2020年8月19日水曜日

※写真はイメージです© PRESIDENT Online ※写真はイメージです 人はなぜ共通点が多いと仲良くなりやすいのか。心理学博士の榎本博明氏は、「心理学者ハイダーが提唱した『認知的バランス理論』で説明できる。人間関係は三者間の関係性で決まるという理論だ。巨人ファンと阪神ファンの対立も同じ理論で説明できる」という——。
郷里が一緒というだけでなぜか親しみを感じる
営業活動をうまくやっていくには、先方と趣味が同じとか、出身地が同じとか、共通の知人がいるとか、何らかの共通点があると有利だと言われますが、それには科学的な根拠があるのでしょうか?
共通点があると話が盛り上がるというのは、だれもが経験しているのではないでしょうか。取引先の担当者と趣味が同じだと話が盛り上がるし、実際に一緒にゴルフをしたり、野球観戦に行ったりする人もいます。郷里が同じということで話が盛り上がることもあります。出身校が同じとわかって、懐かしさが込み上げ、急に親しい雰囲気になるということもあります。
そうした経験から、営業活動を進める際に、相手先の担当者と趣味が同じ人物や出身地が近い人物、あるいは出身校が同じ人物を送り込むというような戦略がしばしば取られます。でも、経営者や管理職の中には、それがほんとうに効果的なのだろうかと疑問に思う人もいるようです。
ある経営者は、素朴な疑問を口にしました。「ウチでも相手先の担当者と出身地や出身校が同じ人物を営業に行かせたりしてきましたけど、ときどき不思議に思うんですよ。だって、同じ県出身とかいっても、いろんな人がいるじゃないですか。気の合う人から気の合わない人まで。同じ学校にだって、嫌なヤツもいたじゃないですか。それなのに、出身地が一緒とか出身校が一緒だといって、気を許したり親しみを感じたりするもんですかね」
それはもっともな言い分です。でも、共通点があると交渉事がうまく進行しやすいというのは事実なのです。ここからわかるのは、人間というのはよく考えて反応しているわけではなく、反射的に動いてしまうものだということです。
では、そこにはどのような心理法則が働いているのかをみていきましょう。

人間関係は三者間の関係性で決まる

この問題をうまく説明してくれるのが、心理学者ハイダーの認知的バランス理論です。
図表1の三角形で、P‒O‒Xの三者間の符号を掛け合わせて「+」になれば、その三者関係は均衡状態にあり、そのまま安定するとみなされます。しかし、それが「-」だと、その三者関係は不均衡状態にあるとみなされ、不快感など心理的緊張が生じるため、何とかして均衡状態、つまり積が「+」になるようにどこかの符号を変化させようという動きが生じます。
Pは本人、Oは相手を意味します。Xには、人物、モノ、価値観、趣味、ひいきのチーム、郷里、出身校など、さまざまなものを想定することができます。
符号の「+」は「好き」とか「懐かしい」「思い入れがある」「傾倒している」など、肯定的な関係・感情を意味します。「-」は「嫌い」とか「思い出したくない」「気に入らない」「関心がない」など、否定的な関係・感情を意味します。

巨人ファンと阪神ファンの対立もこの理論で説明できる

たとえば、Pが巨人ファンで、Oも巨人ファンだとします。それは、図表の①でXに巨人を置いたケースに相当し、PとX、OとXの関係は「+」なので、3つの符号の積が「+」になるためには、PとOの関係が「+」になる必要があります。そこで、PとOは良好な間柄になりやすい、ということになります。
ところが、Pが巨人ファンで、Oは阪神ファンなので巨人が嫌いだとします。それは、図表の④でXに巨人を置いたケースに相当し、PとXの関係は「+」、OとXの関係は「-」なので、3つの積が「+」になるためには、PとOの関係は「-」になる必要があります。「-」を偶数個掛け合わせれば「+」になるからです。そこで、PとOは仲が悪くなりやすい、あるいは疎遠になりやすい、ということになります。
ゴルフが趣味の人同士が親しくなる心理も、出身地や出身校が共通の人同士が親しくなる心理も、同様にこの図表の①で説明することができます。ただし、出身地や出身校に対して否定的な感情を抱いている場合は、その出身地や出身校の人物を避けようとする心理が働くので、図表の①でなく⑤のような構図となり、これでは不快感が生じたりするため、OがPを避けるようになったり表面的な関係にとどめようとするようになったりして、④の構図に落ち着くことになります。

日常の人間関係もこの原理で動く

趣味や出身地が共通というようなケースだけでなく、Xに第三者を置くこともできます。そうすることで、日常の人間関係の動きの説明がつくことがあります。
たとえば、PはXさんに好意的で、Oとも仲良くつき合っているとします。何かのきっかけでXさんのことが話題に出て、OはXさんのことを嫌っているのがわかったとします。これは図表の⑤の構図に相当します。
このままでは3つの符号の積が「-」であるため、これを「+」にもっていくべく、PはXさんの良いところを話し、OはXさんのことを誤解しているのだと言います。その結果、Oさんが納得し、自分はXさんのことを誤解していたと言い出せば、図表の①の構図となり、みんな仲良くなり、三者関係は安定します。あるいは、OがXさんの悪いところを話し、PはXさんに騙されているのだと説明し、Pも納得し、Xさんを見損なったと言い出せば、図表の②の構図となり、Xを排除した形で三者関係は安定します。
ところが、PもOも譲らない場合は、図表の④の構図となり、PとOが決裂するといった形に三者関係は落ち着きます。
ときに職場の仲間のことを中傷する人がいたり、悪い噂が流れることがあったりしますが、そこにはこの図表の積が「-」の関係を「+」の関係にもっていこうとする何者かの意図が働いていたりします。ややこしい人間関係に振り回されないためにも、この図表を念頭に置いておくと便利です。
---------- 榎本 博明(えのもと・ ひろあき) 心理学博士 МP人間科学研究所代表。1955年、東京都生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。『〈ほんとうの自分〉のつくり方』(講談社現代新書)『50歳からのむなしさの心理学』(朝日新書)『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)など著書多数。 ----------

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