2020年8月19日水曜日

渡辺専門委員の「しあわせの歯科医療」
医療・健康・介護のコラム

定期検診を受けているのに歯周病が悪化した なぜ?

定期受診しているのに歯周病が悪化した なぜ?
武田朋子さん
 虫で痛みが出たり、歯周病でぐらぐら歯が揺れ始めたり、症状が出てからの歯科受診では、時すでに遅く、歯を守るためには症状が出る前の定期受診が大切――という予防歯科の知識が広がり、お口の健康管理を実践している方も増えています。また、国の健康増進目標のひとつにも、歯科検診者の増加が盛り込まれ、筆者も予防のための定期受診の必要性を繰り返し書いてきました。
 ところが、歯周病の専門医を取材して歩いていると、気になる話を耳にします。
「歯がぐらぐらして、かめなくなったと受診された患者さんですが、話を聞いてみると、10年間、予防のために3か月に1度歯科を受診していたと言うんですよ。検査をすると、歯茎の歯周ポケットの深さは6ミリを超える重度の歯周病でした」(二階堂歯科医院、東京・日本橋)
 「ここ5年ほど『歯周病が悪くなって』と、歯周病の専門医であることをネットで調べて来院される患者さんが増えているのですが、少なからぬ患者さんが、日頃、予防のために定期受診されているんです。それなのに歯周病を悪化させていて」(ともこデンタルクリニック、東京・下北沢)
 歯周病は成人が歯を失う最大の原因で、歯周病菌が血流に乗って全身に回ることで、糖尿病や循環器の病気など全身の病気に関係しています。そうした知識が広がって、健康管理のために歯科を定期受診しているのに、どうして歯周病を悪化させてしまうのでしょうか。

予防歯科と言いつつ、歯茎の検査をきちんとしていない

 「定期受診で歯はきれいにしているのですが、歯茎の中を診ていないケースがあるんです。歯茎のポケットの深さを測るプロービングやエックス線撮影で、歯を支える歯槽骨が溶けていないか、歯の根に歯石がついていないか診ないと、歯周病はわかりません」と、ともこデンタルクリニック院長の武田朋子さんは言います。
 虫歯と歯周病は、歯を失う2大疾患ですから、その歯周病をきちんと診ていない歯科医がいると言われても、にわかには信じがたいことですが、それが現実です。どうしてなのでしょうか。実は歯科医だからと言って、必ずしも歯周病の検査や治療に習熟しているとは限らないのです。

歯周病の自覚症状に気づいた時には手遅れかも

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 歯周病の検査と治療の基本をおさらいしておきましょう。歯周病は空気を嫌う細菌が歯茎の奥に入り込んで、歯茎に炎症を引き起こす病気です。その炎症のために歯を支える歯槽骨という骨が溶けていきます。すると、歯が支えられなくなりぐらぐら揺れ、やがて歯を失います。歯周病は一般に20歳を過ぎるころから少しずつ進んできます。しかし痛みはないので、歯が揺れたり、歯茎が明らかに腫れたりするまで自分では気づかないことも多いのです。
 症状を自覚した時にはかなり進行した状態ですが、検査をすれば早期から見つけることができます。プロービングという歯周ポケットの深さを測る検査とエックス線検査がそれです。エックス線検査で歯槽骨の減少が見られて、歯周ポケットの深さが4ミリ未満は「軽度」、4~6ミリは「中等度」、6ミリ以上は「重度」と分類されています。

歯周病治療には基本的な手順がある

 検査で歯周病が見つかると、基本治療が行われます。歯磨きやフロスがきちんとできていなければ、まずその指導から。お口の衛生は自分で取り組む日々の習慣が基本です。次に歯科医や歯科衛生士が、スケーリングとルートプレー二ングを行います。スケーリングとは、スケーラーという器具を使って歯石や 歯垢しこう を取り除くことで、ルートプレーニングは、歯茎の中に器具を入れて、歯石を取り除いて、根(ルート)を滑らかにする(プレーニング)治療です。歯の根をきれいにするには熟練が必要だとされています。
 中等度までの歯周病ならこれだけで改善し、歯茎が引き締まってくることが少なくありません。歯が揺れている場合は、隣の歯とくっつけて揺れを抑えるといった処置を歯科医が行うこともあります。歯周病の治療技術を身につけるには、こうした歯周治療の基本や治療によって病状が改善する経過を実践的に学ぶ機会が必要だと言います。すべての歯科医がこうした治療を経験しているわけではないのです。

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