2020年8月19日水曜日

JTは、紙巻きたばこに近い吸い応えを訴求した新製品を7月に投入した(記者撮影)© 東洋経済オンライン JTは、紙巻きたばこに近い吸い応えを訴求した新製品を7月に投入した(記者撮影)
新型コロナは人々の喫煙習慣にも影響を及ぼした。外出自粛によって職場や飲食店での喫煙機会が減少。その一方で、火を使わず臭いも少ない加熱式たばこのニーズが高まった。
そのような変化を肌で感じているのが、日本たばこ産業(JT)の寺畠正道社長だ。JTは紙巻きたばこで世界シェア4位、日本国内ではシェア1位を誇るが、加熱式たばこの国内シェアはわずかに1割程度。「アイコス」のフィリップ・モリス・インターナショナルや、「グロー」のブリティッシュ・アメリカン・タバコの後塵を拝している。
今後のたばこ市場にどう向き合っていくのか。2020年1月からたばこ事業本部長を兼任し、自ら新商品の開発にも携わる寺畠正道社長を直撃した(取材はオンラインで行った)。

停滞する新興国のたばこ販売

――JTの利益の過半を占めるのが海外です。コロナ禍で海外の市場動向は変わったのですか。
 先進国と新興国で傾向が分かれた。欧米などの先進国ではたばこの販売数量が総じて堅調だった。国内需要が高まった国もある。例えば、たばこの税率が高いイギリスでは、(自国より税率の低い)スペインやフランスでたばこをまとめ買いする消費行動があったが、ほかの地域に移動することが難しくなったので国内で買うようになった。
 逆に新興国では、所得の減少や将来不安が生まれたことにより、たばこの販売数量も停滞した。先進国と差が出た理由は、政府による国民への迅速な支援だ。日本でも(国民1人に)10万円を給付する特別定額給付金があったが、そのような支援が欧米諸国では割と早めに行われた。それが消費や生活に対する不安を取り除く要因になり、たばこの購入にも影響を与えた。
 ――日本国内の市場はどういう状況ですか。
 緊急事態宣言を受けて人が移動せず、外出しなくなった影響が短期的には大きく出た。コロナ禍以前は会社の喫煙所や飲食店などで喫煙していた。
 だが、緊急事態宣言下では会社に行かない。飲食店にも行かない。公共の喫煙場所もほとんどが閉鎖された。喫煙場所が家の中か家の周りに限定された。
 国内に関していうと、6月には期初に計画した通りの数字に戻っている。もちろんコロナの影響がいつまで続くのかは分析しきれない。ワクチンができあがっても世界中に行き渡るまでの時間を考えると、新興国などは需要が回復するまでに2~3年かかることも覚悟しておかなければいけない。
 ただ需要は底堅く、コロナによって劇的に喫煙の機会が減少したとは言えない。コロナ禍は生活スタイルに大きな変化を与えると言われるが、たばこがまったく吸われなくなる世界がやってくるとは思っていない。

10月の「50円値上げ」にどう挑む?

――10月のたばこ税増税にあわせた値上げで、1箱500円を超える商品も登場します。コロナ禍で消費者の財布の紐が締まっている中で値上げは受け入れられるでしょうか。
 平均50円程度の値上げを行う予定となっている。当社の立場からすると、国内の利益の安定化をしっかり図っていく必要がある。
 価格が上がることで販売数量が落ちるなどのネガティブな影響はあると見ている。より低い価格の商品へと流れていく動きも起きるだろう。それに対する受け皿として「リトルシガー」(作り方の違いから紙巻きたばこよりも税率が抑えられるたばこ)という低価格商品を用意している。全体の売り上げが大きく減少するとは思っていない。
 可処分所得に対する紙巻きたばこの価格を各国で比較すると、1箱1500円が平均的なイギリスなどと比べて日本はまだ低い水準にある。だから価格を上げてよいという話ではないが、純粋に単価だけを比べるとまだ低いとも言える。
 一方、加熱式たばこのユーザーは、支払いをキャッシュレスで行うことが多い。一般的にキャッシュレス決済では、価格が多少上がっても購入を続ける傾向があるとされる。
 また、加熱式たばこはデバイス本体(加熱するための電子機器)に1万円ほどかかることもある。デバイスを買ったうえで交換式のスティックを購入することになるので、紙巻きに比べると初期投資が大きい。少し価格が上がったとしても購入し続ける傾向が強い商品だとみている。

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