感を持つ。同センターは感染症指定医療機関として感染患者を受け入れている。現在は、市内で7月に発生したクラスターの影響もあり、指定病床数6床を上回る患者を受け入れることもある。
「重症者が増えて本当に逼迫する前に、宿泊施設などに移動させておくべきです。季節が変わり、インフルエンザや寒さによる呼吸器系の患者で病床が埋まれば、コロナに備えてベッドを空けておくことはできなくなる。このままでは、冬には医療崩壊が起きると思います」(矢野医師)軽症者や無症状者をホテルや自宅療養にしてほしい、という訴えは医師アンケートでも複数見られた。特措法にのっとり、4月2日から各都道府県は宿泊施設を確保している。東京をはじめ首都圏、愛知、大阪などでは数百~数千室を確保するが、他の自治体では、感染者数の推移や病床を押さえているなどの理由で、確保にばらつきがある。
 新型コロナに対応することは、業務の負担増も意味する。医師アンケートでは、「休めない」「長時間労働が多くなった」などの声があがった。
 埼玉協同病院(埼玉県川口市)は、第1波のときは発熱外来と同時に、軽症者を中心として入院患者も6月上旬まで受け入れた。現在、入院業務は休止中だ。
 発熱外来では、4月と5月は週に数人の陽性者が出た。診察室のほか、屋外の陰圧テントで医師数人と看護師で回した。増田剛院長(59)は振り返る。
「保健所の紹介で、朝から夕方まで、感染疑いのある患者が断続的に来ました。中には『陰性証明を書いてくれ』『もしコロナだったら責任を取ってくれるのか』とすごむ人もいて、現場の大きなストレスでした」
 内科副部長の守谷能和医師(44)は言う。
「6月下旬に局面が変わり、夜の街の関係者や家族単位の感染疑いで外来に来るようになり、陽性率も上がりました。コロナ以外の日常の診療もしているので、仕事量は2倍です」
 夏風邪や熱中症など、発熱があり、新型コロナと似た症状のある患者が増えた。感染者増加に伴い、外来の在り方や入院の受け入れ体制といった今後の対応を検討中だ。
 疲弊しているのは医師だけではない。看護師の清水明子さん(51)は、感染患者に対応する都内の大学病院に勤めている。
「コロナ病棟に配属され、負担を強いられるのは、重症化リスクが低いとされる若いナースです。人員不足だから『休めない』と頑張りすぎてしまう」
 前出の埼玉協同病院で看護部長を務める見川葉子さん(57)は、「医師から指示を受け、実際にケアをするのは看護師。軽症者でも大変」と話す。
「毎回、防護服を着て病棟に入ります。患者さんに薬を渡し、食事を運び、売店で買い物をする。食事介助や、体を拭く。看護師が患者さんの一番近くにいて、密接せざるを得ないこともあります」(見川さん)
 患者の不安な気持ちはわかる。だが、自分たちにも感染への不安がある。
「感染を防ぐために数分しかそばにいられない。『もう行っちゃうの』と言う患者さんもいます」(同)
(編集部・小長光哲郎、ライター・井上有紀子)
※AERA 2020年8月24日号より抜粋

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