8月19日 編集手帳
その絵は手元の文庫本の表紙にも、左下隅に小さくあしらわれている。岩波書店のシンボルマークは、画家ミレーの「種まく人」から像を借りたものである◆創業者の岩波茂雄が詩人ワーズワースの「低く暮らし、高く思う」から刺激を受けて、社の精神にしたいとの理念から選んだ。きのうの朝刊社会面(東京版)を見て書棚にマークのついた本を捜した。記事中の「種まく人」らと比べてみたくなったからだ◆海外から謎の種が送りつけられる事例が多発しているという。ヒマワリやコスモス、ネギの種が小袋に詰められていた。気味の悪さに閉口する◆狙いは不明だが、推論はある。通販サイトの評価を上げるため何者かが個人情報を入手し、購入者になりすましたとみられている。購入者は星の数を付けたり感想を書き込んだり、業者を評価する権利を持つ。何者かはおそらく販売元と組み、架空の注文をする。販売元はサイト管理者を欺くため何かを送らねばならず、安い種を商品に代えて送るらしい◆これほど手間をかけて何が実るのか、むなしい種まきである。「高く暮らし、低く思う」送り主だろう。
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