2020年8月6日木曜日

Photo:PIXTA© ダイヤモンド・オンライン 提供 Photo:PIXTA「手取り収入の計算オタク」のファイナンシャルプランナー(FP)である筆者が、老後の手取り収入をアップさせるためのコツを伝授する。今回は、65歳以上でかかる介護保険料を減らす3つのコツを駆使して、年金生活における手取り収入をアップする方法をお伝えしたい。(株式会社生活設計塾クルー ファイナンシャルプランナー 深田晶恵)

年金生活に入れば

社会保険料を減らすことが可能!

 私は「手取り計算」をするのが大好きで、ファイナンシャルプランナー(FP)として毎年のライフワークとしている。手取り収入とは、額面の収入から税金と社会保険料を引いたもの。つまり、税金と社会保険料の負担が増えると、額面収入が同じであったとしても、手取り収入は減る。

 不安のない生活設計を立てるためにも、自分の手取り収入を知ることは欠かせないことであり、税金と社会保険料の動向には関心を持ちたい。

 新型コロナウイルス対策を盛り込んだ第2次補正予算は、31兆9114億円。政府は国債を発行して財源を捻出する予定だが、われわれは将来的な増税を免れないだろう。

 一方、社会保険料は少子高齢化の影響により、コロナに関係なく毎年少しずつの負担増が始まっている。「厚生年金、健康保険、介護保険」に持っていかれるお金は3大保険料と言われるが、特に健康保険と介護保険は高齢者への給付が増えていることから負担アップは今後も続く。

 現役世代の会社員の場合、社会保険料は給与に対して一定率でかかり、給与から天引きされるため、保険料を減らして手取りを増やすことは難しい。「手取りが減っているなぁ」と感じながらも、社会保険料について大きな関心を持てないのは、負担を減らす「対策」を取れないからなのだろう。

 しかし、リタイアして自治体の社会保険(国民健康保険、介護保険)に加入すると、やり方次第で保険料を減らすことが可能だ。そのやり方を知っているかどうか、実行するかどうかで、年金の手取り収入は変わってくる。今回は、65歳以上でかかる介護保険料を減らすコツを見てみよう。

 自分や配偶者のケースのみならず、高齢の親のケースも紹介する。

同居の子と世帯を分けるのが

親の介護保険料を減らすコツ

 高齢の親の介護保険料を減らすコツから見ていこう。

 国民年金のみ、または遺族年金で暮らしているなど、年金収入の少ない親が子世帯と同居している場合、「世帯を分ける」ことで、親の介護保険料を安くすることができる。

 最近、近くに住む義母の姉が老衰により98歳で亡くなった。お焼香に行った際、役所でのさまざまな手続きの話題になり、窓口で「世帯は別のままにするといいですねと言われたけど、どんなメリットがあるのかしら」と聞かれた。

 ズバリ、介護保険料が安くなることがメリットである。

 亡くなったおばあさんの同居家族は、長男(すでに他界)の妻(S子さん、69歳)と、孫のM男さん(30代・会社員、S子さんの長男)一家(妻と子1人)の4人。

 おばあさんが存命の間、おばあさんとS子さんが同一世帯で、M男さん一家とは住民票が別だった。

 S子さんの収入は主に夫の遺族年金であり、住民税は非課税。なので、S子さん1人の世帯にすると、介護保険料は安くなる。しかしM男さんと同一世帯になると、S子さんの介護保険料の計算上、M男さんの収入が影響し、保険料は高くなる。

 以下は、東京都大田区の介護保険料の例だ。

◆S子さんが1人世帯の場合

→S子さんの介護保険料は年1万8000円(第1段階)

◆S子さん+M男さん一家が同一世帯の場合

→S子さんの介護保険料は年6万1200円(第4段階)

 なんと、年間4万3200円もの違いだ。介護保険料は公的年金から天引きされるので、世帯を別にすることでS子さんの手取り収入は増える。まさに「知らなきゃ損」である。

介護保険料の負担額は

同一世帯の家族の所得で上下

 65歳以上の人が負担する介護保険の保険料は何段階にも細かく区分され、本人の所得のみならず、同一世帯の家族の所得も反映される。

 大田区を例に保険料の区分を見てみよう。

 S子さんが1人世帯なら保険料区分は第1段階だが、息子と同一世帯になると4段階になり、介護保険料は高くなる仕組みだ。

 ちなみにわが家は、夫の両親と同居の4人家族。20年前に同居を始める際に、同一世帯にせずに2世帯のまま引っ越しをした。義両親の収入は国民年金のみなので保険料区分は「第1区分」。仮に私たち夫婦と同一世帯になると、「第4区分」となり、両親2人分で年8万6400円の負担増となる。大きな差だ。

 親と同居している人は、世帯を別にすることを検討してみてもいいだろう。介護保険のサービスを利用する際にも自己負担額が軽減する場合がある。

 注意したいのは、親も子も国民健康保険に加入している場合は、同一世帯にした方が世帯の健康保険料が安くなるケースもあること。各自治体のモームページに国保の保険料試算のページがあるので、事前に計算した上で判断しよう。

年金収入を増やすことは

メリットばかりではない理由

 65歳以降の介護保険料を減らすコツの2つ目は、「年金収入を増やし過ぎないこと」である。

 多くの人は年金収入が多ければ多いほどいいと思っているが、実は年金収入は増えるほど手取り率は下がるため、いいことばかりではない。

 公的年金・企業年金・個人年金など「年金」は、雑所得として毎年所得税・住民税が課税され、さらに自治体の国民健康保険と介護保険の保険料を計算する際の基になる。つまり、年金収入の雑所得が多くなるほど、税金と社会保険料の負担が増え、手取り収入を圧迫するのである。

 勤務先の退職金制度が一時金と年金受け取りを選択できるのであれば、一時金を優先したい。退職金の一時金受け取りの税金は、勤続年数に応じた非課税の枠が多く、給与など他の所得と合わせて課税しない「分離課税」。納税者にとって有利な課税方法なのだ。

 さらに、退職金の一時金受け取りには社会保険料が一切かからない。勤務先が企業年金を年率1~2%で運用してくれたとしても、ほとんどのケースで一時金受け取りの方が手取り額は多くなる。詳しくは、当コラムの『退職金の受け取りは「一時金」と「年金」どちらがトクか』の記事を参照してほしい。

 65歳以降、公的年金(老齢厚生年金+老齢基礎年金)収入のみと、退職金を年金受け取りにした場合の介護保険料の比較は次の通り(2020年度の東京都大田区の例)。

(1)公的年金220万円のみ→介護保険料は年7万9200円(第6段階)

(2)公的年金220万円+退職金の年金受け取り220万円

→介護保険料は年12万9600円(第10段階)

(2)に加え、バブル時期に契約した予定利率の高いお宝個人年金もあると、どうなるか。個人年金は年120万円、雑所得は60万円とする。

→介護保険料は年13万6800円(第11段階)

 今回は介護保険料を減らすコツに焦点を当てているので、介護保険料のみ記載したが、実際には年金収入の雑所得が増えると、所得税、住民税、国民健康保険料もアップすることを覚えておきたい。

 退職金は、非課税の枠(退職所得控除)は使い切って一時金受け取りを優先するのが手取りを増やすコツだ。ただ、一部分を年金受け取りしたい人もいるだろう。その場合は、受け取り期間を長くして、毎年の雑所得を少なくするのも1つの手だ。

 また、公的年金の繰り下げ受給をすると年金額が増えるので「ぜひやりたい」と考えている人が多いが、その際にもちょっとしたコツがある。70歳以降に繰り下げるなら、退職金の年金受け取りは69歳までとするなど、毎年の雑所得が多くならないように全体に目配りしよう。これが3つ目のコツだ。

愛知県豊田市と北海道猿払村は

お金持ちに優しい自治体?

 最後に、今回いろいろ調べている中で、「手取り計算オタク」の私の関心を引いたこぼれ話を紹介したい。

 介護保険料は自治体によってそれぞれ異なるが、私が住んでいる大田区の保険料水準は他と比べてどうなのか気になったので、ちょっと調べてみた。

 お金持ちの住民が多く、人口も多い世田谷区と、当コラムで昨年7月に書いた『「年金手取り額が少ない」都道府県庁所在地ランキング、住む場所でこんなに違った!』の記事にある、愛知県豊田市(日本一の企業城下町!)、北海道猿払村(所得の高いホタテ漁師が多い)の4つを比較した。

 豊田市と猿払村は日本有数の「お金持ち自治体」で、国民健康保険料と介護保険料が安いのだ。

 公的年金収入+αで暮らす普通の年金生活者(第5~9段階)なら、多少のばらつきはあるが、大きな金額の差はない。興味深いのは、最高段階の設定とその保険料である。

 大田区と世田谷区は第17段階まであり、細かく区分され、少しずつ保険料がアップしていく。最高段階の所得金額は、大田区が2500万円以上、世田谷区は3500万円でやっと打ち止めになる。保険料は大田区が約24.5万円、世田谷区が約32.5万円。なかなかの負担だ。

 一方、豊田市の最高段階は第11段階まで、合計所得は800万円以上で保険料約14万円。猿払村に至っては、第9段階、合計所得は300万円で保険料は約14万円で打ち止めとなる。豊田市と猿払村は、お金持ちに優しい自治体ということが分かった。

 65歳以上の会社経営者や自営業で高所得の人は、豊田市や猿払村に転居し、リモート経営するのもいいかもしれない。

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